2018年11月06日 09:42 弁護士ドットコム
いつもは夫からのDVに耐え忍んでいた妻が反撃。弁護士ドットコムに寄せられた女性からの相談です。女性はこれまで夫からのDVに怯えながら暮らしてきましたが、ある日、夫が赤ちゃんを人質に取り、「近寄ると殺すぞ」といって女性を突き飛ばしたり、大声を上げたりしたそうです。
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女性は赤ちゃんを守りたい一心で反撃。夫の体を殴り、胸ぐらも掴みました。その結果、夫は首や腕をケガしていると訴えているそうです。女性は、夫への反撃が「DV」になるのか、それとも「正当防衛」になるのか、心配しています。法的にはどのように判断されるのでしょうか。長瀬恵利子弁護士に聞きました。
夫からのDVに妻が反撃した場合、正当防衛と妻からのDVとを線引きするポイントは?
「妻の反撃が正当防衛になるかDVにあたるかは、妻の行為の違法性が否定されるか否かという問題です。
違法性が否定されるためには、大きく分けて、(1)相手の行為が不法行為に該当すること、(2)自己又は第三者の権利・利益の防衛のためやむをえず行った行為であること、という要件を充たす必要があります。
今回の事例で言うと、夫は、赤ちゃんを人質に取って『近寄ると殺すぞ』と述べ、大声を上げている点で脅迫行為、妻を突き飛ばしている点で暴行行為をしています。これは、刑事上も脅迫罪や暴行罪に該当しうるような行為で、妻に対する不法行為、または、赤ちゃんに対する不法行為に該当しますので、(1)が認められることは明らかです。
また、妻は赤ちゃんを守るために反撃に出ていますから、(2)も認められそうです。ただし、反撃によって侵害した権利・利益が、守ろうとした権利・利益と同程度か小さいと言えなければ、必要以上に加害行為をしていることになり、『防衛のための行為』として認められません。そのため、妻の反撃によって生じたケガがあまりにも重症であれば、妻の行為の違法性が否定されず、正当防衛と認定することが難しい場合もあります」
もしも夫婦が離婚して親権を争う場合、このケースで妻の不利になる可能性はありますか?
「夫婦が互いに対してどのような対応をしていたかという問題と、夫婦のどちらが親権者として相応しいかという問題は別です。
そのため、仮に、このケースで妻の反撃が正当防衛に当たらないと認定されたとしても、直ちに親権者として相応しくないということはできません。前者は、離婚事由が存在するか否か、または、夫婦間で慰謝料が発生するかという争点に関して検討されるべきものですが、後者は、夫婦それぞれと子どもとの関係を検討するものだからです。
親権争いにおいて、このケースの妻が不利になる場合としては、これ以外にも日常的に夫に対するDVが認められ、その暴力性が赤ちゃんにも及ぶ危険性があるような場合などが考えられます。逆に、暴力の程度にもよりますが、妻から夫に対する暴力がこの1回のみしか認められないような場合は、親権争いにはほとんど影響しないと言ってよいでしょう。
また、このケースでは、夫が赤ちゃんを人質に取って脅迫している点で、夫の子どもへの対応が相当でないことがうかがえます。その点は、親権争いにおいて、夫に不利な事情となります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
長瀬 恵利子(ながせ・えりこ)弁護士
東京弁護士会所属。得意分野は、離婚、遺言・相続、労働問題、その他一般民事。
事務所名:弁護士法人遠藤綜合法律事務所
事務所URL:https://www.endo-law.jp/