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出版業界に新たなビジネスチャンス? ストリーミングで活性化するオーディオブック市場

2018年11月06日 09:02  リアルサウンド

リアルサウンド

 タクシー車内に用意されたタブレットでオーディオブックを体験できる新たなサービス「本のない図書館タクシー」が話題になっている。このサービスは、”本が聴ける”オーディオブックを配信する「audiobook.jp」の運営元オトバンクと、東京最大手のタクシー会社、日本交通がコラボレーションしたものだ。「本のない図書館タクシー」は、出版不況が叫ばれる業界への起爆剤として期待されている。


(関連:“本を聴く”時代がやってきた? 大人の読み聞かせ「オーディオブック」で読書体験が変わる


 「本のない図書館タクシー」の運行エリアは、東京23区と武蔵野市、三鷹市のみ。10月29日から11月11日までの期間限定で運行している。キャンペーン中であれば、専用ウェブサイトからの事前予約に限り、10km以内のタクシー運賃と予約料金、迎車料金は無料だ。「本のない図書館タクシー」として、期間中に可動しているタクシーは3台。「本のない図書館タクシー」のロゴがサイドドアに描かれ、ひと目でそれとわかるカラフルなデザインになっている。


 ”本が聴ける”オーディオブックのいちばんの魅力は、時間を効率化し、耳だけで”ながら読書”ができることだ。これまで、タクシー内では、乗務員と世間話をしたり、カーラジオを聴いていたりして、移動時間を過ごしていたという方が大半だろう。タクシーの平均乗車時間は約18分。「本のない図書館タクシー」は、タクシーの移動というスキマ時間を有効活用したサービスといえる。


 オーディオブックは、最近出てきた音声コンテンツではない。1980年代には、新潮社が1985年に発売した新潮カセットブックが流行した。その後、媒体はカセットテープからCDへと変わり、現在ではサブスクリプションでの視聴が一般的となりつつある。ユーザー側も、スマートフォンが主流となった。現在、日本のオーディオブックを提供している主なサービスは次の通りである。


 まずは今回「本のない図書館タクシー」を仕掛けた「audiobook.jp」。オトバンクが運営する、日本最大のオーディオブック配信サービスだ。配信スタートは2007年と、実は業界内では老舗でもある。2018年3月には、前身の「FeBe」から「audiobook.jp」へとリニューアル。月額750円のサブスクリプションサービスを追加し、現在約25,000本のコンテンツを配信している。アプリはiOS、Androidに対応。PCからダウンロードし、iTunesなどの再生ソフトで楽しむこともできる。


 Amazon傘下の「Audible」も注目したいサービスだ。海外と国内のコンテンツを合わせ、約40万以上のタイトルを提供している。月額1,500円のサブスクリプション型サービスを、2015年から提供している。今年、8月にはサービスを一新。月額会員には、オーディオブックと交換できる「コイン」が毎月1つもらえるように変更された。また、会員以外でも単品購入が可能となった。アプリはiOS、Android、Windows10の3種類に対応。PCサイトではストリーミング再生として楽しめる。


 その他には、『銀河英雄伝説』、『アルスラーン戦記』、『グインサーガ』などのオーディオブックを提供する「kikubon」、作家・学者・落語、講談、朗読などのオーディオブックを定額で聴き放題できる「LisBo」などがある。また、新潮カセットブックは、「新潮CD」として、現在も音声コンテンツを販売している。


 この数年、日本でのオーディオブック市場は活気を増してきた。世界に目を向けてみると、オーディオブック市場は好調である。カナダの出版団体「BookNet Canada」が発表した「State of Digital Publishing in Canada 2017」によると、カナダ国内出版社の61%がオーディオブックを制作しているという。また、イギリスでは、「Audible UK」の2017年の売上が前年比45%増の9700万ポンド(約142億円)に達した。


 スマートフォンやスマートスピーカーの普及にともない、現代人の生活は大きく変化した。”本が聴ける”オーディオブックは、ストリーミングでさらに身近なものになり、そんな現代人に新しい読書の形を提供している。「本のない図書館タクシー」を皮切りに、次々とオーディオブックの新しいサービスが登場してくる可能性は少なくないだろう。出版業界にとっては、久々に到来したビジネスチャンスといえるかもしれない。


(吉川敦)