トップへ

amazarashiが示す、自由を取り戻す戦いへの決意 「リビングデッド」MVと歌詞から紐解く

2018年11月05日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 自身初の武道館でのワンマン公演となる『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』の開催を11月16日に控えるamazarashi。彼らの最新シングル曲「リビングデッド」のMVが公開された。


(関連:amazarashi「リビングデッド」MV


 すでに専用アプリにて公開された1~3章からなる書き下ろし小説にも書かれていた通り、今回の『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』は、言葉を取り締まり、テンプレート言語を広める集団「新言語秩序」と、それに抗い、自由な言葉の力を信じる「言葉ゾンビ」との対立をテーマにした公演になっている。そしてこの「リビングデッド」は、amazarashiが「言葉の可能性を信じる=言葉ゾンビ」側の存在であることを、力強く宣言するような楽曲だ。


 今回のMVでは、「新言語秩序」による検閲済みのものが公開される形式が取られており、専用アプリ内でその検閲を解除すると、本来の楽曲/MVが閲覧できる仕組みになっている。まず、検閲済みのMVは、ジャミングされてほぼ像をなさない映像に乗せて「どこまでも続く道」「同じ空の下」など、ポップソングで使われがちなありふれた言葉ばかりが並び、おおよそamazarashiのMVとは思えないものになっている。また、演奏や歌も検閲されており、途中かすかに「くそくらえ」と声が聞こえるものの、何を演奏しているのか、何を歌っているのかもまったく分からない。MVの最後に印象的に表示される「あなたの人生は希望に満ちている」という言葉も、おおよそamazarashiらしいとは言い難いものだ。つまり、本来の「リビングデッド」のMVが、「新言語秩序」によって検閲されて別の映像に変えられてしまう様子が、ありありと伝わるものになっている。そして、そのMVを専用アプリ内で検閲解除すると、まったく異なる光景が現われるのだ。


 検閲解除後のMVでは、防犯カメラに映った生々しい質感の映像で「新言語秩序」が“テンプレート逸脱楽曲”をインターネットで拡散した人物を拉致する様子が描かれ、個室に閉じ込められた人物がヘッドギアから“テンプレート言語”を脳内に送り込まれ、“再教育”される様子が映し出される。検閲済みバージョンに登場した「あなたの人生は希望に満ちている」という歌詞は、この“再教育”中に「新言語秩序」の人間が繰り返し再教育対象者に聞かせる言葉だ。また、そうして徐々に言葉の自由を奪われていく人物が血を吐きながらもがき苦しむ様子は、検閲を示す黒塗りをあしらったテープが人を縛りつけていく映像でも間接的に表現され、そのテープはやがて全身を締め付け、人の自由を奪い去る。その様子は教育というより拷問のようで、思わず目を背けたくなるような、衝撃的な映像が広がっている。


 また、検閲を解除することで初めて明らかになる楽曲は、ハンマービートを思わせる規則的なリズムやきしむようなギター、ストリングスなどが印象的なインダストリアルな質感のサウンドが特徴的で、『新言語秩序』のディストピア的な世界観が音で見事に表現されている。そのうえで歌われる秋田ひろむの歌は、〈報われない願いをくべろ/叶わなかった夢をくべろ/遂げられない恨みをくべろ/死にきれなかった夜をくべろ〉と言葉ゾンビたちを鼓舞し、言葉の自由を取り戻す戦いへの強い決意を感じさせるものだ。MVの途中には秋田ひろむ本人と思しき人物が「新言語秩序」の再教育に抗う姿も収められており、終盤、すべての音が一瞬止まって彼が「くそくらえ」と告げるシーンも強烈なインパクトを与えてくれる。そうした全編を経て〈死にきれぬ人らよ歌え〉と高らかに歌われるラストの歌詞は、リスナーにこの戦いに参加することをうながすamazarashiからの抵抗のメッセージだろう。加えて、『リビングデッド』に収録予定の他の2曲もまた、今回の公演の重要なカギになる楽曲であるため、11月7日のリリース日にも注目していただきたい。


 今回同時にアプリ内で公開された「リビングデッド」の歌詞は、検閲解除前の状態では歌詞の言葉だけでなくアーティスト名/作詞・作曲者までが黒く塗りつぶされているが、この検閲を解除すると、「amazarashi」「秋田ひろむ」という文字が現われる。つまり、amazarashiは『新言語秩序』の世界において検閲対象となる存在で、今回の新曲「リビングデッド」は、そうした検閲に正面切って抵抗するamazarashiが、自由を取り戻す戦いの狼煙を上げるような楽曲になっている。


 11月16日に迫る『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』までには、アプリなどを通じてまだまだ新たな情報が公開される。また、11月10日にはこのプロジェクトの一環として、秋田ひろむがセレクトしたamazarashiの楽曲のフレーズが背面にデザインされたすべて1点もので全101種用意される“着れる歌詞”「101 Wearable Lyrics」や、プロジェクトのキーメッセージである「言葉を取り戻せ」をデザインしたマスク「New Logos Order Mask」など様々なアイテムが揃うシークレットゲリラショップもオープン予定。「101 Wearable Lyrics」の「101」とは、今回のプロジェクトにおいて秋田ひろむが影響を受けたジョージ・オーウェルの小説『1984』に登場する洗脳部屋「101号室」から取られており、「リビングデッド」のMVや今回のプロジェクトにつながる重要なモチーフのひとつとなっている。場所の詳細は専用アプリ『新言語秩序』を通じて11月6日に発表されるという。ついに物語を巡る様々な要素が音を立てて動き出した今、今後の動向にもますます目が離せなさそうだ。(杉山 仁)