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YUIMETAL脱退のBABYMETAL、ユニットの変化と彼女の存在意義を追う

2018年11月05日 17:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年10月19日。芸能事務所・アミューズの公式サイトで、3人組のメタルダンスユニット・BABYMETALからYUIMETALが脱退することが発表された。本人からの文面自体は彼女の“世をしのぶ仮の姿”であった水野由結としての声明となったが、ステージの中央に凛としてたたずむSU-METAL、両脇で天使のように駆け回る彼女とMOAMETALという絶対的だと思われたトライアングルが失われることに、ファンの間では大きな動揺が広がった。


 正式に新体制を表明したユニットは、同月23日の幕張メッセ・イベントホール公演を皮切りに、さいたまスーパーアリーナや神戸ワールド記念ホールを巡った『BABYMETAL WORLD TOUR 2018 in JAPAN』を開催。今年5月にアメリカ・カンザスシティから始まった、彼女たちの道標となる物語「メタル・レジスタンス」の第7章にあたる活動として、「DARK SIDE」をテーマにメンバーと5名のダンサー、そして、演奏でステージに華を添える神バンドという編成で日本へと凱旋した。


 2017年12月の広島グリーンアリーナ公演でYUIMETALが休演してから約11カ月。結成9年目にしてユニットが大きく舵を切り始めた今、改めてBABYMETALの変化とユニットにおける彼女の存在意義に迫っていきたい。


(関連:BABYMETAL、YUIMETAL脱退後の行方は? グループの“アイドル性”担った功績を振り返る


■YUIMETAL脱退までの“空白”の11カ月間


 はじめに、YUIMETALが脱退するまでの主な経緯を時系列として整理していきたい。彼女がステージに姿を見せなくなったのは、2017年12月2~3日にかけて広島グリーンアリーナで行われた『LEGEND – S – 洗礼の儀 -』からだった。同月20日をもって成人を迎えたSU-METALこと中元すず香の生誕を記念し、さらに、BABYMETALとして彼女が初めて故郷・広島へ凱旋した公演である。


 国内外の遠征組など多くのファンが期待を募らせるなか、YUIMETALの休演が伝えられたのは開催直前だった。公式サイトによると、一時は中止が検討されたものの「YUIMETAL自身が強く公演の開催を願っている」ということから予定通り開催する経緯になったことが明かされているが、両日ともにSU-METALとMOAMETAL、神バンドというユニットにとっては変則的な編成で敢行されることになった。


 そして、年が明けてからの2018年1月9日。YUIMETALの身を案じる声がいまだ絶えない中で、BABYMETALを愛するファンにとって衝撃的なニュースが飛び込んできた。神バンドのメンバーであり“小神様”として親しまれていた、ギタリスト・藤岡幹大の急逝である。


 ユニットの“あるべき姿”が崩れてしまうのか。相次ぐ喪失感をおぼえるファンたちが一抹の不安を抱える中で、活動の軸となる年内で初めてのツアー『BABYMETAL WORLD TOUR 2018』の日程がメンバーズサイト「THE ONE」を皮切りに発表されたのは、2月下旬のことだった。


 しかし、当時はまだYUIMETALの去就が不透明なままで、再びステージに上がることを願うファンの声が虚しくもこだまするだけだった。その後、ユニットの先行きに不安をおぼえる声が聞かれる中で、ユニットの新たな形が提示されたのは5月2日。第7章にあたる「メタル・レジスタンス」のコンセプトが公式サイトで発表された。


 従来、衣装にみられた赤と黒、銀を基調色としたイメージが一新され、ビジュアルは2ndアルバム『METAL RESISTANCE』のジャケットを彷彿とさせるような黒と金に統一。顔を隠しながら黒装束をまとった「THE CHOSEN SEVEN(7人の勇者たち)」のビジュアルと共に、これまでの3人の活動を「LITE SIDE」と称した上でのカウンター的な位置付けにあたる外典「DARK SIDE」へ進むことが示唆された。


 さらに、同月7日にはYouTube上で新曲「Distortion」のMVを突如として公開。アメリカ・カンザスシティでの公演を皮切りに翌日から始まった『BABYMETAL WORLD TOUR 2018』では、ヨーロッパも含む全14都市で単独公演や大規模フェスへの参加を果たしたが、いずれの公演でもYUIMETALがステージへ立つことはなかった。


 ファンたちの動揺は依然続いたままであったが、その波はさらなる広がりをみせた。海外ツアー直後の6月24日に開かれた、彼女たちの所属する芸能事務所・アミューズの株主総会ではBABYMETALについての質問が飛び交った。報道によれば、一部の株主から議題として出された「(YUIMETALが)7カ月出ないのはどうしてなのか」という質問に、畠中達郎社長が「昨年12月のライブを体調不良で欠席しましたが、今は回復しています」と答える一幕もあったという(参考:https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201810200000083.html)。


 海外のファンからも“YUIMETALはどこに消えたのか?”という声が湧き出るなか、ようやく今年に入り初めての日本凱旋公演となった『BABYMETAL WORLD TOUR 2018 in JAPAN』のチケット情報が、「THE ONE」で案内されたのが7月23日。


 その後、ファンたちは10月23日から始まるツアーに一縷の望みを託していたが、開催直前の同月19日に脱退が発表されることになり、彼女の復活を願っていた多くのファンの声は幻と化してしまった。くしくも時を同じくして、天空の光に思いを馳せるかのようなもう一つの新曲「Starlight」のMVがYouTube上で公開されたのは、けっして偶然とは思えない。


■変化の象徴「DARK SIDE」以降のBABYMETAL


 YUIMETAL不在のBABYMETALを象徴するのが、たびたび取り上げてきたキーワード「DARK SIDE」である。彼女の脱退後、正式に新体制への移行を表明したユニットであるが、その布石は5月8日に行われた『BABYMETAL WORLD TOUR 2018』の初日であるアメリカ・カンザスシティ公演から打たれていた。


 まず目立ったのはビジュアルの変化で、これまで黒と赤、銀を貴重とした鎧のような衣装が定番であったが、黒をベースにポイントとして金をあしらった騎士や連想させるようなスタイルへと刷新された。さらに、メイクもアイラインをより色濃く強調したものとなったが、それ以上に目を引いたのは髪型の変化だった。


 従来、BABYMETALの3人はSU-METALがポニーテールで、フワフワとしたツインテールをしているのがYUIMETAL、ストレート気味のカッチリとしたツインテールがMOAMETALとそれぞれのキャラクターが差別化されていた。しかし、「DARK SIDE」へ移行してからは、ステージに立つ2人が共にロングヘアーとなり、客席の距離によっては“同一視”できるかのようなビジュアルへと変わった。


 さらに、ビジュアルに統一感がもたらされたことで、ステージでのパフォーマンスから受ける印象も様変わりした。先日行われた『BABYMETAL WORLD TOUR 2018』の一環である日本公演では「ギミチョコ!!」や「メギツネ」といった定番曲を披露していたが、フロントの3人と背後の神バンドという従来の基本的なフォーメーションではなく、曲ごとに新たに追加されたダンサーたちが入れ替わり立ち替わり登場するという構成に。ステージと客席が一体となる最後の曲「THE ONE」では、終盤でせり上がるステージに7名が集結する場面もあった。


 加えて、SU-METALのソロ曲「紅月 -アカツキ-」では、間奏でみられる神バンドのギタープレイではなく2名のダンサーがボーカルの間を繋ぐようになり、本来、YUIMETALとMOAMETALによる“BALCK BABYMETAL“がパフォーマンスを行っていた曲「GJ!」では、背後に2名のダンサーを抱えたMOAMETALが終始ステージの中央で歌い踊るスタイルへと変更された。


 また、これまでも数々の世界的なメタルバンドとの共演を果たしてきたBABYMETALだが、今年のツアーでは単独公演ごとにスペシャルゲストを帯同しており、5~6月にかけてアメリカとヨーロッパで行われたライブではプログレッシブ・メタルバンドのSkyhaborを招聘。さらに、10月の日本公演ではパワーメタルバンドのSabatonと『スター・ウォーズ』へのオマージュを取り入れたメタルバンドのGalactic Empireを迎えた。


 同月28日開催の『BABYMETAL WORLD TOUR 2018 in JAPAN EXTRA SHOW “DARK NIGHT CARNIVAL”』で披露した「META! メタ太郎」では、Sabatonのボーカルであるヨアキム・ブローデンとGalactic Empireのリードギターを務める“ダース・ベイダー”ならぬダーク・ベイダーが、BABYMETALとステージ上で共演する一幕もあった。


■脱退が発表された今、改めて思うYUIMETAL像


 さて、ここからは筆者の主観を交えた意見に、少しばかりお付き合いを願いたい。YUIMETALが休演してから脱退するまでの約11カ月間は、BABYMETALにとっての過渡期だったように思える。Twitterを中心にさまざまな議論も繰り返されているのだが、なかでも目を引いたのは「BABYMETALとは何かが問われている時期」という意見だった。


 かつてBABYMETALの界隈では、その尖ったパフォーマンスや位置付けもあいまって「アイドルなのかメタルなのか」という議論が繰り広げられていた。しかし、2014年夏に行われたイギリスの大規模ロックフェス『Sonispere Festival UK』への出演などをきっかけにして以降、活動の軸足が海外へ移行してからは、本人たちの「BABYMETALというジャンルを作りたい」という意思へ誘われるかのように、次第にユニットそのものの存在感が強調されるようになった。


 しかし、YUIMETALが不在となって以降、今なお続いているのは「BABYMETALのあるべき姿とは何か」という問いである。誰もが納得する答えの出ない問題であるのは明白で、新たな体制を前向きに受け入れる声や、いまだ彼女のいないユニットに悲しさをおぼえる声など、さまざまな意見も交わされているが、少なくともYUIMETALの脱退やそれに伴う変化がある種の“踏み絵”となり、ファン同士であつれきが生じていることには若干の寂しさをおぼえる。


 また、昨年12月から現在までのBABYMETALを振り返るなかで、やはりどうしても出てくるのは「YUIMETALとは何だったのか」という一つの問いだ。これについてはBABYMETALそのものを考える以上に悩めるほどの難題であるが、あえて挙げるとするならば、ユニットの中でもっとも“成長”を味わえるメンバーだったのではないかということである。


 他のメンバーをみると、SU-METALはユニットの絶対的な象徴であり、MOAMETALは彼女がに付けられた“菊地プロ”という愛称からも分かるとおりのアイドル性の高さが端々から垣間見えていた。


 一方のYUIMETALは「YMY(=ゆいちゃんマジゆいちゃん)」という彼女を称える言葉からもにじみ出るほどの愛らしさがあり、もちろん優劣を付けるわけではないという前提ではあるが、ある種の“未熟さ”を兼ね備えていたことからBABYMETAL自体のアイドル性、すなわち“BABY”のフレーズに関連するユニットの核を担っていたような印象も受ける。


 しかし、彼女がいなくなった今、BABYMETALは新たな道を進み始めている。今年はアイドル界でも解散や脱退が目立ったものの、人数が3人から2人に減るというのはきわめてまれな例でもあるが、ダンサーの追加によりスケールダウンを防ぐなどの努力を続けているようにもみえる。


 また、一方で気になるのはYUIMETALの今後であるが、水野由結名義で出された脱退発表時のコメント「水野由結としての夢」という言葉は、2015年3月29日に行われた彼女たちの出自であるさくら学院の卒業式でも語っていたことだった。


 BABYMETALのメンバーとしても数々の功績を残してきたが、彼女はまだ19歳である。表舞台に帰ってくるのか否かなど、想像すればキリがなくなるほどだが、あどけない笑顔を浮かべつつみずからの可能性を広げていってほしいと願うばかりである。(カネコシュウヘイ)