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『悪魔城ドラキュラXセレクション』レビュー 現行機に蘇るシリーズ珠玉の名作、しかし注意点も

2018年11月04日 07:32  リアルサウンド

リアルサウンド

 2018年10月25日、KONAMIよりPlayStation 4ダウンロード配信専用ソフトとして、『悪魔城ドラキュラXセレクション 月下の夜想曲&血の輪廻』がリリースされた。


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 本作は1993年10月29日にPCエンジンSUPER CD-ROM2用ソフトとして発売された『悪魔城ドラキュラX 血の輪廻(ロンド)』、その続編で1997年3月20日にPlayStation、1998年6月25日にセガサターン向けにも発売された『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』のカップリング移植作である。


 1986年9月26日、ファミリーコンピュータディスクシステム用ソフトとして産声をあげた『悪魔城ドラキュラ』は、ゴシックホラーの世界観と鞭を用いた独特の攻撃アクションと高い難易度、そしてメロディアスな音楽で好評を博し、KONAMIを代表する人気シリーズの一つとなって多くの続編が制作された。


 特に『悪魔城ドラキュラX 血の輪廻(ロンド)』、『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』はシリーズ屈指の名作との呼び声が高い作品で、前者は2007年11月8日にPlayStation Portable向けに『悪魔城ドラキュラX クロニクル』なるフルリメイク版も発売されている。


 此度のセレクションは、二作共にオリジナル版を一つにした構成となっている。ただ、ちょっとした注意点がある。詳しくは追って紹介しよう。


正統進化を目指した新作と新境地開拓に挑んだ続編


 ゲーム内容は二作共に異なる。


 時系列順として『血の輪廻』から解説すると、こちらは横スクロールのステージクリア型アクションゲーム。主人公のリヒター・ベルモンドを操作し、宿敵ドラキュラ伯爵の打倒と囚われた女性達を救出するため、全部で9以上に渡るステージの攻略に挑むというものだ。


 リーチの長さが特徴の鞭攻撃、そちらで対処できない場面をカバーする「サブウェポン」など、ゲームの骨組みは初代『悪魔城ドラキュラ』を踏襲。また、シリーズ第三作『悪魔城伝説』からルート分岐が採用されている。しかし、今作の分岐はステージ内に隠されたルートを辿ることによって次のステージ、ボスが変わる探索色を押し出した独自のもの。関連して途中経過の記録(セーブ)、ステージセレクトの機能も追加され、クリアしたステージを後から再プレイできるようにもなっている。


 更にプレイヤーセレクトシステムも導入。今作では主人公のリヒター・ベルモンドともう一人、「マリア・ラーネッド」という少女もプレイヤーキャラクターの一人として名を連ねており、一風変わったアクションを楽しむことができる。


 他にサブウェポンの真の力を解き放つ必殺技「アイテムクラッシュ」が導入されているほか、今作は大容量のCD-ROM用ソフトとして発売されたのもあり、フルボイスによるビジュアルシーンが挿入され、演出面も強化。まさに正統進化以上の仕上がりで、シリーズ10作目だからこその気合の入れようが伝わってくる作品となっている。


 続く『月下の夜想曲』は『血の輪廻』から4年後の世界を舞台にした作品。内容は全くの別物で、横スクロールのアクションゲームなのは共通しているが、ステージクリア型ではなく、探索型。シリーズでは、1987年にファミリーコンピュータディスクシステム用ソフトとして発売された『ドラキュラII 呪いの封印』以来の採用で、広大な悪魔城内部に点在するエリアを隈なく探索し、城の謎を解き明かしていくものとなっている。


 システム周りは先述の『呪いの封印』とは趣が異なる。特に象徴的なものが経験値とレベル、装備によるステータス変化と言ったRPG要素。これに関連して経験値でレベルを上げ、その強さを活かして押し切る選択肢も用意され、アクションゲームに苦手意識のあるプレイヤーにも門戸を開いた難易度に刷新されている。また、操作性も一新され、ジャンプ後の空中制御が自由に行えるようになっている。


 武器が鞭でないのも特色。主人公の「アルカード」は剣を初期装備とし、俊敏な攻撃を行うことができる。また、ゲームが進むと剣以外の武器も登場し、バリエーションに富んだ攻撃を繰り出せるようになる。


 他にキャラクターデザインも小島文美氏による耽美的なものに一新されたほか、『血の輪廻』のようなビジュアルシーンは一部しかないものの、フルボイスも継承。あらゆる面で、今までとは違うドラキュラを体現した作品になっている。当然ながら、ゲームの仕組みが違うだけあってボリュームも倍増しており、長く、じっくり楽しめることも特徴だ。


繰り返し遊べる『血の輪廻』とやり込み甲斐抜群の『月下の夜想曲』


 結論から言えば、二作は自信を持って傑作と言い切れる出来だ。


 『血の輪廻』は、数あるステージクリア型のシリーズの中でも随一のボリュームとリプレイ性の高さが魅力。特にステージ一つ一つの密度が凄く、思いもしない所に別のステージへと繋がるルートが隠されているので、隅々まで調べながら進めていきたくなる面白さがある。あくまでもやり込み要素としての位置付けであり、全てを無視してドラキュラ討伐だけに集中する、従来通りの遊び方でも楽しめるのも秀逸。探索要素を入れつつ、”いつも通り”を体裁を厳守した設計には唸らされる。


 ルートごとに専用のステージ、ボスを用意しているの圧巻。ステージの背景パターンも多彩で、シリーズでは珍しい、青空をバックにした舞台が用意されているのが面白い。


 また、第二のプレイヤーキャラクター「マリア」のぶっ飛んだアクションも必見だ。率直に言って、主人公リヒターの存在感を食うほどの機動力と火力を持つキャラクターになっている。彼女でプレイすれば難易度が緩和されるメリットもあるので、クリア困難なステージに直面したら、あえて切り替えて挑んでみるのも一つの手だ。


 使えるようにするには彼女自身を救出しなければならないが、四人の女性の中では助ける難易度は低め。序盤のステージに囚われているので、ぜひ、助け出して解禁してみて欲しい。


 『月下の夜想曲』は言うまでもなく、探索型への刷新によって描かれた新しい遊びの数々だ。特にRPG要素が他の探索型アクションゲームと一線を画していて、プレイヤーそれぞれの性格が現れた攻略を楽しめる内容を実現させている。


 難易度はレベル、装備の付け替えで大幅に下げられる、操作性も動かし易さ重視のものへ一新するなど、今作はシリーズの御約束に従わない姿勢が徹底されているのも見所。アクション周りでも主人公は鞭を使わない、コウモリや狼、霧に姿を変える特技を持ち、それを駆使して難所を突破するなど、今までのシリーズに無い展開も多く用意されている。


 何より、全体のボリュームが大きく、何より悪魔城全体が広いので、探索し甲斐がある。しかも、本編の舞台になるのは悪魔城だけではない。後半に「逆さ城」なる新たな舞台が姿を現すのだ。極めつけに、その密度は悪魔城とほぼ同格。一筋縄ではいかない内容であることが嫌でも察せるだろう。


 ボリュームに関連する所では、コレクター欲を刺激するアイテム収集もかなりのやり応えだ。城内には多数の武器、防具、アイテムが隠されていて、中には特定の敵を倒さなければ手に入らない稀少品まで存在する。そのために延々と敵を狩り続けたりと、某有名アクションRPGに肉薄するような展開に陥ったりすることも。そんな全てをやり尽くすとなれば、エンディングを目指す以上の時間を費やすことになる裏の一面を持つのも、今作の見所であり、恐るべき部分でもある。


 他に二作共通で、音楽も初代から続く伝統に則った素晴らしい出来。しかも双方、サウンドテストもおまけで用意。気に入った曲をじっくり聴くこともできるのも嬉しい所だ。


実は二作共に収録されているのはオリジナル版ではない?


 ……と、ここでオリジナル版経験者は疑問符が浮かんだと思われる。『月下の夜想曲』にサウンドテストって無いのでは、と。確かにその通りで、PlayStation版には無い。セガサターン版、海外PlayStation版に存在する要素だ。


 また、本編中盤にある「とあるキーアイテム」が手に入る悪魔城中心部でのイベントも、此度のセレクションでは戦闘が発生する。他にエンディングのスタッフロールで流れる音楽が別物、クリア後に解禁される追加要素にもオリジナルのPlayStation、セガサターン版双方にないものが用意。更に『血の輪廻』もオープニングデモのボイスが違う、二作共通で中断セーブ(クイックセーブ)機能も導入されている。


 一体、これはどういうことなのか。実は本作に収録された二作は、先に触れたフルリメイク版『悪魔城ドラキュラX クロニクル』の特典として収録されていたバージョン(いわゆるXクロニクル版)を基にしている。オリジナル版ではないのだ。そのため、双方オリジナルで遊んだ経験のあるプレイヤーほど微かな違和感を覚える作りになっている。取り分け、『月下の夜想曲』は違いが顕著なので尚更だ。


 正直な所、これは少々問題があると言わざるを得ない。というのも、公式サイトやニュースリリースにそのような情報は一切書かれていない。買ってプレイしなければ、オリジナル版でないことに気付けないのだ。


 筆者も購入前はオリジナルのPCエンジン、PlayStation版が収録されているものと思っていた。それだけに、先述の戦闘イベントが発生した時は大変驚いた。Xクロニクル版のプレイ&クリア経験もあるだけに尚更だ。


 これは公表するべき情報ではないのだろうか?特に『月下の夜想曲』はPlayStation、セガサターン、Xクロニクル版それぞれに違いがあるので、どのバージョンを収録しているのか表明しておくのがフェアだろう。


 現時点でも公式サイトで収録内容に関する説明はない。この状態ではミスリードを誘う形になってしまっているだけに、できる限り早めに対応を行って欲しいところだ。そして今後、購入を考えているプレイヤーはこの点に留意して頂きたく思う。


これから悪魔城ドラキュラを始めるプレイヤーに最適の一本


 また、ちょっと気になるのがPlayStation 4で配信されたことだ。


 既に発表されている通り、『血の輪廻』の主人公リヒターは2018年12月7日に任天堂より発売されるNintendo Switch用ソフト『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』にファイターとして参戦することが発表されている(※アルカードもアシストフィギュアでの出演が判明している)。同作で初めてリヒターを知るプレイヤーのことを考えれば、Nintendo Switchにも出す意義があるように思えるのだが、現時点でその報せは無い。予定はあるのだろうか?もし、あるのなら、できる限り早めに実現して欲しいと願うばかりだ。折角、シリーズを知らないプレイヤーからも脚光を浴びる絶好の機会であるというのに、同じハードで出演作を遊べないのは勿体ない。


 他に収録二作共に難点や賛否の分かれるも少なからずある。『血の輪廻』は鞭で攻撃した際の音が弱々しい、ジャンプ中にBボタンを連打することで発動する「バク転」が暴発し易い、『月下の夜想曲』は回復アイテムを使うのに装備が必須、エリア間移動を実施するワープルームの数が少なめで位置も適切でないなど。また、『月下の夜想曲』次に進むべき目的地は一切教えてくれず、自力で進むべき道を見つけていくことに終始するので、昨今のガイド機能が充実した探索型アクションゲームをプレイした後だと、古臭さと煩わしさを感じてしまうだろう。


 総じて、オリジナル版の移植ではない点に首を傾げるところもあるが、ゲームとしての出来は盤石。二作共にシリーズ入門編に適した一面もあるので、未経験者にもお薦めできるタイトルになっている。


 近年はNetfilix独占でアニメの配信が始まり、本セレクション配信翌日の10月26日からはシーズン2の配信も始まった。更にスマートフォン向けの新作『悪魔城ドラキュラ Grimoire of Souls』も発表されるなど(※配信時期は未定)、静かながらも着々と新たな展開に向け、動き始めている『悪魔城ドラキュラ』。


 今後、どのような作品が誕生し、歴史を紡いでいくのか。そんな未来を思い描きつつ、此度のセレクションを楽しんでみよう。


■悪魔城ドラキュラXセレクション 月下の夜想曲&血の輪廻
発売日:2018年10月25日
機種:PlayStation®4 (PSN)
価格:1,980円(税抜)


(シェループ)