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ムロツヨシは愛を貫くことができるのか 『大恋愛』溢れ出した心の叫び

2018年11月03日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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「彼の存在が一番私に生きる力をくれるんです」


参考:ムロツヨシが語る、『大恋愛』で掴んだチャンスへの喜び 「あがき続けてきました」


 若年性アルツハイマー病の恐怖に怯える尚(戸田恵梨香)は、真司(ムロツヨシ)の存在をそう話した。だが、真司は……。金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)第4話は、尚を愛するがゆえに膨れ上がる真司の苦悩が描かれた。


 真司への恋心から婚約者・侑市(松岡昌宏)と別れた尚。だが、若年性アルツハイマー病の権威である侑市以外に、最善の治療はないと彼のもとに通い続ける。親身になって話を聞き、社会的ピンチになった尚のことも全力で支える侑市。彼のなかには、まだ尚への想いがある。直感的に察した真司は、次第に劣等感を膨らませていく。


 真司ができることといったら、尚を笑わせることくらいだ。自分のホクロを押させて変顔を見せたり、“濡れた雑巾のようなニオイが消えた”と口コミサイトに書き込んだり……。古いアパートの水回りをピカピカにしたところで、侑市の住むような高級マンションにははかなわない。血尿が出るほどバイトのシフトを増やしても、尚に贅沢をさせてあげることはできなかった。


 そこに追い打ちをかけるように、尚は自分を抱きしめながら「侑市さん」と過去の男の名前を呼ぶ。侑市には勝てない、侑市のようにはできない……そんな気持ちが渦巻いているときだからこそ、真司の中に重く暗く「侑市さん」という尚の声が響いたのだろう。もちろん、病気がそうさせているのも、頭では理解している。そして、尚に悪気はないことはわかっている。だが、愛する人との争いは、いつだって“そんなつもりはなかった”というところから発生するものだ。


 もしかしたら、真司がこれほどコンプレックスを刺激されているときでなかったら、笑って間違いを指摘していたかもしれない。バイト先で振る舞うように、おもしろおかしくその場を取り繕っていたのではないか。だが、人は同じことを言われても、受け取るときのタイミングによって傷つきやすく、思わぬスイッチが入ってしまうときがある。


 体内で蓄積されて大きくなった結石が痛みと共に飛び出すように、「病気と恋がごっちゃになってるんだよ」と、ずっとモヤモヤしていた真司の心の叫びが溢れ出す。きっと真司は、これまでの人生で、これほど自分の本音をぶつけたことはなかったのかもしれない。本当の気持ちを投げかけるのは、同時に“受け止めてほしい”という願いでもあるのだから。


 神社に捨てられた過去を持つ真司は、小さいころから自分の感情を主張するよりも、我慢することで自分を肯定してきたのではないか。手に入らないものは、そもそも望まないこと。誰かとほしいものが重なったら、譲ること。その小さな我慢や葛藤が積み重なって、『砂にまみれたアンジェリカ』が生まれたのだろう。


 〈空に向かって突っ立ってる煙突みたいに 図太くまっすぐに この男が好きだとアンジェリカは思った〉というフレーズは、真司の心の声そのものだったに違いない。だが、真司が次に発表した2作目は酷評されてしまう。自分が声を上げることは、やはり求められていないのだ、と筆を置いた真司。そこからは何も望まず、ただ毎日を生きてきたのではないか。


 諦めることこそ、自分を守る唯一の武器。そうした思考回路を20年近くまわしてきた真司にとって、“侑市よりも自分のほうが尚を幸せにできる”と我を通すのは無理があったのだと、身を引くストーリーのほうがスマートに描けたのだろう。だが、それで小説は「完」を迎えても、人生は続く。尚は生き続ける。真司が想像していたよりも、ずっと深く真司への愛を抱きしめながら。


 人は出会いを繰り返して、思いもよらぬ展開に直面していく。尚に襲いかかる悲劇と共に描かれる真司の成長。そして、侑市ら周囲の人間も尚や真司との出会いを通じて、変化が生まれている。第2章では木南晴夏をはじめ、さらなる出会いが待ち受けている。真司は図太くまっすぐに愛を貫くことができるのか。大恋愛の先にある、新たなストーリーから目が離せない。(佐藤結衣)