2018年11月01日 18:22 弁護士ドットコム
高校や大学などに通う意思と能力があるのに、国が「教育無償化」のための取り組みを十分にせず、経済的理由から学生生活を送ることができない人が出ることは人権侵害だとして、有識者団体は11月1日、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。教育無償化のための法整備も含め適切な措置を取ることを、日弁連として国に勧告するよう、求めている。
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団体は「中等教育及び高等教育の漸進的無償化立法を求める会」で、千葉大名誉教授の三輪定宣氏(教育行政学)と元龍谷大教授の重本直利氏(社会経営学)がそれぞれ代表世話人を務める。世話人には西川治弁護士らが就任している。
日弁連に提出した申立書ではまず、日本の学生が納める授業料がOECD諸国のなかでみても有数の高さで、しかも奨学金は返済が必要な貸与制である場合がほとんどであり、返済できないまま自己破産に追い込まれる例が少なくないことを指摘した。
そして、経済的理由から中退する学生が多く、低所得層の学生が学費や生活費を稼ぐために長時間のアルバイトをし、充実した学生生活を送ることが難しいことも問題だとした。中学校や高校でも制服代などの負担が重い問題は解消されていないと訴えた。
もともと日本政府は、国連の社会権規約がいう「無償教育の漸進的な導入」に拘束されない権利を持っていた(留保していた)が、外務省の発表によると2012年9月にその留保を撤回することを国連事務総長に通告した。つまり留保撤回により、日本政府は法整備や財政的措置などを講じ、教育の無償化を進める責任を負うことになったと求める会は主張している。
国立大の授業料(年額)は、文科省令が規定する「標準額」をもとに各大学が定める仕組み。授業料の標準額は53万5800円で2005年4月以降は据え置かれてきたが、2018年9月以降、東京工業大と東京芸術大が相次いで授業料改定を表明した。東工大は53万5800円を63万5400円に、東京芸大は53万5800円から64万2960円に、それぞれ引き上げるとしている。
求める会では、こうした引き上げが他の大学などにも波及し、学生や入学を志す人たちの負担がさらに増すことを強く懸念している。求める会は申立書の結びで、「具体的な行動をとる義務が国にあることを明確に意識するよう、求める必要があることは明らか」とした。
(弁護士ドットコムニュース)