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小規模公開ながら大健闘 『search/サーチ』のような作品を日本映画界は目指すべき!?

2018年11月01日 12:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 先週末の映画動員ランキングは、『映画HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』が、土日2日間で動員31万人、興収3億5400万円をあげて初登場1位に。テレビシリーズのスタートから約15年、最初の劇場版作品から約13年となる本作は、劇場版として歴代最高の出足となった。2009年以降は3月と10月、年に2作が公開されている『プリキュア』シリーズ。ハイペースでシリーズ作品を作っても価値がすり減らない『プリキュア』は、男の子の『仮面ライダー』シリーズと並んで配給の東映を支える、貴重なドル箱シリーズへとすっかり成長した。


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 今週注目したいのは、わずか60スクリーンという公開規模ながら、公開から3日間の動員が3万4574人、興収4647万円と好成績を記録し、土日2日間の動員ランキングでもトップ10にランクインした『search/サーチ』だ。全編PCの画面(さすがに画面の一部分がズームになるなどの視点の誘導はあるが)で構成されていることが話題になっている本作。実はその手法を用いた映画は過去に例がなかったわけではなく、ハリウッド映画に限定しても、2015年にはFacebookでフォローを外すことを意味するタイトルが冠せられた『アンフレンデッド』(日本公開は2016年7月)というホラー映画が公開されて、アメリカではスマッシュヒットを記録した。当時この作品を観て「やられた」と思ったのは、テクノロジーそのものを映画のテーマとして利用する手法は、もともとJホラーの十八番であったからだ。ビデオテープとそのダビングに介在する呪いを描いた『リング』シリーズ、呪いの媒介を携帯電話の着信履歴へと発展させた『着信アリ』シリーズ。いずれもハリウッドで複数のリメイク作品(『着信アリ』の原作と企画を手がけた秋元康のもとにはハリウッドから巨額のリメイク権料が支払われたという話を、ご本人から聞いたことがある)が製作されたことからもわかるように、日本の作家や映画人に先見の明があったことがわかる。


 今回『search』の監督はまだ27歳のインド系アメリカ人監督アニーシュ・チャガンティ。PC画面だけという縛りだらけの手法を逆手にとって極上のサスペンスを生み出すその天才的手腕には目を見張るものがあるが(今ごろチャガンティのもとには新しい企画が殺到しているはず)、実は本作のプロデューサー、ティムール・ベクマンベトフは前述した『アンフレンデッド』のプロデューサーでもあった。映画ファンならば、彼の名前に見覚えがある人も多いだろう。カザフスタン出身、ロシアの広告業界を経て映画界に入ったベクマンベトフは、ハリウッドに進出して『ウォンテッド』や『リンカーン 秘密の書』といったビッグバジェット作品を監督としても手がけてきた。そんなベクマンベトフが近年はプロデューサーに専念して、『アンフレッド』、アクション演出におけるPOV視点を極限まで追求した『ハードコア』、そしてこの『search』を手がけてきたといえば、彼が新しい才能と共にテクノロジーによって映画表現を更新していくことに、いかに意識的に取り組んでいるかがわかるだろう。


 プロデューサーはカザフスタン/ロシア系、監督はインド系、出演者のほとんどは韓国系と、アメリカ社会におけるマイノリティの才能たちが集結した『search』の成功は、今年の『クレイジー・リッチ!』の世界的大ヒット(日本では公開規模の小ささもあってヒットには到らなかったが)と並ぶ、2018年のハリウッドにおける注目すべきトピックだ。しかし、それらの作品に日本人の映画人や俳優の名前が見当たらないことには、一抹の寂しさを覚えずにはいられない。ちなみに傑作『リング』映画1作目の監督、中田秀夫の最新作『スマホを落としただけなのに』(11月2日公開)は、タイトル通りスマートフォンを落とすことの危険性や、その中の情報の脆弱性を描いた作品。そういう意味では、日本映画における「テクノロジーと映画」の系譜は現在も継続しているとも言えるが、テーマだけではなくテクノロジーによって映画的手法まで更新してみせた『search』を観た後だと、良くも悪くも「普通の面白い映画」にとどまっているのが歯痒い。(宇野維正)