2018年のF1第19戦メキシコGPは、例年以上にタイヤの使い方で苦労したチームが多かった。理由のひとつは初日の路面温度が30℃を超え、持ち込まれた3種類のコンパウンドの中で最も軟らかいハイパーソフトタイヤがひどいグレイニング(ささくれ摩耗)を起こしたためだった。
そこで多くのチームが、レースでは硬めの2種類のコンパウンドであるウルトラソフトとスーパーソフトがメインタイヤとして使う方向で午後に行われる2回目のフリー走行でのタイヤに関するプログラムを考え直した。
通常であれば、このフリー走行2回目では次のようなタイヤの使い方でプログラムを消化して行く。
1) 硬めの2種類のコンパウンドのうち、レースでメインとなる方のコンパウンドを履いて、マシンセットアップのチェック
2) 次に最も軟らかいコンパウンドに履き替えて、1発アタック
3) タイヤはそのままで、燃料を搭載して最も軟らかいコンパウンドでロングラン
4) 最初に履いた硬めのコンパウンドを履いてロングラン
しかし、硬めのコンパウンドがレースで必要となる感じたチームは、リスクを犯してでも硬めのコンパウンドを温存するために、金曜日のフリー走行2回目で最も軟らかいコンパウンドのみで上記のプログラムを消化するという思い切った作戦に出た。そのチームがトロロッソ・ホンダとフォース・インディアだった。
彼らは土曜日のフリー走行でもハイパーソフトのみを使用し、予選ではフォース・インディアがスーパーソフトとウルトラソフトを1セットずつ使用したが、トロロッソ・ホンダはすべてのセッションをハイパーソフトのみを使用するという大胆なプログラムを組んだ。
硬めのコンパウンドをレースに向けて温存するという考えが、決して間違っていたわけではないことは、レースではウルトラソフトとスーパーソフトがメインに使用されたことでもわかる。
では、フリー走行で一度も使用していないのに、どうやってレースでスーパーソフトとウルトラソフトを使用しようとしていたのか。
その理由をブレンドン・ハートレーは、「これまでに何度も履いてきたからデータがあるんだ」と答えている。
確かにトロロッソ・ホンダはそのデータを元に、日曜日のレースは中団グループで対等に渡り合っていた。
スーパーソフトの性能を誤算していたトロロッソ・ホンダ
しかし、ひとつだけ誤算があった。それは予想していたよりもスーパーソフトの性能が長く維持されたことだった。トロロッソ・ホンダはレースが2ストップになると考えたからこそ、ウルトラソフトを1セット、スーパーソフトを2セット残していた。ところが、レースはトップ10からスタートしたルノーとザウバー勢がハイパーソフトで10周以上を走行した後、履き替えたスーパーソフトでチェッカーフラッグまて走りきってしまった。つまり、スーパーソフトはレースで1セットあれば十分だったのだ。
ルノーやザウバーの金曜日のフリー走行2回目のプログラムを見ると、チーム内で1人がスーパーソフト、もう1人がウルトラソフトという形でプログラムを分けていた。もともと彼らはメキシコGPに持ち込むコンパウンドごとのセット数をふたりで分け、状況がどちらに転んでも対処できる体制をとっていたわけである。こうして得られた金曜日のデータを元に、彼らはスーパーソフトが50周以上持つと判断した。
もちろん、トロロッソ・ホンダもハートレーは1ストップを視野に入れてスタートしており、もし1周目にフラットスポットを作ってピットインしていなければ、フォース・インディアのセルジオ・ペレスがリタイアするまで中団グルーブのトップを走行していたことからも、少なくともザウバーをかわしていた可能性は考えられる。しかし、そうなると、そもそもスーパーソフトを2セット残しておく必要はなかった。
また最後尾からスタートしたピエール・ガスリーは最初にハイパーソフト履いたが、5周目にピットインしてスーパーソフトに交換した。もし、トロロッソ・ホンダが金曜日にどちらか1台だけでも、スーパーソフトのロングランの情報を得ていれば、日曜日にハイパーソフトでスタートしたガスリーが、ルノーやザウバー勢と同様、10周以上走行してからスーパーソフトに履き替えて、50周以上のロングランを行うという1ストップを行うという選択をしていたかもしれない。
もちろん、レースが終わってから正解を言うのは簡単だということは承知しているが、メキシコGPのフリー走行で10チーム中、8チームがウルトラソフトとスーパーソフトでの走行を行っていたことを考えると、今回のトロロッソ・ホンダのタイヤの使い方は、少しリスクを冒しすぎていたような気がする。