トップへ

The Wisely Brothers 真舘晴子が『レネットとミラベル』を観る 「アトラクションのような感覚さえある」

2018年10月31日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

 The Wisely BrothersでGt./Vo.を担当する真舘晴子が、最近観たお気に入りの映画を紹介する連載「映画のカーテン」。第4回は、エリック・ロメール監督の『レネットとミラベル 四つの冒険』をピックアップ。特集上映などでも上映される機会の多い、ヌーヴェル・ヴァーグを代表する1人であるロメールの作品に、どんな思いを抱いているのか。(編集部)


参考:The Wisely Brothers 真舘晴子が『万引き家族』を観る 「日本でのヒットは社会的にも意味がある」


●「人と人の間に起こる微妙な空気と、時たま訪れる素晴らしい瞬間」


 私が初めて観たロメールの作品は『海辺のポーリーヌ』でした。当時はまだ高校生ぐらいで、父がビデオに録画していたものを「なんだろうこれ?」という感じで観たんです。その時はまだ映画自体にもそこまで興味がなかったので、「なんかすごい波の音が聞こえるなぁ」「海の音が聞こえる映画だなぁ」ぐらいにしか思っていなかったんですけど、そのあと大学に入ってフランス語を勉強するなかで、『緑の光線』など他のロメール作品を観て、やっぱりこの人はすごいぞと。他の監督たちと比べても、何か抜きん出ている部分があるなと思ったんです。ロメールが好きになったのは、それがきっかけでした。


 大学に通っていた当時、ちょうど有楽町の角川シネマでロメールの特集上映がやっていたんですけど、大学ですごく仲良くなった友達から「『レネットとミラベル』を観たんだけど、すごく良かったよ」と言われて。女の子2人が主人公の映画だし、映画の話もよくするその子が言うなら観てみようと思い、そこで初めて『レネットとミラベル』を観ました。


 ロメールの作品の何が好きかって、“音”なんです。風の音や車の音など、登場人物たちの会話に直接的に関係のない雑音が結構大きな音で入っているんですよね。セリフと現場の音を分けて録っているのかどうか分からないんですけど、その場の空気をそのまま全部録っている感じがする。私はそれがものすごく好きです。「こういうザラザラした足音がする場所を歩いているんだな」とか、「朝方で鳥がいっぱい鳴いてるんだな」とか、「ここはきっと都市からちょっと離れている街で、風がいつもより大きく吹いているんだな」とか、「きっとここは休養地みたいな場所なのかな」とか、「今は夏休みなのかな」とか……。映画の中の“音”から、登場人物やセリフ以外の部分のイメージがものすごく湧いてくるんです。まずそれだけで楽しむことができる。


 そして“レネット”と“ミラベル”、2人の女の子の出会いのシーンもとても素敵。ただ歩いているだけのシーンから自転車のパンクを助ける場面、その行程だけでもう映画になっていて、作品を楽しむ初めの要素の一つにもなっているんですよね。何かをする人間の行動というのは、角度や環境によって、とても美しくおもしろいものだと改めて感じます。2人は出会って仲良くはなるんですけど、ものすごく仲良くなるというわけではない。2人とも性格が全然違うから、意見がぶつかりあうんですよね。でもそれがリアルな友達っぽくていいなと。友達って、ずっと仲が良いわけじゃなくて、すごく仲良くなる瞬間もあれば、微妙な瞬間が続くこともある。レネットとミラベルの物語は、その感じがものすごく丁寧に描かれていて、リアリティーがあるんです。ロメールは、私たちでも経験したことのあるような人と人の間に起こる微妙な空気と、時たま訪れる素晴らしい瞬間と、どちらも映してくれる監督だと思います。


●「もはやアトラクションのような感覚さえある」


 タイトルのとおり、この作品は4つのエピソードに分かれたオムニバスです。その中で私が一番好きなのは、第1話の「青い時間」。夜行性の生き物が鳴き終わり、朝に鳥がさえずりを始める前、夜明け前に数秒間だけ訪れる“青い時間”について語り合ったレネットとミラベルが、翌朝に早速早起きをして2人でこの時間を体験しようとするお話です。


 私はもともと青色が好きというのもあるんですけど、朝方にも“青”があるんだと驚きました。虫が鳴く夜の時間、鳥が鳴く朝の時間、その二つの間に一瞬の静寂があるというのが本当かどうかは分かりませんが、私はそれをこの映画で知って、すごい発見だなと思いました。「私も体験してみたい」と。まだ実際に試してはいないのですが(笑)、映画の中の2人はそれを見ようと挑戦するわけです。


 レネットとミラベルは“青い時間”を体験するため夜中に起きようとするわけですが、眠くなって寝てしまうんです。小学生の時友だちの家に泊まりに行って、はじめて「徹夜してみよう!」と張り切って、結果寝てしまった記憶も思い出します。映画館でその状況を観ていると、2人と同じようにこっちも眠くなっていってしまう。私自身もレネットとミラベルと一緒に、そこにいるような気持ちになってくるんです。そんな中で静かな時間が訪れたときのハッとするような感覚は、もはやアトラクションのような感覚さえありました。


 ロメールの作品は他にもたくさん観ているのですが、どの作品が一番好きかはなかなか選べません。映画館で観れる機会もたまにあるので、その時は何かを思い出すように観に行きます。


 今回ご紹介した『レネットとミラベル 四つの冒険』はコミカルさ、自然の豊かさ、街の早歩きな雰囲気も、全部すこしづつ味わえるので、気軽に観れるのが好きです。とてもかわいい映画。素晴らしいときもそうでないときも、両方あるから生活はおもしろい。何気ない日常の一風景がそれだけで映画になっていて、観ていて美しいな、楽しいなという気持ちにさせてくれる監督だと思います。(真舘晴子)