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86/BRZ最終戦:4位チェッカーの谷口信輝が3度目戴冠。レースは菅波冬悟が2連勝飾る

2018年10月31日 13:41  AUTOSPORT web

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菅波冬悟を先頭にスタートが切られたプロフェッショナルシリーズ最終戦鈴鹿
鈴鹿サーキットで最終戦を迎えたGAZOO Racing 86/BRZ Raceは、プロフェッショナルシリーズで菅波冬悟(OTG DL 86)が、ポール・トゥ・ウインで前戦もてぎに続く連勝を果たし、4位でフィニッシュした谷口信輝(KTMS 86)が3度目のタイトルを獲得。そして、クラブマンシリーズでは大島和也(Team MDI/BSR 86)が初優勝を飾っている。

 プロフェッショナルシリーズはタイトル争いが最終戦まで持ち越され、谷口と織戸学(サミー☆K-one☆MAX 86)、そして佐々木雅弘(小倉クラッチREVO 86 BS)の3名がチャンピオン候補に。しかし、谷口は織戸に対し14ポイント、佐々木に対しては18ポイントの貯金があるため、どちらに優勝を許そうとも5位にさえ入ればいい状況だ。
 
 しかし、何しろ“絶対”という言葉が当てはまらないレースである。実際、前回のもてぎでは谷口と佐々木が揃って予選で失敗。最後列からスタートし、ファステストラップ記録で与えられる1ポイント争奪戦に討って出ざるを得なかった経緯もあったほど。何が起こってもおかしくないと、谷口は特に慎重だった。
 
 そんな状況において、まったく空気を読まない(!)速さを練習から見せていたのが、前回初優勝を飾った菅波だ。最後の練習となる専有走行では、ひとり2分30秒を切る、2分29秒910をマークしたばかりか、2番手につけた近藤翼(神奈川トヨタ☆DTEC 86R)をコンマ6秒も引き離していた。
 
 一方、この時、谷口は菅波にコンマ8秒遅れの6番手、織戸は8番手。その一方で佐々木は23番手に沈んでいた。タイヤが違うから……と言ってしまえば、それまでなのだが、上位のほとんどが絶賛性能発揮中のダンロップ(DL)を装着し、青木はブリヂストン(BS)ワークス。
 
「菅波が速すぎるけど大丈夫。僕は織戸さん、佐々木くんの前でゴールすればいいから。若い芽が育ってくるのは大歓迎!」と谷口は予選前に語っていたが、どこまで本音だったやら。

 JAF鈴鹿グランプリの過密スケジュールの影響を受け、86/BRZ Raceは両シリーズとも、予選・決勝を土曜日に行う1デイイベントに。ただでさえ慌ただしいなか、予選はウエットコンディションになったからたまらない。
 
 幸い、予選開始時にすでに雨はやんでおり、プロフェッショナルシリーズの予選の前にはスーパーフォーミュラが走って、少なくてもライン上はかなり水が掃けている状況に。
 
 そこで谷口は、あえて守りに入った。ダンロップタイヤは、実はウエットが苦手。そこで申告期限ギリギリにBSにチェンジしたのだ。この目論見はほぼ成功、3番手につけることとなったからだ。これに対して、織戸は13番手、佐々木は15番手と中団に沈んだ。

「この最終戦、半分ぐらい無事にこなしたかな、と。チャンピオンに、本当にいよいよ王手かけたかな、と思います」と谷口。

 その谷口を上回ったのは、もちろん菅波で、もうひとりはコンディションが最も向上したラスト5分のアタックを成功させた、坪井翔(ネッツ東埼玉ワコーズED86)だった。

■谷口信輝「表彰台に立ちたい気持ちはあったけど、一番欲しいのはチャンピオンなのでそれが獲れてホッとしている」

「昨日までの練習や富士、もてぎですごく苦労したんですが、なんだろうって追求しているなかで、チームが合わせてくれたクルマがすごく良くて、やっとこの結果につながりました」と坪井。

 厳しいコンディションだっただけに、2分31秒089と練習のタイムを上回れなかったものの、ポールポジションを獲得した菅波には、前週のFIA-F4での連勝とも合わせて、勢いさえ感じられる。だが、「みんなにそう言われるんですが、なんか内心そんなことはなくて」と菅波。
 
 続けて「僕としては良かった時の次こそ落とすと、評価の落ち方がものすごく大きいでしょうし、やっぱり『前のはまぐれだったんだ』ってなるのが嫌なので……」と、まさに「勝って兜の緒を締めよ」の心境にもあるようだ。

 決勝レースは一転して、完全なドライコンディションとなった。完璧なスタートを決めた菅波だったが、ぴたり坪井だけが食らいついて離れず。何しろ今年の全日本F3チャンピオンとあって、相手にとって不足なし。
 
 菅波は全力で逃げて徐々に差を広げていった一方で、なんと坪井に対してドライビングスルーの指示が。ジャンプスタートに対するペナルティだった。やむなく5周目に坪井はピットに向かうと、もう菅波に敵は存在しなくなっていた。
 
 その後方では激しいバトルを小河諒(神奈川トヨタDTEC 86R)と近藤、そして谷口が繰り広げていた。予選4番手だった小河は絶妙のスタートを決めて谷口の前に出ると、5番手の近藤も1コーナーでこれに続いた格好だ。
 
「グリッドに着く時、バーンアウトを多めしてタイヤを少し温めたら、いい蹴り出しができました。それに尽きますね」と小河。

 一方、「チームメイト同士でやりにくかったけど、お互いフェアにやれました」と近藤は無理をせず。もちろん谷口も隙あらばの構えでいたが、変に絡んで順位を落としてしまえば元も子もない。ただし、3人の間に張り詰める緊張感は、きっと誰にも感じられたはずだ。
 
 そんな後方のバトルをよそにスタートから逃げ切った菅波が2連勝を果たし、2位は小河で、シリーズ唯一の全戦入賞を果たす。そして3位の近藤はランキング2位に急浮上した。
 
 一方、織戸は9位、佐々木は11位に甘んじたこともあり、4位でフィニッシュラインを越えた谷口が2015年以来、3年ぶり3回目の王座を獲得している。
 
「終わりを優勝で締めくくれて良かったです。連勝ということで、それも良かったですね」と語るのは菅波だ。

「フライングだったようですが、坪井選手もスタートを決めていたので、びっくりしました。(後ろから)けっこうガンガン来ていたので、逃げるのにタイヤを使ってしまいました。それで後半は少しズルズルになってしまって……。今回はマシンも自分も仕上がっていたので、もうちょっと行きたかったというのが反省点です」と4.6秒のリードでは満足できなかった様子。

 そして3回目の戴冠なった谷口は「表彰台に立ちたい気持ちはありましたけど、それより大事なことが、僕の中にあったので。結果的に僕は0点でも大丈夫でしたけど、3年ぶりにチャンピオン獲れて良かったです。今年はタイヤの件とか、いろいろスッタモンダがありましたが、僕がいちばん欲しいのはチャンピオンなので、それが獲れて今すごくホッとしています」と素直な胸の内を明らかにしていた。

■クラブマンシリーズは赤旗短縮レースを大島和也が制す

 すでに庄司雄磨(OTG DL 86)のチャンピオンが決まっているクラブマンシリーズは、その庄司が専有走行まで絶好調だったことから、凱旋レースになるかと思われたが、まず予選でウエットの路面と赤旗に翻弄されてしまう。
 
 すでに雨はやんでいたため、セッション後半のアタックが有利なのは明らか。しかし、第1組はラスト1分40秒で赤旗が出て、そのまま終了。早々にアタックを済ませていた大島がトップで、神谷裕幸(N中部GRGミッドレスDL86)が続いた。
 
 庄司は第2組での出走。第1組よりもコンディションが向上しているのは明らかだけに、ポール獲得のお膳立てが整えられたかと思われたものの、こちらはラスト5分で赤旗が。その時、庄司はまさにアタック中。残り4分の計測で再開するも、水野大(リキモリ制動屋ピース剛式86)と山下昌樹(NUTECアライズ86)に続く3番手につけるのがやっとだった。
 
 決勝では大島がホールショットを決め、絶妙のダッシュを決めた神谷が水野を抜いて2番手に浮上する。そして庄司もふたつポジションを上げて4番手に。1周目を終えた時点では、前を行く3台に1秒の遅れを取っていたが、わずか1周で挽回し、その後は4台で激しくトップを争い合うこととなる。
 
 4周目、庄司はスプーンで水野をかわし、さらに6周目のデグナー2個目での神谷のミスで、一気にその差を詰める。そしてシケインで勝負に出たものの、完全に前に出るまでには至らず。まさに3ワイドになって1コーナーに向かって行く最中に“SCボード”が提示される。130Rで横転クラッシュがあったためだ。そして、その直後に赤旗が出されてレースは終了となった。
 
 5周目の順位で決着となり、大島が初優勝。2位は神谷、3位は庄司というオーダーに。
 
「最初から、かなりきつかったですけど、なんとか神谷さんの猛攻をしのぐことができました。セーフティカーから赤旗となって、そのまま終わってしまったのが残念ですけど、とりあえず勝てて本当に良かったです。神谷さんは後半に照準を合わせていて、前半は力を貯めていたそうですが、それで展開もうまいこと味方してくれて、逃げ切れたのかもしれません」と語る大島は、今年のスーパーFJ岡山チャンピオン。勝ち方を知っているからこそ、そう淡々としていたのかもしれない。

 そしてチャンピオンの庄司は、2018シーズンを次のようにふり返った。
 
「運も大事だなっていうのを今シーズンを通じてずっと感じました。赤旗とか黄旗で流れを切られたのが今回だけじゃなくて3回もあったんです。そういう読みっていうも大事だな、っていうのを痛感しましたね」

「それでも充実したシーズンだったのは間違いなくて、最後は3位だったけど、まぁ良かったです!」と胸を張った。