空気が薄いからこそ空力性能が問われるメキシコシティで他を圧倒する速さを見せたのはレッドブルだった。
予選Q3最初のアタックまで最速の座にいながらポールポジションを獲り逃した悔しさを、マックス・フェルスタッペンはスタート直後の1コーナーにぶつけた。アウト側に並びかけ前に出たルイス・ハミルトンに対し、イン側を保持し、ブレーキングで勝負を賭け、見事に前に出た。
レッドブル(以下:RBR)「ナイスショットだ、マイフレンド!」
そこからはタイヤをいたわり、ブレーキの過熱を避けながらのマネージメント。
RBR「各ブレーキングエリアで10mずつリフトオフしてくれ。クルマはどう?」
フェルスタッペン(以下:VER)「マネージメントできそうだよ」
RBR「了解。ツールの使い方を忘れるな」
2番手のルイス・ハミルトンは早い段階から左フロントのグレイニングに苦しみ始め、フェルスタッペンはじわじわとギャップを広げていくことができた。
RBR「ギャップは2.4。我々としては3秒にしてくれると快適だ。HAM(ハミルトン)は左フロントのグレイニングに苦しんでいるようで早めにピットインしそうだ。ギャップは2.6になった」
11周目にハミルトンが先陣を切ってピットインするが、フェルスタッペンもタイヤは厳しくなってきた。
VER「僕も苦しみ始めたよ」
RBR「HAMがピットインした。ギャップは6.7」
VER「OK。イン側がかなりオーバーヒートしていることは理解しておいてくれ」
チームメイトのダニエル・リカルドが12周目、そしてフェルスタッペンが13周目にピットイン。フェラーリ勢は長く引っ張り、他車よりも5周ほどフレッシュなタイヤで勝負を賭けてきた。
■冷静にタイヤをマネジメントしていくレッドブル陣営
しかしレッドブル陣営は慌ててタイヤを傷めるようなことはしなかった。
RBR「このまま最後まで行く。まだピットインしていないVET(セバスチャン・ベッテル)は22.1。今のところ彼より少し速い。これ以上速く走る必要はない。万一もう1回ピットストップしなければならなくなったときのことも考えておかなければいけないが、タイヤは大丈夫なはずだ」
どのチームも1ストップで最後まで走り切ることを前提にスーパーソフトをマネージメントしていく。
RBR「左リヤは全てのコーナーの中とトラクションで気を付けろ。最終コーナーはスムーズに走れ」
フェルスタッペンには2番手を走るハミルトンのラップタイムが随時伝えられ、そのギャップはさらにじわじわと広がっていく。
だがどのマシンもタイヤの性能低下は進行し、フェルスタッペンも最後まで無事に走り切ることができるかどうかは際どいところだった。
RBR「1ストップか2ストップか、単純なレースにはならなそうだ。落ち着いて行け、タイヤをいたわれ。後ろでは色々問題が起きている。今のようなペースは必要ない。HAMとのギャップは10.6だ」
VER「まだ最終セクターではプッシュしていないよ」
RBR「低速コーナーではフロントもリヤも気をつけろ。すごく良い仕事をしているよ」
VER「HAMのタイヤは?」
RBR「フロントタイヤが“Angry”なようだ。タイヤのフィーリングはどう?」
VER「ちょっとマシだね。でもはっきりとは分からない」
RBR「OK、もう1回ピットインするかどうかがクリティカルだ」
最も元気な走りを見せるベッテルが35周目にリカルドをパスして3番手に上がると、39周目にはタイヤに苦しむハミルトンまでオーバーテイクして2番手に浮上してきた。しかしそれでもレッドブル陣営は冷静だった。
RBR「VETがHAMをパスしたぞ。しかし君は反応する必要はない。タイヤセーブに戻れ。VETとのギャップは14.9。ペースは20.5だがこれはDRSを使ってのタイムだ」
その予想通り、ハミルトンだけでなくベッテルもフロントタイヤのバイブレーションが悪化し、とても最後まで走り切れる状況ではなくなってしまった。47周目に彼らがピットインすると、後方に大きなギャップができたフェルスタッペンは安全策で“フリーストップ”をすることができた。
これであとは最後まで安全に走り切るだけでよかった。
55周目、自己ベストを更新するフェルスタッペンをレースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーズがいさめる。
RBR「セクター2がパープル(最速)だったぞ。不必要だ、必要ない」
VER「はいはい」
■“気持ち良く”走行を重ねるフェルスタッペン
レースが残り10周となったところで、リカルドが白煙を上げてストップ。これを見たフェルスタッペンは心配になってチームに問い掛ける。同じルノー製パワーユニットのカルロス・サインツJr.も同じように止まっているだけになおさらだ。
VER「僕はどうすれば良い? エンジンをターンダウンする必要があるかどうか、僕のエンジンをチェックしてくれ」
しかしハイドロ系トラブルでありフェルスタッペンのエンジンに懸念はない。
バーチャルセーフティカー(VSC)が解除されると、フェルスタッペンは再びペースを上げて“気持ち良く”走っていく。「あれ以上遅くなんて走れなかった」と言い放った去年のレースと同じだ。
66周目、自己ベストを更新するフェルスタッペンにランビアーズが再び忠告する。
RBR「さっきの周のセクター2と3がパープルだったぞ。それは必要ないからな」
VER「必要ないのは分かってるけど、気持ち良いじゃん?」
RBR「OK、この周のセクター1もパープルだ。スローダウンしてくれ。BOT(バルテリ・ボッタス)がHS(ハイパーソフトタイヤ)の新品に換えたが周回遅れだから気にするな。マシンを家に持ち帰れ」
VER「OK」
結局何事もなく後続を寄せ付けることなく完全勝利。フェルスタッペンは昨年に続いてメキシコGPを制した。
RBR「よくやった、P1だ!」
VER「ハハハ、なんて素晴らしい日曜日だ!」
クリスチャン・ホーナー「スタートから素晴らしかったしドライビングも素晴らしかった。オランダ人のお友達(DJ)と一緒に表彰台を楽しんでこい! 今年は興奮しすぎないようにな!」
VER「あぁ、戦略も素晴らしかったしクルマも素晴らしかったよ。みんなありがとう」
RBR「予選でのタイヤ選択も正しかったし、今日もタイヤを上手くマネージメントしてくれた。今週末は“マイナーなミス”1つだけ除けばパーフェクトだったな」
オーストリアGPの勝利はメルセデスAMG勢の自滅によって得た勝利だった。去年のメキシコもそう。
しかし今回は違う。最初から最後まで、実力で勝ち獲ったパーフェクトな勝利だった。予選Q3最後のアタックでポールポジションを掴み獲ることができなかったという、“マイナーなミス”を除けば。
史上最年少記録のかかったチャンスは逃したが、ポールポジションを取り損ねたことを“小さなこと”と言えてしまうくらい、今のフェルスタッペンは速く、そして強いのだ。