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野村周平の器用さは、現場を“楽しむ”姿勢から生まれる ムードーメーカーとしても愛される魅力

2018年10月30日 19:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 深夜ドラマ『結婚相手は抽選で』(東海テレビ・フジテレビ系)が好評だ。少子高齢化に歯止めをかけるために、政府が「抽選見合い結婚法」を制定するという、非常に深夜ドラマらしくも、完全な絵空事として流すにはリアリティを帯びたテーマで、視聴者の興味のツボを刺激している。そこで潔癖症のオタク系主人公・龍彦を演じているのが野村周平だ。黒木華とW主演の映画『ビブリア古書堂の事件手帖』も公開スタートと、波に乗る野村の強みを探りたい。


 「スノーボード、スケートボード、BMX」が大好きと公言しているアウトドア派の野村。芸能界デビュー前にはスノーボード選手として、多くの大会で受賞経験を持つのは有名な話だ。2009年にアミューズによる全国オーディションでグランプリを受賞したことをきっかけに芸能界入り。2010年にドラマ『新撰組 PEACE MAKER』(MBS)、舞台『君の席は、僕の席』、翌年に映画『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』に出演し、順調に俳優街道を歩みだす。


 一般への認知度を上げたのは、NHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』(2012年)の製鉄所の工員、佐藤光男役だろう。まだ若いながら、しっかりとした意見を持つ光男を好演して印象を残した。


 そしてドラマ『35歳の高校生』(日本テレビ系)『僕のいた時間』(フジテレビ系)『恋仲』(フジテレビ系)、映画『男子高校生の日常』『日々ロック』『映画 ビリギャル』『ライチ☆光クラブ』『ちはやふる』3部作、『森山中教習所』『帝一の國』などなど、主演を含め、多くの話題作への出演を重ねていった。


 上記の抜粋からも分かるが、野村は役柄の幅が広い。しかもいわゆる普通の青年と呼ばれる役にも幅がある。キャラクターの立った役柄のほうが観る者に与えるインパクトは強いものだが、野村は、そうではないところでも勝負ができる。


 たとえば舞台版やアニメ版も高い人気を誇る、醜い大人になることを拒む14歳の少年たちのいびつな青春群像劇を見つめる『ライチ☆光クラブ』では、光クラブのリーダーのゼラ(古川雄輝)を筆頭に、個性的なキャラクターが集まるなか、野村は光クラブをゼラに乗っ取られた元リーダーである控えめな普通の少年・タクヤとして主演を務めた。この普通の少年という役回りでの“主演”には難しさが要求されたはずだ。しかし、野村は、まったく気負いを感じさせずに、自然に中心に立ってみせた。


 野村の強みは常に“自然”でいられることだ。今年の作品に限ってみても、放送作家・鈴木おさむが初メガホンを取ったラブコメディ『ラブ×ドック』でアラフォーのヒロイン(吉田羊)との恋を予感させるキュートな年下男子を、奥田英朗の小説を映画化した『純平、考え直せ』で鉄砲玉になることを命じられたチンピラの主人公を、『ビブリア古書堂の事件手帖』でヒロイン(黒木華)とともに、古書にまつわる謎に迫る優しい青年を、いずれも本当に“自然”に見せる。


 いずれも主演のドラマ『電影少女~VIDEO GIRL AI 2018~』(テレビ東京系)『結婚相手は抽選で』についても同様である。


 最近の俳優としては珍しく、SNSでの発信やバラエティ番組などでの言動から、ヤンチャな印象がついている野村だが、作品だけを見ると、どんな役も自身と一体化させてしまう器用さを持ち合わせていることがよくわかる。


 また、野村と共演した俳優の話を聞くと、しばしば野村が「ムードメーカー」として現場を明るくしていたというエピソードが聞かれる。これについて、野村自身は「自分が楽しいと思える現場にしたいだけ。楽しい現場じゃないと通いたくなくなるから」と答えている。


 このことにより、野村は常に作品の現場を、自身の“ホーム”に変える力があるのだと分かる。だからこそ、チンピラだろうと、潔癖症のオタク系青年だろうと、自然と役に入っていけるのではないだろうか。


 そこには人目を気にせず、好きなことをして私生活を楽しむという野村のプライベートでのスタンスも影響しているはずだ。このご時世、目立つ言動にはリスクも伴いがちだが、これからも野村には自由に役を自然に渡っていって欲しい。『結婚相手は抽選で』も後半に入った。自分の殻を破り始めた龍彦の変化を、野村なら自然に、器用に演じてみせるはずだ。公私ともに“楽しむ”姿勢を貫きながら。(文=望月ふみ)