2018年F1第19戦メキシコGPは、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが優勝。ルイス・ハミルトンは4位でフィニッシュして見事F1タイトルを獲得した。F1ジャーナリストの今宮純氏がメキシコGPを振り返る。
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新グレート・チャンピオン、ルイス・ハミルトン――。速さで2冠、強さで4冠、そして2018年は巧さで5冠達成。自らを高めていった12年目の『ベスト・シーズン』。
勝ってタイトルを決めたケースは過去68年間にちょうど半数の34回、ハミルトンは14年と15年に2回ある。
2008年はブラジルGPの5位、昨年はメキシコGP9位、今年は4位で決定。本人も認める「最悪なレース展開」、勝者フェルスタッペンから1分18秒以上も遅れた。昨年はフェルスタッペンに1周遅れにされてゴールにたどり着いている。
午後1時13分過ぎ、3番グリッドからハミルトンは前を塞ぐレッドブル2台の間を突き破った。
ポールポジションであるダニエル・リカルド(レッドブル)のレスポンス・タイム(反応)がやや劣り、ホイールスピンもあって加速が鈍った。真後ろでそれを見てとり、たちまち右から抜いた集中力の密度。もっとも危うい1コーナーまでの890メートルはさらに集中。
2番グリッドからフェルスタッペンが一直線にインサイド・ラインをキープ。1コーナーに向かって右にフェルスタッペン、中央にハミルトン、左にリカルド、背後にベッテルとボッタスが続く……。
アプローチ態勢でハミルトンは左にそれるように進み、右側にいる相手とのスペースをとった。
もし相手が減速のはずみで姿勢を乱しても避けられるように。巧いサキヨミ“防衛”だ――。オフラインを直進するフェルスタッペンは、挑発するかのように渾身の深いブレーキングでトップへ。
71周レース最初のコーナー、もっとも危ういここで昨年の二の舞(ラインを譲らず接触)は避けた。
今日は勝つためではなく、決めるためのレースなのだ。その自制心でサッと2番手につけるとリカルドを必要充分な間隔で抑え、これから予想される“タイヤ・マネージメント”にそなえた。
モンツァではスタート後の序盤、トップを走るキミ・ライコネン(フェラーリ)に1秒前後で位置をフォローしたが、メキシコでは2秒、3秒とギャップを広げられていった。
レッドブルの後方だとフェラーリより乱流の影響が感じられ、フロントウイングが微妙に揺れる。若干アンダーステアが出始めて前輪に“ささくれ摩耗”が進行、メルセデス陣営が怖れていた事態が早くも起きつつあった。
10周目、フェルスタッペンとは、4.959秒差となった。11周目、メルセデスはハミルトンとボッタスの2台同時ピットインを実行。苦戦覚悟のレースマネージメントを強いられる状況に。
コクピットにいるドライバーは孤独だと昔から言われている。1950年代の5冠王ファン・マヌエル・ファンジオのころには、もちろんピットとの無線交信などありえずサインボードが唯一の手段でしかなかった。
ハミルトンはピットに居るエンジニアと中盤、頻繁に交信をつづけながら走行。後半に入った46周目、さらに危機が襲う。
追い込んできたリカルドに1コーナーでアウトから仕掛けられ、接触を避けようと減速してロックアップ。コースを外れオーバーラン、危なかった。
47周目、1分27秒もかかってピットへ。新しいウルトラソフトタイヤに交換、これでなんとか走り切るしかない。
既に2番手まで挽回していたベッテルがこの周に2度目のピットインを完了、彼より下位に落ちるのがほぼ確実に。ということは『絶対条件』である7位以内完走を果たさねばならない。
コクピットの彼よりピットやファクトリーで見守るすべてのスタッフのほうが、むしろ重たいプレッシャーをここから意識したことだろう。
終盤にリカルドが消え4番手に上がると、ハミルトン自身は3番手のライコネンをペースメーカー役にゴールをめざした。変調するタイヤを労わり、ゆっくりステアリングを操作しながら。
71周レースを走り切ったのは4位ハミルトンまで。5冠王に向けて、チェッカー担当マーシャルは両手で大きくフラッグを振った。同時に歓声が湧き上がった。
――表彰セレモニーの前、5冠新王ハミルトンと4冠旧王ベッテルがしっかりと抱き合った。タイトル争いは終わったのだ。達成感と虚脱感。ふたりのシーズンを象徴する啓示的なシーンだと思った。