2018年10月30日 13:12 弁護士ドットコム
知的財産戦略本部の「検証・評価・企画委員会」コンテンツ分野の第1回会合が10月30日、都内で開かれた。この委員会のタスクフォースとして、海賊版サイト対策について議論してきた村井純共同座長と中村伊知哉共同座長が「ブロッキングに関する法制度整備については、意見がまとまらなかった」と報告した。
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村井・中村氏は、「中間まとめ」ではなく、連名による「座長メモ」というかたちで報告をおこなった。座長メモでは、次のような5つのポイントが示されている。
◯正規版流通の環境整備に加えて、海賊版サイトに対して緊急に対応することができるようにするため、著作権教育・意識啓発・海賊版対策に資する出版業界・通信業界における環境整備、海賊版サイトに対する広告出稿の自主的な抑制、フィルタリングの強化等について、関係者が民間主導で連携して直ちに取り掛かり、これを関係省庁が連携して支援する。
◯さらに、関係省庁の連携も推進し、リーチサイト規制の法制化や、著作権を侵害する静止画(書籍)のダウンロードの違法化の検討を進め、加えて、様々な側面から必要な制度設計の検討を進める。
◯我が国の重要な電子コンテンツである漫画とアニメーションの海賊版サイトの課題を迅速・適切に解決するため、本検討会議で議論された内容について、継続・発展的な議論ができる適切な環境を引き続き整備する。
◯以上の措置を進め、その効果を検証すべきである。
◯ブロッキングに関する法制度整備については、意見がまとまらなかった。
村井氏と中村氏は、上記の「座長メモ」のほか、中間まとめ案の修正した書類も、「検証・評価・企画委員会」に提出している。
中村氏は「ブロッキング法制化をめぐる議論は大変な注目をあつめた。著作権と通信の秘密が衝突して、知財とITの政策をどう調整するかという問いだったと認識している。今後ますます進展する情報社会のなかで、知財とITが同調する領域をどう広げるかという問いでもあった。同時に、漫画・アニメ大国である日本が、ITの落とし子である海賊版サイトにどう立ち向かうのか、世界にモデルを示せるのかというものだった」と振り返った。
日本のインターネットの父として知られる村井氏は「結果として、法制化としてのブロッキングをどうするかという議論を尽くすことには至っていない。ブロッキングをどうするかの対立が非常に大きかった。最後の手段という位置づけや、出版業界・ISPなどステークホルダーが強い使命のもとで、海賊版サイト対策に取り組むという体制が大事だということは、合意・認識されている」と強調した。
海賊版サイトをめぐっては、政府が今年4月、特に悪質な海賊版サイトとして「漫画村」など、3つのサイトを名指ししたうえで、法制度の整備まで緊急的な措置として、民間の事業者(ISP)が自主的にブロッキング(アクセス遮断)することが適当とする決定をおこなった。
この決定を受けて、知的財産戦略本部の「検証・評価・企画委員会」のもとに、「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(タスクフォース)が設置された。今年6月から10月にかけて、出版業界やISP事業者、憲法学者、弁護士など、各分野の論客が勢ぞろいして、ブロッキングを導入すべきかなどについて、集中的な議論をおこなった。
憲法で定められた「通信の秘密」を侵害するとして、ブロッキングに反対する森亮二委員(弁護士)と、ブロッキングしかないと主張する川上量生委員(カドカワ社長)らの間で激論が繰り広げられた。森委員を含む9人から「中間まとめ」の取りまとめにも反対する意見書が提出されるなどして、結論が出ず、終了宣言もないまま無期限延期となっている。
この日開催の「検証・評価・企画委員会」コンテンツ分野の委員17人のうち、中村座長を含めて7人がタスクフォースとメンバーが重なっている。しかし、ブロッキング反対派のメンバーは1人も入っていない。事務局によると、ブロッキングの法制化についての議論をすすめていくかなどについて、何も決まっていないという。
一方、この日の会議では、委員から「ブロッキングの法制化を早急にすすめるべきだ」という意見や、「タスクフォースの延長戦はすべきではない」「ブロッキングをめぐる対立を固定化して、混乱を長引かせるだけだから、多くの関係者が合意できる対策を優先すべきだ」といった声があがっていた。
(弁護士ドットコムニュース)