トップへ

“DAW女”ד渋谷系”の新生、AmamiyaMaako 温故知新のスピリットをもつ表現世界

2018年10月30日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 フレンズ、ORESAMA、SHE IS SUMMER、LUCKY TAPESなど、渋谷系リバイバルと呼ばれるアーティストが多数登場している昨今。そもそも渋谷系とは、渋谷の宇田川町近辺を発祥地とする90年代初頭にムーブメントになった音楽で、ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターなどが代表的だ。音楽的には、60~70年代のGOODミュージックを発掘し、それを90年代当時のヒップホップやテクノ、ロックのエッセンスを交えて表現したもの。つまり渋谷系は、「温故知新」の音楽なのだ。当時はちょうど昭和から平成に変わったばかりで、バブル経済に終わりを告げた頃でもあり、音楽シーンで言えばアナログレコードからCDに転換して間もない時代でもあった。ひとつの季節が終わる切なさに後ろ髪を引かれながら、それでも前を向いて歩いて行くような“明る切ない”ムードが、キュッと胸を締め付けたものだ。“DAW女”シンガーソングライター=AmamiyaMaakoの最新シングル『City magic / Hummingbird』には、その“明る切なさ”がある。


・AmamiyaMaako はDAW女で渋谷系


 “AmamiyaMaako”は、2017年に1stアルバム『Baby scratch』でデビュー。90年代の渋谷系サウンドをオマージュしながら、DJのスクラッチやラップを取り入れた楽曲スタイルで、ライブでは小沢健二の「今夜はブギー・バック(nice vocal)」のカバーを披露するなどしている。楽曲制作はすべてパソコン上で行うという、進化形シンガーソングライター、いわゆる“DAW女”のひとりだ。


 DAWとは、Digital Audio Workstationの略で、楽器演奏ができなくても(AmamiyaMaakoは、ピアノとドラムが演奏できる)、パソコンを扱えれば楽曲制作が行えることにより、作詞作曲がより身近になったことで生まれた言葉だ。また、できた曲をネットを介してやりとりしやすいこともあって、今の時代に即した制作方法だと言える。ひと昔前は女性シンガーソングライターと言えば、キーボードやピアノを弾きながら作詞作曲する方がほとんどで、2010年代に入りmiwaやchayなどギターで作詞作曲したり、ステージでもギターを弾きながらパフォーマンスを行う女性シンガーソングライターが増えたことで、彼女たちを総称して“ギタ女”と呼んだ。現在は、コンピュータがより小型化され進化したことや、音楽作成ソフト類の充実もあって、パソコンで作詞作曲からトラック制作まで行う女性シンガーソングライターが増えた。彼女たちは総称して“DAW女”と呼ばれている。近年では小南千明が主催するライブイベント『DAW女子会』などもありムーブメントができ始めている。ただいかんせん誰にでも扱いやすく間口が広いがゆえに、その人の持つセンスがより重要になっていることも確か。そんなDAW女界の新星として、今頭角を顕しているのがAmamiyaMaakoだ。


・「City magic」は都会のファンタジー


 AmamiyaMaakoの最新シングル『City magic / Hummingbird』が、タワーレコード新宿店限定で10月31日にリリースされる。「City Magic」の、キラキラとしたどこかジャズ調のピアノリフ、シンプルな打ち込みのビートは、まるで明るくまばゆい都会のネオンのよう。そんなトラックによって照らし出されるのは、切なげなマイナー調のメロディと、孤独に満ちた切ない感情だ。これはまるで、都会の夜に自分ひとりがポツンと取り残されてしまったような焦燥感。そこへ突然のクラクションにハッとさせられるように、フィルインとダウナーなメロウラップが割り込んでくる。我に返ると自然に溢れ出てくる、胸の奥に押し殺していた感情。ラスサビに向けて徐々に高まっていくエモーションは、切ない心の叫びのようにも聴こえる。この「City magic」は、渋谷系やシティポップを彷彿とさせる都会的サウンドに乗せて、主人公が街のきらめきと魔法のキラキラと重ねながら「魔法をかけて癒やしてくれよ」と願う、都会で戦う孤独なプレイヤーたちのためのファンタジーといったところだろう。また「Hummingbird」は、ハネたアッパーのビートと、韻を踏みまくったリリックが秀逸。裏で鳴っている細かいピアノのリフが、まるで都会の喧噪を表現しているかのようだ。


 「City magic」の歌詞には、〈宇田川町〉や〈スクランブル交差点〉といった、実際に渋谷にある名称が多数出てくることから、MVも渋谷の街で撮影された。AmamiyaMaakoの演奏シーンと、渋谷を舞台にしたイメージシーンが交錯する内容で、部屋を飛び出した主人公の女性が渋谷の街を物憂げな表情で歩き、最後にスクランブル交差点で何かを決意したような表情で前を向いて歩き出すシーンが印象的だ。都会で日々さまざまな感情と戦っている女性は、きっとこのMVの主人公の女性と自分を重ねて共感するだろう。


 渋谷系というちょっと懐かしい90年代の音楽からインスパイアを受け、それをDAWという今どきの手法で再構築した、AmamiyaMaakoの音楽もまた、立派な温故知新だと言える。さらに空気感や熱量も、当時のそれと似たものを醸しだしている。昨今の渋谷系リバイバルにはスピリットまでは継承していないものもあるが、彼女の音楽には、渋谷系のスピリットがしっかりと受け継がれていると感じる。音楽性はもとよりキュートなルックスにも、注目が集まりそうだ。(榑林史章)