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TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDと高野寛が目指した、“現代のテクノポップ”とは

2018年10月30日 10:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 3人組のテクノポップユニット、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下、TECHNOBOYS)が自身名義としては約1年ぶりとなる通算5枚目のシングル『ISBN ~Inner Sound & Book’s Narrative~/Book-end, Happy-end』をリリースした。TVアニメ『ガイコツ書店員 本田さん』(TOKYO MXほか)の主題歌を収録した両A面仕様で、オープニング(OP)主題歌は斉藤壮馬演じる本田を迎えたデスメタル、エンディング(ED)主題歌が高野寛とコラボレーションしたテクノポップとなっている。そこで、今回、リアルサウンドでは、TECHNOBOYSと高野寛の鼎談を企画。YMOチルドレンでシンセオタク、「全員が高野ファン」だという3人と、高橋幸宏プロデュースによるシングル「See You Again」でデビュー後、坂本龍一のツアーにギタリストとして参加し、YMOの変名ユニットであるHAS/HASYMOの一員でもある高野が目指した“現代のテクノポップ”とは。(永堀アツオ)


(関連:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDが語る、アニメ『魔法陣グルグル』劇伴の仕掛け


■最初に書いたポップソングは高野さんの影響を受けている


ーーコラボをすることになった経緯から教えてください。


松井洋平(以下、松井):TVアニメ『ガイコツ書店員 本田さん』のOPとEDを担当させていただくことになって。僕らはいつもボーカリストが必要なので、オープニングはキャラソンでいってみようっていうのがありました。エンディングはせっかくだからアーティストさんとやれないかなって話をした時にプロデューサーから高野寛さんどう? って話をいただいて。高野さんはその前に僕らのプロデューサーと、TVアニメ『ハクメイとミコチ』(2018年)のオープニングでChimaさんっていうアーティストのプロデュースをされていたんですよね。それで高野さんの名前が出た時に、僕ら全員、昔から高野さんファンなので、願ってもないっていうか。そんなこと可能なの? じゃあ、ぜひお願いしますっていう形になりまして。で、高野さんも快く引き受けていただいたと。


高野寛(以下、高野):プロデューサーの中でもね、ここに至るまでのプランが、ホップステップジャンプであったんですよ。『ハクメイとミコチ』の前にも『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~ THE LAST SONG』(2016年)のサントラではっぴいえんどの「さよならアメリカ さよならニッポン」をカバーをしていて。それが一緒にお仕事をした最初なんですよ。


松井:僕らも実は『コンクリート・レボルティオ』に編曲で関わってたので。


高野:伏線が張られてたんだね。その1年以上前の伏線がやっと回収されたっていう感じですね。だから特別びっくりっていうよりは、わりと前から、いつかTECHNOBOYSと一緒にやってくださいみたいな話は出てたので。ついに来たか、っていう感じでしたね。


ーー実際にお会いする前はお互いにどんな印象を持っていましたか。


高野:今、テクノって言葉にはいろんな意味や解釈があるじゃないですか。僕は80年代のテクノポップがリアルタイムな世代なので、真っ先に思い浮かべるテクノポップの音っていうのがあって。で、TECHNOBOYSはまさに継承者だなって感じてました。


フジムラトヲル(以下、フジムラ):僕は、子どもの頃、初めてお小遣い貯めて買ったレコードがイモ欽トリオの『ハイスクールララバイ』(作詞:松本隆/作曲:細野晴臣)で。子どもなんで、何も知らなくて買ってたんですけど、そこから成長して、初めて自分のバイト代で買ったCDが高野さんの『Better Than New』っていうマキシシングルだったんです。その時、CDと一緒にシンセサイザーを買って。1台目は打ち込みが難しくて買い替えたんですけど、2台目で初めて打ち込んだ曲が「目覚めの三月(マーチ)」っていう、その後に出たシングルで。だからもちろん好きですし、僕の初めての方なんですよ。そういう方と一緒にできたっていうのはうれしかったですし、やっぱりいいものにしたいっていうのはありました。


石川智久(以下、石川):私はCM好きだったので、ミズノのスキーウェアのCMからですね。音楽がすぐ飛び込んできて、なんだこの曲は! っていうことになりまして。で、探しまくって、高野さんの「虹の都へ」だっていうことがわかって、さっそく買いに行きました。当時はまだ歌謡曲と呼ばれるものが中心で、はっきりとしたJ-POPっていうのはなかった。高野さんで初めて、日本のポップスっていうのがやっと完成したんじゃないかって思ってましたね。


松井:ちょうどその「虹の都へ」がヒットした時、僕は中学生だったんですけど、いわゆるその時代のいろんな音楽を聴く中で、高野さんの音楽だけキラッと輝いて聴こえたんですよね。それはきっと、シンセだったり、アコギのきらびやかな部分だったりするのかもしれないですけど、何より声がすごい飛び込んできた印象があって。その声に一聴惚れして、アルバム聴いたり、さかのぼって過去作を聴いたりとかしていて。そこからどんどん影響を受けて。僕は高校時代からバンドやっていて、大学入るくらいの頃には作曲めいたものをやってたんですけども、最初に書いたポップソングっていうのはすごい高野さんの影響を受けています(笑)。


高野:それYouTubeに上がってないの?


松井:上がってないですよ!(笑)。


ーータイトルだけ教えてください。


3人:あははははは。タイトルが一番まずい!(笑)。


松井:他の2人が漏らす分にはいいけど、俺からはちょっと無理だわ(笑)。


石川:僕もちょっと言えないです(笑)。


高野:気になるなぁ~。


フジムラ:ま、「〇〇の〇〇へ」っていうタイトルです(笑)。


松井:あはははは。「Over the Rainbow」感を出したくて。普通に訳したら「虹の彼方へ」じゃないですか。で、虹を変えようって言って夢にして、「夢の彼方へ」っていう(笑)。わ~、むっちゃ恥ずかしいわ! 何このプレイ!


石川:当時を知ってる俺からすると、こんなことになるとは! っていう感じです。


松井:そうだよね。僕が曲を書いて、石川がアレンジしたんですよ。


高野:じゃあ僕が高校の時に作った恥ずかしい曲と交換しない?


松井:うわ~、それはドキドキしますねぇ!(笑)。わかりました。じゃあ、全員用意します。


高野:羞恥プレイだな(笑)。


■高野さんのエッセンスとうまく融合できた


ーー(笑)。今回の楽曲制作はどんな流れで進めていきましたか。作詞が松井さんじゃなく、高野さんだという点だけでも、これまでとは違う作りになってますよね。


松井:そうですね。普段アーティストさんにボーカルをお願いする時は、僕らが完全に曲を作っちゃって、歌っていただくっていうやり方なんですが、高野さんとやるなら何かしらコラボ感がほしいねって言って。音楽的な部分とエモーショナルな部分で共有できたらいいなと思い、歌詞とギターをお願いしようって話になりまして。で、まず曲の骨子は石川くんが作って、それを高野さんにお渡しして。僕がこんな感じの歌詞がいいかなっていう簡単なプロットみたいなものを投げさせていただいて。


石川:打ち合わせする前に、高野さんをイメージした曲を作っていって。僕の中の高野寛さんのイメージをテンポ速くしたらこういう感じになるんじゃないかなって。現代的にするとこうなるんじゃないかな、とか。


松井:どこを一番エモーショナルにしたいかって言ったら声の質感で。高野さんのファルセットの感じが一番好きだから、そこに向かってメロディを書くっていうやり方をしたんですね。だからサビの一番最高音を先に決めちゃって。


石川:そこまで山を登る感じで作りましたね。


ーー高野さんは楽曲を受け取ってどんな印象を受けましたか?


石川:……恥ずかしい!


高野:(笑)。すごく意図がはっきりしてるなって思いましたね。


3人:あははははは!


高野:説明以上にいろんな情報が伝わってくる感じだったので、あとはやるだけだなって思いました。で、僕自身は最近、アップテンポのポップスはたまにしか書いてないんですよ。なので、やりがいもあったし。あとは「虹の都へ」も実はもともと純粋にCMソングとして作った曲で、わりと無の状態というか。なんの気負いもなく。


石川:演奏も違いますよね?


高野:演奏は2通りあって、最初に日本で自分で録ったヤツと、アメリカでトッド・ラングレンと一緒に録り直したバージョンがあって。CMもね、途中で差し変わったの。


3人:へえ~!


高野:今Apple Musicとかだと両方聴ける。『CUE』のアルバムのボーナストラックにPre-CDバージョンが入ってて。だから、ポップに振り切った曲をクライアントワークの中で思う存分楽しむっていう意味では、今回も気負いなく作れたんじゃないかなって思いますね。


ーー作詞に関しては、プロットを受け取ってどう進めていきました?


高野:1行目はプロットをもらったからこそ出てきたフレーズですね。タイトルもコンセプトも、もちろん原作の「本屋さん」っていうシチュエーションとも関連するんだけども、プロットに〈ブックエンドで背中合わせに支え合ってる〉イメージっていうのがあって。で、「ブックエンド」は本を支える道具のことだけども、「本の終わり」っていう風にも読めるなって思って、そこでタイトルが浮かんで。読書中に展開が気になって、寝る間も惜しんで熱中してしまう時のようなイメージで書き進めていったら、いろんなアイデアが出てきて。だからわりと僕の曲ってサビは繰り返すことが多いんですけど、今回はほとんど繰り返しがなくて。なかなか覚えにくいですけどね(笑)。


松井:歌詞の内容も素晴らしいんですけど、言葉の座りとかハマりとかがものすごくメロディに沿っていて。本当に僕の中では師匠……心の師匠筋なので(笑)。この座りに憧れて歌詞を書いてる部分があるなって。


フジムラ:本当に歌詞を見てて、松井洋平がどれだけ影響を受けてるかわかると思います(笑)。


松井:本当にシンプルな感動でしたね。ここはこうだからこうとかっていう難しい表現ではなくて、本当に伝えたいことがまっすぐ……メッセージとしてあるんじゃなくて、雰囲気として伝わってくる。まさに読後感っていうのが、最初にお願いした中にあった全体的なテーマ、曲自体のテーマでもあって。エンディングの絵もぜひ見てほしいんですけど、本田さんのアニメの中で、読み終えて電気を消すっていう瞬間で、ちょうど〈突然〉って終わるんですよ。あの時に感じる感情っていうのがまさしくこの曲を表すような感じになっているので、ぜひアニメを見て欲しいです。


ーー幸せな時間を過ごした余韻が残る映像になってますよね。しかも、両者の音楽的ルーツやバックグラウンドが合わさった音になってて。


松井:アレンジに関しては、最初にデモを送らせていただいた時点で、高野さん、ある程度想像ついてたんじゃないかなって思う部分もあって。


高野:想像してた部分と、最後にミックスに立ち会った時の「ああ、こういうふうになったのか」っていう驚き、2回味わえたかな。最初はもっと80’s志向が強かったし、僕はそっちに寄せていくつもりでギターも考えていたんだけども、みんなの中では僕の90年代サウンドみたいなものと融合させるっていう着地点があったんだなって。そこに気づかなかったから。どうやればいいのかなって最初はちょっと戸惑いもあったんだけど、なるほど自分らしくアコギを弾けばこうなっていくんだって最後にわかって。でも、ミックス前にまた石川くんが音足したから(笑)。


石川:フジムラと松井も足してますよ(笑)。


松井:だいたい僕らのやり方って、レコーディング終わってから3人の音をまたガッと足すっていうやり方をしてて。


石川:最後にゴリゴリになるっていう(笑)。


フジムラ:あれ、レコーディングの音と違うんですけど、みたいなことをよく言われるんですけどね(笑)。


高野:全部盛りな感じになってましたよね。


松井:あとミックスも高野さんと共同作業をされてる飯尾(芳史)さんで。僕らも何度かお願いしてて、たぶん一番わかっておられる方なんですね。そういう意味では最後にすごいミラクルを起こしていただきましたね。綺麗に混ざるんですよ、僕らの音と。


フジムラ:本当に今までのTECHNOBOYSの中ではあまり無いポップなものができて。それはやっぱり僕たちの音楽プラス、高野さんの声や歌、ギターっていう、高野さんのエッセンスとうまく融合できたのかなっていう気はしてます。


松井:さっき石川がJ-POPの完成形っていう言葉を使ってたんですけど、そこまではっきりとJ-POP感があるものは、アニソンや自分たちのオリジナルのバンド活動を通しても初めてじゃないかなって。


石川:伝統芸能ですよ。それも80年代のノスタルジックとか追いかけるわけじゃなく、今のテクノポップ、今のJ-POPを作りたいなっていうのはあって。


高野:テンポ感とかは今時なんですよね。コードの展開の多さもそう。で、転調とか、大サビがある感じとか。そのへんは90年代後半以降のJ-POP的で、音色はかなり80年代。僕、昨日動画をシェアする時に、「なつか新しい」って言ったんです。当時を知ってる人は懐かしいって感じるけど、でも違うんですよ。


ーーそうですよね。僕もTECHNOBOYSと同世代なので、シモンズ(エレクトリックドラム)のドゥクドゥンってなるだけでもキュンとしますが、アナログシンセや80年代のドラムマシーンの音を知らない世代には新鮮に感じると思います。


松井:軽い変態ですよね(笑)。でも、あの音への憧れっていうのはありますよね。


高野:でもそれはJ-POPの時代にはないから、時空がちょっとねじれてるんだよね。


石川:曲の骨子的にはボブ・ジェームスかなとは思ってて。そのへんがぐにゃっと時空が歪んでる感じです。


松井:だから80年代と90年代と今を行ったり来たりしてるんですよね。でも、本当に声ってすごいなって思いました。今回いつにもまして思いましたね。


ーー声の良さが全然変わらないなぁって思いました。


松井:そうなんですよね。当時、初めて聴いた時のインパクトをレコーディングスタジオで味わえるってすごいなって。今回とくにそういうのを意識されてたんですか?


高野:デビューしてしばらくは自分の声を好きになれなくて。だけどいろんな方に、声を聴いただけで誰の声かわかる、「シグネイチャーボイス」だって言われて。そうなんだ、って肯定的になれたのはこの10年くらいかな。最近になって、やっと自分の声を活かしてみようって思えるようになった感じ。


松井:「LOV」(2008年)あたりからそうじゃないですか?


高野:あれが20周年だったから、そのあたりからだね。


松井:やっぱりそうですよね。僕の中で、声を聴いた時に懐かしいなって思ったんですよ。その頃は僕らも仕事になりつつあったんで聴き方が変わってきてる頃だったんですけども、高野さんの曲を聴いてすごい懐かしいっていう雰囲気があって。それはサウンドっていうよりも声の触り方が。


高野:あれは飯尾さんミックスで、ドラムが(高橋)幸宏さん。


松井:ああ~! もう魂に刻まれてるんですよね(笑)。


高野:反応するポイントがね。情報じゃなくても伝わることがあるんだよね。


松井:そうですよね、あるんですよ。


■届いていなかったところに、自分の歌を届けられた


——(笑)。高野さんは弟子筋の方々と一緒にやってみてどうでしたか。


高野:いや、そこまで言ってもらえる人と、ここまでちゃんと共作したことってなかったかもしれないなって今、ずっと思っていて。だから、とにかく話が早かったですね。共通言語がたくさんあるから。それはもしかすると、僕がトッド・ラングレンや高橋幸宏さんと一緒にやった時の感覚に近いのかもしれないし、さすがに30年やってるとこういう立場になるんだなって。


フジムラ:あんまり言いすぎるとやりにくいかなって思ったので、そういうところは抑えつつやってたつもりだったんですけどね(笑)。


松井:抑えていても、あふれ出るものがありますよね(笑)。


高野:でも、僕もね、トッドとやった時とか、内心ものすごく浮足立ってたわけですよ。最初、サインをもらったりもしたんだけど、どれだけファンでも、一旦ファン心理を捨てないと一緒に仕事できないことに気づいて。そこからだいぶ落ち着いてできるようになったんだけど、それはある意味、残酷なことだなって。ファンとしてはすごく幸せなことであると同時に、ファンでいられなくなっちゃうんだなっていう寂しさも感じたりして。


松井:お仕事というかお願いする立場でまずやってく上で、心根的なスタンスあるじゃないですか。心構えというか。だからやっぱりお願いするだけじゃなくて、こちらもやっぱりアーティストとして、何かひとつの作品を作る時に、言い方はアレですけども、ある程度対等な立場というか、言い合える立場でやりたいなっていうのはあったので、そういう気持ちは極力抑えて(笑)。


フジムラ:出まくってたよ(笑)。あふれ出てたよ(笑)。


ーーこうしてお話を聞いていると、1回のコラボで終わらせてしまうのはもったいないなって感じてしまいますね。


高野:そうですね。じゃあ、「夢の彼方へ」を。


3人:あはははははは!


石川:これはすごいぞ!


松井:歌ってくれるんですか!(笑)。


フジムラ:吐きそうになってきた(笑)。


松井:高野さん……マジですか(笑)。


石川:うわ~、なんかやりたくなってきたな~。


高野:今ならカッコ良くできるかもしれない(笑)。


松井:よっしゃ、ミニアルバム作ろう!(笑)。あと、高野さんには、この1回に限らず、またアニソンを歌って欲しいですね。こういったコラボも生まれる土壌になっているし、いろいろなことがやれるフィールドなので、これからもっと面白くなっていくんだろうなとは思ってますけどね。


高野:そうですね。今回、アニソンボーカリストとして初めての参加だったんですけど、SNSの反響がすごくあって。今はよくも悪くもいろんなジャンルが細分化してるので、しばらく届いていなかったところに、自分の歌を届けられたっていう気持ちがすごくあるし、細分化した世界がミックスしていったり、膠着しかけたいろんなジャンルの壁みたいなものが壊れていくっていうのは面白いんじゃないかなと思ってます。あと、僕の友達のコトリンゴも思いがけない形でアニメの曲(映画『この世界の片隅で』)から脚光を浴びたのを身近で見てたので、いろんな展開の仕方があると面白いんじゃないかなっていうのは感じますね。(永堀アツオ)