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『アベンジャーズ4』で卒業 キャプテン・アメリカを人気者にしたクリス・エヴァンスの功績

2018年10月30日 10:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 思い出話からさせてください。2005年に公開されたマーベル原作映画『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』のPRでクリス・エヴァンスが来日した時、そのPRを担当したことがあります。当時はまだマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は始まっておらず、マーベル映画と言えばソニー・ピクチャーズ・エンタテイメントの『スパイダーマン』シリーズか20世紀フォックスの『X-MEN』『ファンタスティック・フォー』でした。


参考:『アベンジャーズ/IW』トム・ホランドを直撃インタビュー【写真】


 『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』でクリスは、発火人間ヒューマン・トーチ(“人間たいまつ”という意味)を演じており、そのキャンペーンで日本を訪れました。当時行われたのは、火を使うキャラなので、東京の消防博物館に彼を連れて行って雑誌用に撮影する、という企画(笑)。でも彼自身はこの企画にとても誠実に対応してくれてスタッフへの気遣いも忘れず、すごく控えめでやわらかい雰囲気があり、人柄の良さを感じました。劇中では、ちゃらけた若者を演じていただけに、そのギャップに驚き、なによりも優しく涼しい目が印象的でした。


 そのクリスが演じ続けたキャプテン・アメリカですが、スタート当初は、アベンジャーズの中核をなす、アイアンマンやマイティ・ソーに比べ、それほどの人気ではなかったように記憶しています。それぞれの第1作の興行成績を見ても、アメリカでも日本でもキャプテン・アメリカが一番低いし、MCU20作の中でも全世界興行収入は19位の成績でした。けれど、MCUの中でキャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースの人気はアメリカのみならず日本でも上昇します。それを実感したのは、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』での登場シーン。主要ヒーローのそれぞれに胸躍るようなシーンが用意されていましたが、スティーブ・ロジャースが『アベンジャーズ』のテーマ曲に合わせ姿を現すこのシーンは、明らかに場内のテンションが上がりました。(拍手が起こった劇場もあったそうです!)


 キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースをここまで愛されキャラに成長させたのはクリスのおかげでしょう。というのも、キャプテン・アメリカというのは名前からして国名が入っているし、そもそも兵士、しかもマッチョで、コミックだと盾を持って、こっちに突進してくる描写も多いです。だからイケイケのタフガイ・キャラというイメージもあります。アメリカのために戦っている、アメリカを押し付けるヒーローと思って敬遠する人も多いでしょう。でも、このヒーローは実に悩み多き人です。自分が命を捧げたアメリカという国が正しい方向に向かっているのか、いつも心を痛めています。そうキャプテン・アメリカは決して能天気な、「アメリカ万歳!」なヒーローではないのです。なによりもこのヒーローが守りたい、そしてその名にうたっている“アメリカ”とは、国のことでも、ましてや体制・政府でもありません。アメリカという国が持っているべき自由で寛容な精神のことなのです。彼は、アメリカ政府の敵と戦っているのではなく、人々の自由を汚そうとする奴らに立ち向かっているのです。だからスティーブ・ロジャースことキャプテン・アメリカは“善良”な人物でなければなりません。


 僕はMCUのキャプテン・アメリカをクリスが演じると聞いて驚くと同時に、クリスの、あの誠実な感じをキャプテン・アメリカに求めたんだなと思いました。キャプテン・アメリカはマスクをかぶったヒーローです。だからマスク越しの目の強さ、優しさがこのキャラの印象を決めます。恐らくマスクをかぶった時のクリスの目の美しさが決め手だったのではないでしょうか?


 1作目の『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』で、スティーブがなぜスーパーソルジャー実験(これが後のキャプテン・アメリカを生む)の候補に選ばれたのかを科学者が説明するシーンで、「君は良い心の持ち主だからだ」というセリフがあります。このシーンで、スティーブと僕がクリスに感じたイメージがダブリました。


 また2作目の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(僕にとって本作がMCUの最高傑作)の中で、「体制を守るため人々を監視すべきだ」みたいな計画が進んでいることを知った時、スティーブが「そんなことは許されない」と激しく怒ります。このシーンは、“自由を守るヒーローとしてのキャプテン・アメリカ”というキャラの本質をついた名シーンです。クリスのあのまっすぐな目でこのセリフを言われるとより心に刺さってきます。


 一方アベンジャーズ映画では、“オラオラ”感がないクリスだからこそ、俺についてこい的オーラを出すのではなく、自然と皆が集まってくるタイプのリーダーになったのでしょう。


 3作目の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』ですが、これは予想外の作品でした。僕は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で提示されていた”体制の維持と個人の自由”みたいなテーマがもっと深堀されると思っていました。つまりヒーローの行為とは個人の良心に従うか、それとももっと公的なものであるべきか、というディスカッション・ドラマになるだろうと。本作は前半は確かにそういう感じなのですが、実はキャプテン・アメリカことスティーブの友情の物語です。クライマックスでスティーブは“キャプテン・アメリカ”ではなく“スティーブ・ロジャース”として友を守るため戦います。それまでの『キャプテン・アメリカ』シリーズ2作、『アベンジャーズ』シリーズ2作を通じて、ずっと自分を犠牲にしていたスティーブが、『シビル・ウォー』では初めて自分のために立ち上がるのです。ラストでスティーブは、あの盾を置いていきます。キャプテン・アメリカではなくスティーブとして戦ってしまった以上、もうキャプテン・アメリカとしての資格がないからです。


 本作の続きである『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では、キャプテン・アメリカではなくスティーブ・ロジャースとして戦います。なのでグルートに対し「僕はキャプテン・アメリカ」ではなく「僕はスティーブ・ロジャース」と名乗るのです。


 そして次の『アベンジャーズ4』で、クリスはMCUから離れることを表明しています。繰り返しになりますが、アメリカのための“愛国心ヒーロー”と思われていたキャプテン・アメリカがみんなのための“愛されヒーロー”になったのは、クリスが演じたからです。『アベンジャーズ4』に期待したいのは、いま“スティーブ・ロジャース”として活躍している彼が、“キャプテン・アメリカ”に戻ってくれることです。もう一度マスク越しの、クリスのあの目を見たいのです。(杉山すぴ豊)