■地上波作品における、LGBTQのレギュラーキャラの比率が調査開始から最多
アメリカのテレビ作品はかつてないほどLGBTQの物語を伝えている。アメリカの団体GLAAD(中傷と闘うゲイ&レズビアンの同盟)が10月25日にレポートを発表した。
同団体では2005年からアメリカのテレビ番組で描かれるLGBTQの登場人物についてのレポート「Where We Are on TV」を発表している。14回目にあたる今回は、2018年6月1日から2019年5月31日の期間にプライムタイムで放送が開始するオリジナル脚本作で、すでにキャストが決定している作品を対象に調査を行なった。地上波、ケーブル放送に加え、ストリーミングサービスのオリジナル作品も対象になっている。
調査の結果、LGBTQのキャラクターの登場率には改善が見られた。地上波放送の作品では、LGBTQのキャラクターがレギュラー登場人物の8.8%を占めた。これはGLAADがレポートを発表してきた過去14年間の中でも歴代最高の数字だ。
GLAADの調査では、2018/2019年シーズンのプライムタイム地上波作品に出てくる857のレギュラー登場人物の中で、75人がLGBTQのキャラクターだった。このうち男女比は半々で、また史上初めて有色人種のLGBTQのキャラクターの数が白人のLGBTQのキャラクターの数を上回った。さらに地上波、ケーブル、ストリーミングの全てのプラットフォームで、バイセクシャル、トランスジェンダーおよびHIV・AIDSのキャラクターの数が増加したという。
■米ドラマ史上最多となるトランスジェンダーのレギュラー登場人物を擁する『Pose』、初のトランスジェンダーのスーパーヒーローが登場する『スーパーガール』
中でもトランスジェンダーのキャラクターは昨年の17人に対し、全てのプラットフォームであわせて26人登場。その半分以上をFXのドラマ『Pose』が占めている。
『Pose』で描かれているトランスジェンダーのレギュラー登場人物の数は、アメリカのドラマ史上最多だという。1980年代のニューヨークを舞台にしたこの作品は『glee/グリー』を手掛けたライアン・マーフィーが贈るミュージカルドラマで、すでにシーズン2の放送も決定している。またDCコミックスをもとにしたCWの『スーパーガール』には、10月から放送のシーズン4でテレビ史上初となるトランジェンダーのスーパーヒーローが登場している。
■最多のLGBTQキャラクター数はNetflix。アセクシュアル、パンセクシュアルの登場人物も
全ての放送局・サービスの中で最もLGBTQのキャラクターが登場する作品を製作しているのはNetflixだ。GLAADは3年前からストリーミングサービス製作のオリジナル作品を調査対象に含め始めたが、以来Netflixは常に最多の数を誇ってきた。
2018/2019年シーズンのNetflixオリジナル作品には88のLGBTQのレギュラーおよびリカーリングキャラクターが登場する。昨年は46だったので倍近い数字だ。その中で最も多いLGTBQのキャラクターが登場する作品は、2019年配信予定の『Tales of the City』と、現在第6シーズンまで配信されている『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』だという。
またアニメーション作品『ボージャック・ホースマン』には、ストリーミングサービスの中で唯一アセクシュアル(無性愛)のキャラクターが登場するほか、『サブリナ:ダーク・アドベンチャー』にはパンセクシュアル(全性愛)の登場人物が描かれる。
■「テレビで描かれるキャラクターや物語の重要性はかつてないほど増している」
ただ登場人物の多様性については未だ課題も残る。たとえば地上波作品のレギュラーキャストのうち、女性が占める割合は43%だったが、これは昨年から変化がない。2016年の人口調査ではアメリカ国民の51%を女性が占めていることから、テレビ番組は現実に後れを取っていることになる。また地上波においてはLGBTQのキャラクターは全体として増えたものの、その多くはゲイ男性のキャラクターに偏っているとも指摘されている。
GLAADの代表であるサラ・ケイト・エリスはこのレポートの発表に際し、「反LGBTQ政治が国内外で議論されている中、LGBTQの人々への理解と受容を深めるために、テレビで描かれるキャラクターや物語の重要性はかつてないほど増している」とコメント。
さらに『ふたりは友達?ウィル&グレイス』や『スーパーガール』をはじめとする作品が視聴率の面でも好成績を挙げていることを例に挙げ、「人々は新しい物語、新しい視点を求めている」としているほか、「LGTBQの視聴者の興味を引くためにLGBTQのキャラクターを登場させるだけではもはや十分でなく、その物語は繊細に掘り下げられている必要があり、また私たちのコミュニティーの持つ全ての多様性を反映していなければならない」と作品の作り手たちに呼びかけている。
■日本では? 今年は『おっさんずラブ』『弟の夫』などが話題
日本のドラマを見てみると、志尊淳がトランスジェンダーの女性を演じた『女子的生活』、同性婚をテーマにした漫画原作の『弟の夫』が今年NHKで放送された。また大きな話題を呼んだ『おっさんずラブ』やゲイのカップルが登場した『隣の家族は青く見える』、志尊淳がゲイの美青年を演じたNHK連続テレビ小説『半分、青い。』などはいずれも今年放送された作品だ。LGBTQのキャラクターが登場する作品が話題を集めることが増えているようにも感じる。
2015年に電通ダイバーシティ・ラボが発表した「LGBT調査2015」では、調査対象の全国69989名のうち7.6%がLGBT層に該当すると報告されている。日本のドラマを対象にしたGLAADのような調査はないが、増えているとしても現実の人口比率に対して十分とはいえないのが現実だろう(上述の作品に登場するLGBTQのキャラクターのほとんどがゲイ男性のみである)。またGLAADのサラ・ケイト・エリスが言うように「その物語は繊細に掘り下げられているか」という点でも、改善の余地がありそうだ。テレビドラマは時代と共に変化し、その時々の風俗や流行、世相を反映してきた。今回報告されたアメリカの前向きな潮流に日本も続くことを願いたい。