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Halo at 四畳半、Saucy Dog、mol-74……若手バンドが描くそれぞれの“失恋ソング”

2018年10月29日 10:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 back numberやMy Hair is Badなど、邦ロックバンドがブレイクするきっかけの一つに“失恋ソング”があるように思う。10月も終わり、季節は冬を迎えようとしているこの時期に聴いてほしい“失恋ソング”を、いま注目の若手ロックバンドが今年リリースした作品の中から紹介したい。


(関連:back numberはなぜ失恋を歌い続けるのか 情景描写を駆使した詞世界を読む


■Halo at 四畳半「ヒューズ」
 10月17日にリリースされたメジャーデビューフルアルバム『swanflight』の収録曲「ヒューズ」。タイトルである“ヒューズ”は、定格以上の電流が流れると切れてしまう電子部品のこと。失恋を女性目線で語っている同曲を、渡井翔汰(Vo/Gt)が真っ直ぐと力強く歌い上げることで、楽曲がより濃く彩られる。一度壊れてしまったものは元通りには戻らない。この恋を〈運命ではなかったの〉で片付けてしまいたいけれど、〈痛みすら愛おしいよ〉と思うほど、私の中ではまだ芽を伸ばし続けているーー。一定のリズムを刻む電子音で始まり、一定のリズムを刻む電子音で終わるのが印象的だ。その電子音はまるでふたりの歩調が同じだったあの頃を示すと同時に、機械的な冷たさから別れてしまった今をも表しているように聞こえる。〈どこかでこの未来を あなたは見ていたのでしょう/私とはまるで違う未来を 同じような振りをして〉。ラスサビ後に渡井とコーラスが別々の歌詞を歌うところが、ふたりが全く違う未来を歩んでいることを暗示しているようで、悲しさが込み上げてくる。


■Saucy Dog「コンタクトケース」
 5月23日にリリースされたミニアルバム『サラダデイズ』の収録曲「コンタクトケース」。君が置いていった“コンタクトケース”と共に、帰ってくるはずのないその人を待ち続けている僕の心情を歌う。石原慎也(Vo/Gt)の情緒的で感情を絞り出すような歌声にせと ゆいか(Dr/Cho)の綺麗な高音のコーラスが重なることで、切なさがじんわりと胸に染み渡る。今も洗面所にポツリと残る空のコンタクトケースを見て、テプラのシールようになかなか綺麗に剥がれてくれない君との思い出を遡る僕。前半は静かに君と過ごした日々を振り返り、サビでは楽器の演奏と共に、石原の歌声が昂ぶっていき、いまも心に残る君への疑問が響き渡る。そして、楽曲の終盤〈この日々はやがて昔話になるけど/決して嘘なんかにはならないよ/僕ら嘘なんかにはならないよね〉と石原が叫ぶように高音で歌うのが、もう呼吸ができなくなるのではないかと思うほど、苦しくて痛い。コンタクトケースという日用品から、これほどまでに胸を苦しくさせる物語を紡ぎ出すなんて。


■mol-74「◁◁ (瞼)」
 1月17日にリリースされたミニアルバム『▷ (Saisei)』の収録曲「◁◁ (瞼)」。美しすぎるサウンドと、タイトル通り“瞼”をテーマにした歌詞、そして武市和希(Vo/Gt/Key)の透き通るような綺麗な歌声が相まって、心にダイレクトに突き刺さる。同曲からはまるで、冬の空気のようなひんやりとした冷たさを感じた。〈寝顔も、笑顔も、優しい泣き顔も〉という歌詞が、曲が進行するにつれて〈~瞼を開けば映ってたのに〉〈~瞼を閉じれば映ってるのに〉〈~僕のすぐそばで映ってた時〉と変化していき、最終的には〈~これで最後なんて知らなかったよ〉とドラマチックに展開。そして、〈忘れないから〉と3回歌い、終わっていく。この〈忘れないから〉を武市が、微妙に異なるニュアンスで1度目、2度目、3度目と歌うことで、より切なさが増す。1度目は君に誓うように、2度目は自分に言い聞かせるように、そして3度目は瞼を閉じなければ君と会えなくなってしまった今を噛み締めるように。


 ほかにも、複雑で重厚なバンドアンサンブルと琴線に触れる黒川侑司(Vo/Gt)の歌声が魅力的な4人組ロックバンド・ユアネスの「Bathroom」(3月21日リリース1st Mini Album『Ctrl+Z』)や、「僕、back numberが好きで。自分が振られた時にback numberを聴いて、“僕もこういうふうになりたいな”と思ったのがきっかけですね」(平部雅洋(Gt/Vo)/引用:OKmusic)などの失恋ソングが描く、リアルな歌詞とエモーショナルなメロディに、思わず涙が出てしまいそうになるほど感情が刺激される。誰もが一度は経験するであろう失恋をテーマにした楽曲だからこそ、多くのリスナーが共感し、心に残る1曲となるのだろう。(文=戸塚安友奈)