全日本スーパーフォーミュラ第7戦の決勝レースが10月28日、鈴鹿サーキットで行われ、山本尚貴(TEAM MUGEN)が優勝を飾った。ランキング2位の山本はランキングトップのニック・キャシディ(KONDO RACING)との接戦を制し、1ポイント差で逆転チャンピオンに輝いた。
気温21度、路面温度23度、ドライコンディションで決勝レースは始まった。グリッドでは山本はソフトタイヤでスタートし、キャシディはミディアムタイヤを選択し、戦略が分かれた。ポールポジションから好スタートを決めた山本は、1コーナーにトップで飛び込みレースリーダーの座を確保する。
山本と2018年のチャンピオンを争うランキングトップのキャシディは4番手でポジションを守るも、5番手の塚越広大(REAL RACING)に迫られる。一方、同じくチャンピオン争いを展開する石浦は10番手でオープニングラップを終えている。
塚越にテール・トゥ・ノーズで背後につかれたキャシディは2周目の1コーナー飛び込みでソフトタイヤスタートの塚越に交わされ、順位を落とす。キャシディがファーストスティントで選んだミディアムタイヤはソフトタイヤに比べて温まりも遅く、序盤のペースではソフトタイヤ勢に及ばず我慢のレースとなった。
一方、ソフトタイヤを履いた山本はキャシディとは逆に序盤からペースを上げ、5周目を終えるころには2番手の山下健太(KONDO RACING)との差を約3.1秒にまで広げる。
6周目に入ると、ピットストップを行うドライバーが現れ始める。計算上はこのタイミングで給油を行えば残り周回数をピットストップなしで走り切ることができるため、各車のピット戦略に注目が集まった。
トム・ディルマン(UOMO SUNOCO TEAM LEMANS)、小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)などがピットストップを終えるなか、チャンピオン争いを展開する3人のうち、石浦が最初に動いた。
9周を走り切ってピットに戻った11番手走行の石浦は、ソフトタイヤからミディアムタイヤに交換。12.4秒のピット作業でコースに戻っている。ソフトタイヤで長く走るのが今年のスーパーフォーミュラの定石だが、石浦がここからタイトル獲得するには、山本、キャシディと異なった戦略でセーフティカーなどの外的要因に賭けるしかない。石浦は早めのピットでその可能性に賭ける戦略を採った。
一方、トップを走る山本は石浦と同様にファーストスティントにソフトタイヤを選択しているが、タイムの速いソフトタイヤをできるだけひっぱる戦略、ただ、リスクはセーフティカー、そして2番手山下のアンダーカットだ。山本尚貴はキャシディの順位を考えると勝利を挙げることしかチャンピオン獲得の可能性はない。
■ソフトタイヤに交換したキャシディが驚異の追い上げで山本に迫る
実際、山本を2番手で負っていたキャシディのチームメイト、山下は18周を終えてピットイン。その翌周、山下に合わせる形で、19周を終えて山本が動く。ピットインした山本とTEAM MUGENは多くのチームが12秒台のなか、11.3秒という素早いピットストップでソフトタイヤからミディアムタイヤに交換して、コースイン。山下の前を奪って戦列に復帰する。
ここまで完璧なレース運びを見せる山本とTEAM MUGEN。山本を追うミディアムタイヤでスタートしたキャシディは、レース周回数の半分を終えてもピットストップを行なっていないが、それで燃料が減り、路面コンディションが良くなるにつれてラップタイムを上げ、1分43秒台のタイムをコンスタントに刻み続ける。
26周終了時点で見た目上トップに立つキャシディと、すでに1回目のピットストップを終えて7番手につける山本との差は約30秒。キャシディがピット作業を行って山本の前に出るには、35秒から40秒のアドバンテージを築かなければならない状況だ。
レース中盤になり、燃料が軽くなったキャシディは1分43秒前半、対してミディアムタイヤに履き替えた山本は1分43秒中盤から後半。残り周回数15周を切って、追うキャシディ、トップを守りたい山本にとって正念場となる。
キャシディが動いたのは29周を走り切ったあとだった。ミディアムタイヤからソフトタイヤに履き替え、ピット作業を11.9秒で素早く終えたキャシディがピット出口に向かう。しかしピットレーンの制限速度を守るキャシディの横を、山本が通過。キャシディはピットストップで逆転ならず、しかし山下の前でコースに復帰し事実上の2番手につけた。
ソフトタイヤを装着したキャシディは31周目に1分41秒733のファステストラップを叩き出し、山本を猛追。そのペースはキャシディの方が毎ラップ約コンマ5秒ほど速い状況だ。
33周目、平川のマシンの右リヤタイヤが、メインストレートでバーストするアクシデントが発生。平川のマシンは約180度回転させながらコース脇のグラベルに滑っていき、マシンのテールをガードレールにヒットさせてストップ。このアクシデントによる中断はなく、そのままレースが続行されている。
■追うキャシディ、逃げる山本。終盤に繰り広げられた接戦
34周終了時点で全車がピットストップを終え、トップ山本、続く2番手にキャシディ。優勝争い、そしてチャンピオン争いは山本とキャシディの直接対決となった。このレースで勝った方が2018年のタイトル獲得。山本、キャシディどちらにとっても負けられない状況だ。
ラップごとに差を詰めていたキャシディだったが、35周目にS字コーナーで前のマシンがコースアウトした際の砂に乗る形でマシンの挙動を乱してタイムを失い、3.5秒まで縮まっていた山本との差が再び4.8秒にまで広がった。
しかし、ソフトタイヤを装着してペースの速いキャシディは再び山本との差を埋めていき、翌36周終了時点でのふたりの差は4.2秒、さらにその翌周には3.4秒と差は縮まっていく。山本のラップタイムは1分42秒前半、対するキャシディは1分41秒後半。キャシディは、残り5周でその差2.8秒とついに3秒以内にまで詰める激しい追い上げを見せる。
残り3周でその差は1.8秒。41周目でキャシディは自己ベストを更新して山本をさらに追い上げ。その差は1.2秒。前周よりもコンマ6秒縮めたキャシディ。計算上で言えば最終ラップに山本に追いつくことになる。逃げる山本、追うキャシディ。残り2周では山本が最終シケインでブレーキングで若干挙動を乱し、タイヤスモークを上げるシーンも。
最終ラップに突入した時点で、トップ山本と2番手キャシディの差はついに1秒を切りコンマ8秒にまで縮まった。逃げる山本は最終ラップでオーバーテイクシステムを使いながら必死にトップを守る。キャシディも最後までテール・トゥ・ノーズで山本を追う。
しかし、キャシディは山本をオーバーテイクするには至らなかった。キャシディの猛追を退けた山本はレースリーダーの座を守り、トップでチェッカーを受け、43周にわたる戦いが決着。キャシディとの最終的な差は、コンマ6秒だった。2018年スーパーフォーミュラ最終戦の優勝争い、そしてチャンピオン争いをかけたふたりのドライバーによるギリギリの限界バトルは山本の勝利で幕を閉じた。
2位でレースを終えたキャシディとともに、チームメイトの山下が表彰台の最後の一角を獲得している。
激闘を制した山本は1ポイント差でキャシディを上回り、2018年スーパーフォーミュラのチャンピオンを獲得。同時にSF14最後のチャンピオンとして名を刻むことになった。
また、最終戦で2位、3位のダブル表彰台を獲得したKONDO RACINGが年間のチームタイトルを獲得。ドライバーズタイトルの座は惜しくも逃したものの、チームとして初めてトップフォーミュラの年間タイトルに輝いた。
2018年のスーパーフォーミュラはSF14最終年であったことに加え、ソフトタイヤの導入など革新のシーズン。最後までファンを魅了するチャンピオン争いを見せた劇的なシーズンは、鈴鹿サーキットで完結した。