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楠田亜衣奈は“最高の今”を更新していく 初のアコースティック編成で臨んだ3周年記念ライブ

2018年10月28日 12:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 楠田亜衣奈が10月7日、東京・duo MUSIC EXCHANGEにて『楠田亜衣奈 3rd Anniversary Acoustic Live』を開催した。


参考:楠田亜衣奈×こだまさおりが語り合う、以心伝心から生まれる作詞術


 楠田自身、そしてファンであるくっすんサポーター(以下:くすサポ)にとって、10月7日は大切な記念日だ。3年前の同日、彼女はミニアルバム『First Sweet Wave』でソロアーティストとしてデビュー。その発表の場となり、同作を携えた“凱旋ステージ”と呼べる2回のイベントを開催したのが、このduo MUSIC EXCHANGEだ。3年間で制作した楽曲と、この日を待ちわびてきたくすサポを率いて、楠田がこの日、この会場に戻ってきたことは、言い表せないほど感慨深い。そんな今回のライブは、彼女にとって初のアコースティック編成で開催。3年間のアーティスト活動を総括するにふさわしい一夜だった。


 ライブは、記念日にぴったりな「Anniversary」で開幕。〈始まりの場所で 待ってるからね〉という歌詞も、この日のために用意されたように聴こえてくる。今回のステージでは全楽曲を通じて原曲よりも音数を減らし、ゆったりとしたテンポで演奏。彼女の歌声と歌詞に込められたメッセージが、普段よりもストレートに胸に届いてくる印象だった。


 続くMCでは、ファン泣かせな言葉が出てくるものかと思えば、登場時に客席からの拍手がなかったことに「(アコースティックでも)拍手は大事!」と、開演前から緊張気味なくすサポに優しく一言。どうやら特別なステージといえど、彼女とくすサポの関係性はいつも通りなようだ。そこから、大切な人と様々な季節を過ごす喜びを歌う「カレンダーのコイビト」を披露。普段と異なる落ち着いたテイストでも、客席の楽しげな雰囲気を感じられたことには、くすサポがこの3年間で、様々な音楽の“遊び方”を見出してきたことを気付かされた。


 4曲目「アイ・アム」は、今回のライブを特に象徴する楽曲。前奏と間奏では手元の書籍に目を落とし、「2015年5月9日、『さんくっすん祭り』にてソロデビュー発表」から、これまでの“記念日”を振り返っていく。楽曲の優しいメロディとともに、思い出の1ページを捲っていく様子は非常に微笑ましかった。


 続く「you & ai」は、楠田と公私ともに縁の深い南條愛乃の作詞曲。また、南條の作品を数多く手掛ける井内舞子が作曲を担当しており、ナチュラルな音色が特徴的だ。同じく井内が作曲した「spring heart」では“卒業”をテーマに、楠田が8年前に出会った“女の子”、そして彼女と2年前の4月に見た桜の景色を歌詞にしたと語る。ここでは、楽曲の根底にある無常観や儚さがより引き出されて演奏された。


 ステージは、チャフチェスとウィンドチャイムの音に導かれるように、「My yesterdays」でメランコリックな雰囲気へ。ここではドラムに代わりコンガとタンバリンを奏でることで、時の流れを深く遡る様子を演出するかのようだ。また歌詞には、“旅の途中”ですれ違った人に想いを馳せる描写があるのだが、このライブに惜しくも参加できなかったファンもいるだろうからこそ、活動3年目を迎えた感謝の想いを「My yesterdays」に込めたのかもしれない。


 「次は元気な曲をやりたいと思います」と宣言した後には、“次の約束”を重ね続けてきた「POWER FOR LIFE」を披露。〈何気ないコトバにもちゃんと 今までが詰まってる〉という歌詞に始まる2番Bメロでは、直前をレイドバックさせることで、この楽曲で一番の聴きどころに昇華した。


 ライブ終盤には、「First Sweet Wave」と「トドケ ミライ!」を歌唱。どちらもデビュー作に収録された、この日聴かずには終われない楽曲だろう。「First Sweet Wave」で3年を越えて“コタエあわせ”をするのも束の間、「トドケ ミライ!」では、この先の周年記念ライブすら楽しみにさせられる。そんな“ミライ”への期待感に満ち溢れたまま、この日のステージは幕を下ろした。


 ライブ終了後、「First Sweet Wave」をはじめ、楠田の数多くの楽曲で作詞を手掛けている、こだまさおりの顔がふと頭に浮かんだ。楠田は彼女と対談した際、「私には書けない私の気持ちを書いてくれている」と語り、その存在を“エスパー”と評していた(参考:楠田亜衣奈×こだまさおりが語り合う、以心伝心から生まれる作詞術)。この日の「First Sweet Wave」の歌詞は、そのメッセージにもどこか自信のなさが見受けられた3年前と一変し、幸せな“イマ”をそっと謳歌するように聞こえてきた。こだまがもし作詞を通じて、このライブの光景を“予言”したのであれば、彼女はまさしく、本物のエスパーなのかもしれない。


 作詞つながりでこの日を振り返ると、特に印象的だったのが「アイ・アム」だ。その終盤には、〈この先もまだ どきどきして/夢の続きを まだまだ見よう/最高の今 更新して/創り続けよう 私のミュージック〉という一節がある。これは、今回の未披露曲「オーマイダーリン」より、〈この先もこの先も 君となら夢見れる〉また〈最高!この瞬間終わらせたりしないから〉という部分とリンクするのだが、注目すべきは“誰が作詞をしているのか”だ。「オーマイダーリン」で作詞を担当したのは、ENA☆と山田高弘の2人。そして肝心の「アイ・アム」は、楠田自身によるものだ。実際に彼女は自分の力で、“最高の今”を更新している。そんな楠田亜衣奈だからこそ、まだまだ“夢の続き”が気になって仕方がない。(青木皓太)