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戸田恵梨香とムロツヨシが過酷な現実に直面していく 『大恋愛』表裏一体の喜びと悲しみ

2018年10月27日 17:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「好きと嫌いは選べない」その言葉は、そのまま「健康と病」にも置き換えられるし、「幸せと不幸せ」にも当てはめられる。私たちは、自分の手で人生を選んでいるように思えて、実は何も選べていないのかもしれない。


参考:ムロツヨシが語る、『大恋愛』で掴んだチャンスへの喜び 「あがき続けてきました」


 金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)第3話は、主人公・尚(戸田恵梨香)に忍び寄るアルツハイマー病の恐怖と、その不安も含めてまるごと尚を明るく包み込もうとする真司(ムロツヨシ)の愛が満ち溢れる時間と、こぼれ落ちる瞬間が描かれた。


 「幸せを感じられるうちに」いつも走ってばかりの尚は、さらに人生のギアを上げていく。真司と一緒に美味しいものを食べ、飲み、踊る。もし、この先もずっと健康であることを前提としていた尚であれば、何気ない風景のひとつだったかもしれない。だが、今の尚にとっては、これ以上ない贅沢な時間だった。


 瞳をうるませて笑う尚。その涙に気づかぬふりをする真司。何も言わずとも、この幸せは長くは続かないことを、ふたりとも知っているのだ。嬉しいと悲しいはいつも表裏一体だ。愛を知り、幸せを知るほど、それをいつか失う苦しみがよぎる。だからといって、その愛を、その幸せを私たちは手放せない。その苦しみが来る日を1日でも先延ばしにすることを祈るしかできないのだ。


 「好きな小説のタイトル、母親の旧姓、真司が捨てられた神社の名前」ネットバンキングで本人確認のためにするような3つの質問は、まさしく尚が尚であることを確認する術。そして、真司が尚の頭の中にかけた鍵だ。狭いシングルベッドでふたりが額と額をくっつけて鍵をかけるシーンは、どんな官能的なベッドシーンよりも鼓動が高鳴った。


 だが、現実は厳しい。尚は物理的に鍵を玄関にさしたまま忘れてしまう。その光景が、いつか真司がかけた鍵をも、尚が忘れてしまいかねない不安な未来を予感させる。その現実を憂いたり、ましてや尚を責めても意味がない、と真司は努めて明るく振る舞うのだった。尚の手を取り、自分のホクロを押させて変顔をして笑わせる真司。手のひらからサラサラとこぼれる尚の記憶が、笑顔が、希望が、すべて落ちて絶望してしまう前に、こぼれた分だけ新たな楽しい思い出を。そんなふうに支える真司がいじらしい。


 尚が望む全てを叶えて上げたいという想いで、カビ臭いと言われたトイレもお風呂も台所もキレイに磨き上げ、ドヤ顔で迎える真司に、尚は屈託なく「ピッカピカ~!」と大喜び。今できることを、と取り組んだ真司だったが「でも、せまーい!」と笑う尚に、尚の生活レベル、その手の中にある幸せは、真司のそれとはレベルが違うことを痛感。さらに、元婚約者の侑市(松岡昌宏)と対峙したことから、さらにそのコンプレックスは刺激される。尚の手からこぼれ落ちるものに相当するものを注ぎ込むには……とアルバイトのシフトを増やし、激務を続けるも真司のほうが体を壊してしまうのだった。


 尚がこれから失うであろう知識や思い出は、きっと真司がどんなに頑張っても補填することなんでできないのだ。「好きや嫌いが選べない」のと同じように、どんな記憶から失っていくのかを尚自身が選べないのだから。だが、私たちはどこかでアルバイトのシフトを増やすことを選択したように、自分自身の人生を選べているような感覚に陥ってしまう。何かを求めたから好きになったのでは? 忘れたい記憶だったから忘れたのでは? ……と。しかし実際は、理由や理屈では説明がつかないような展開で人生は大きく動くものなのだ。


 第3話は、尚が真司に抱きつきながら「侑市さん」と名前を間違えてしまうショッキングなシーンで幕を閉じた。呆然とする真司の顔を、尚は見えていない。尚はきっと過去の記憶を失うだけではなく、真司を傷つけてしまう新たな記憶とも向き合っていかなければならない。“壊れる前に殺してほしい“と、侑市に訴えた切ないシーンがよぎる。「好きと嫌いは選べない」のと同様、生と死も選べない。自分の力ではどうにもできない大きな運命の流れを前に、尚と真司がどう生き抜くのか。その姿はきっと病はもちろん様々な過酷な現実に直面している人に寄り添うことになるだろう。(佐藤結衣)