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相葉雅紀とイッセー尾形が伝える命の重み 『僕とシッポと神楽坂』愛情が滲む演出が光る

2018年10月27日 13:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 東京・神楽坂を舞台に、動物や飼い主たちの心温まる交流を描くドラマ『僕とシッポと神楽坂』(テレビ朝日系)。「坂の上動物病院」を営む獣医師・高円寺達也(相葉雅紀)は、「家族の一員」である動物と飼い主たちの心に寄り添う。飼い主たちのペットに対する思いを受け止め、動物たちの病気やケガを治していく。神楽坂に住む人々と動物たちとの関係がおだやかに描かれる今作は、忙しい1週間で疲れた体と心を癒すあたたかなドラマである。


 10月26日に放送された第3話では、扇店『かなめ屋』を営む小宮千津(加賀まりこ)と飼い猫・カナメとの交流が描かれた。カナメは「坂の上動物病院」に徳丸(イッセー尾形)がいたころからの患畜だ。夫を亡くした日にカナメを拾った千津は「愛猫を残して逝くことになるかもしれない」と不安を抱えていた。幼い頃から千津によくしてもらっていた達也やひょんなことから千津と知り合ったトキワ(広末涼子)、徳丸は、そんな彼女の思いを受け止め、千津とカナメの心に寄り添っていく。


 第3話は、コウ先生として慕われる達也と、長年神楽坂に住む動物たちと飼い主を見守ってきた徳丸の姿が印象的な回だった。


 第3話では、今後の展開にも大きく関わるである神楽坂の「再開発」という話題が浮上した。再開発に反対する町内会の会話の中で、「坂の上動物病院」は再開発事業者の格好のターゲットだと言われていた。しかし達也と地域住民のおだやかな関係性によって、動物病院が守られるのではないかと期待できる。一見すると気弱そうな印象の達也だが、神楽坂に住む人々とのちょっとした会話から、地域住民から親しまれているキャラクターだと分かる。町内会に遅刻してしまった達也だが、おっちょこちょいな彼の様子を見ても、彼に対していらだった言動を見せる住民はいなかった。長年動物たちを診てきた徳丸も住民たちに親しまれてきたが、達也もすでに認められているようだ。達也を演じる相葉の“普通の青年”らしい演技がそれを感じさせるのかもしれない。近所の優しいお兄さんのような雰囲気で住民たちと関わる演技を見せる相葉。この普通さが、動物たちと向き合ったときの真剣な目つきとの対比となり、各話ごとに掲げられたテーマを引き立たせるのだろう。


 徳丸に対する敬意にも注目したい。優しく真面目な達也に比べると、徳丸はマイペースでおっとりした性格である。「坂の上動物病院」を営むことになったのも、徳丸の下で働く予定だった達也に、徳丸が病院ごと受け渡したことがきっかけだ。しかし尊敬する獣医師である徳丸に対して、達也は尊敬の念を見せる。いつもは穏やかな徳丸と達也の関係も、動物たちと関わるときには「獣医師」としての姿に変わり、師弟となる。達也演じる相葉の真面目な姿勢がそのまま表れているのかもしれない。師である徳丸との対話で見せる眼差しは真剣だ。相葉のまっすぐな目が印象的である。その目は、動物たちと飼い主の心に寄り添う達也そのものだ。


 カナメを残して逝くことを不安がる千津は、今は亡き夫とともに営んできた扇店をたたみ、店の形をそのままに住んでくれる人とカナメの新しい飼い主を探していた。しかし、千津が予期せぬタイミングで倒れたことや、扇店を購入しようとした若い夫婦が再開発事業の関係者だったことが分かったことから、千津は考えを改め扇店に戻ってくる。カナメのために生きようと決心した矢先、カナメに重大な病気が判明し、手術シーンが始まる。


 カナメの手術は成功する。しかし徳丸が「動物たちの老人ホームをつくり、千津がいなくなってもカナメが寂しくないようにする」と伝えると、千津はその言葉に安心して、長年営んできた扇店で人知れず静かに息を引き取る。亡くなった千津を見つけた徳丸とトキワの目には、彼女に寄り添うカナメの姿が映った。


 達也がカナメの命をつなぎ、徳丸は千津を見送る。この対比は、悲しくもあたたかい演出だった。動物たちの心に寄り添い、飼い主の想いを真摯に受け止める達也だからこそ、難しい手術を成功させることができたのだろう。長年彼女たちを見守り続けてきた徳丸がいたからこそ、千津は安心して逝くことができたのだろう。達也と徳丸の描写によって、「家族の一員」として大切にされているペットの存在意義や、彼らを大切に育てる飼い主たちの深い愛情が浮かび上がる演出だった。


 第3話では、相葉の“普通の青年”っぽさと動物に対する真摯な姿勢、イッセー尾形のおちゃらけつつも芯のある演技が、「家族の一員」であるペットと飼い主との関係性を自然に伝えてくれた。今作は、視聴者に癒しを与えながらも、命の重みはしっかりと伝えてくれるドラマである。今後も、おだやかな演出から伝わる命の重みを感じとっていきたいものだ。(片山香帆)