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『のむコレ』でアジア映画の“熱”を体感せよ 『狂獣 欲望の海域』『The Witch/魔女』に注目

2018年10月27日 12:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今、アジア映画が熱い。特にアクション映画は熱い。ここ日本でも近年グングンとアクション映画のレベルが上がっているように、アクション映画の聖地・香港も、“ヴァイオレンス映画大国”となった韓国も、凄まじい勢いでアクション映画の平均値が上がり続けている。今回の記事では映画館・シネマート新宿/心斎橋で実施されるイベント「のむコレ」で公開される映画から、そんな“熱”を感じ取れる2本のアクション映画を紹介させて頂こう。


●『狂獣 欲望の海域』
 1本目は『狂獣 欲望の海域』(17年)。海に沈む金塊を巡る野獣刑事と密漁団の対決を主軸に、複雑に絡み合う男たちの欲望を格闘アクションたっぷりで描いた作品だ。いわゆる香港ノワールであるが、特筆すべきは主人公の野獣刑事の野獣レベルが高すぎる点だろう。悪人を見つければ即突撃して叩きのめす。たとえ刃物を持った悪党たちに囲まれても、一切躊躇せず、顔色一つ変えずに殴りかかる。まさに文字通りの狂獣だ。この野獣刑事ならぬ狂獣刑事を演じるのが“次に来る男”マックス・チャンである。


 マックス・チャンは『ドラゴン×マッハ!』(15年)でトニー・ジャーとウー・ジンを1対2で圧倒する最強獄長を、『イップ・マン 継承』(15年)でドニー・イェンの好敵手を演じた人物だ。ちなみに『パシフィック・リム:アップライジング』(18年)の「妙にシュッとした司令官」でもある。残念ながら同作ではアクションをしなかったが、もしも彼がイェーガーに乗っていたなら、KAIJUもプリカーサーも3分も持たなかっただろう。アクションスターとしての技量は勿論、44歳とは思えない若々しさとシュっとしたビジュアルの持ち主であり、直近では『イップ・マン』シリーズの外伝にして主演作『葉問外傳 張天志』が控えているなど、“次に来る男”と呼ぶに相応しい。さらに共演には『SPL 狼たちの処刑台』(17年)で異常に格闘スキルの高い人情刑事を演じたウー・ユエや、『インファナル・アフェア』(03年~)シリーズでお馴染みのショーン・ユーが脇を固める(本作ではラッパーの般若そっくりなワイルドな風貌になっている)。映画全体としては若干の勇み足な感は否めないものの、マックス・チャンやウー・ユエのアクションは一見の価値がある。これからの彼らに期待が高まる1本と言っていいだろう。


●『The Witch/魔女』
 続けてご紹介するのは『The Witch/魔女』(18年)。韓国からやってきたスーパーナチュラル・ガールズ・ヴァイオレンス・アクション・アイドルムービーである。そんなジャンルあるのか、盛りすぎじゃないか、そう思われた方も多いだろう。しかし本当にこういう映画なのだ。映画はいきなり人体実験の風景から始まる。脳ミソが大写しになる不穏なオープニングが終わると、次は絵に描いたような悪の研究所、それも大惨劇の直後から物語の幕が上がる。壁に大量の血液が飛び、死体がそこら中に転がる。そして血まみれで森の駆ける少女が1人……ヴァイオレンス全開の掴みだが、そこから映画は思わぬ転調を見せる。この血まみれ少女がスクスク女子高生まで成長し、同級生と一緒にアイドルを目指すドタバタ日常コメディになるのだ。


 血まみれ少女は牧場を経営する親子に拾われ、ジャユン(キム・ダミ)という名で養子になった。しかし、そんな優しい父は不況の煽りを受けて牧場経営が厳しくなり、もっと優しい母は認知症を発症してしまう。「このままでは一家がバラバラになってしまう……」悩むジャユンに、同級生のミョンヒ(コ・ミンシ)は賞金付きのアイドル・オーデションを受けることを勧める。ジャユンとミョンヒ。この女子高生コンビが本作の大黒柱である。大人しいけど完璧なジャユンと、お調子者で友情に厚いミョンヒ。2人の掛け合いは何とも楽しい。本格的にジャユンのブレイクが見えてくると「あんたがアイドルになった時のために契約書を交わしておこうよ。ギャラは半々で」と軽口を叩き、「半々は理不尽じゃない?」とジャユンが返せば、ミョンヒが「いやいや、良心的だって。大手事務所だと数十年単位で奴隷契約だよ?」とオチをつける。そんな冗談を交わし合う一方で、ジャユンが変な男に絡まれれば、すぐさまミョンヒが「変な奴がいる! 警察を呼んで!」と声を上げて彼女を守る。


 日本でも人気のアイドル青春もの/日常ものを思わせる、微笑ましく、そして熱い関係性だ。この2人のドタバタだけでも永久に観ていられると言っていい。実際、2人の演技は母国でも高く評価されており、同作にて今年の大鐘賞(韓国のアカデミー賞)で、それぞれ主演女優賞/助演女優賞にノミネートされている。私自身、正直この2人が普通にアイドルになるまでを描くだけでも十分な気もしたが、幸か不幸か本作はヴァイオレンス映画である。しかも手掛けているのは、ここ数年で最凶最悪の殺人鬼映画の1つ『悪魔を見た』(10年)で脚本を担当し、監督作『新しき世界』(13年)では韓国ヴァイオレンス映画の新鋭として評価を固めたパク・フンジョン。当然のように映画はオープニングでも示された“そっち側”へと転がってゆく。


 本作は2つの物語が並行して進む。1つは先にも書いたアイドルを目指して四苦八苦する2人の物語。もう1つは超人を作るため人体実験を繰り返す極悪組織の陰謀劇だ。アイドル青春モノと普通は混ざらないジャンルだが、そこは『悪魔を見た』で「スーパー・スパイVS快楽殺人鬼」というカードを強引に組んだフンジョン監督。さすがの剛腕で話を結びつけてゆく。2つの物語は徐々に接近・混合を始め、あるタイミングで1つの物語に統合されてしまう。ここに至るまでの大まかな流れは、ポスターや予告の時点でネタバレしているのだが、そうは言ってもクライマックスで爆裂するヴァイオレンスの凄まじさには度肝を抜かれるだろう。そして前半の微笑ましさとの落差と、狂気と暴力が吹き荒れた後の2人の絶妙な演技には胸を打たれるはずだ。フンジョン監督の『新しき世界』は男2人の「情」を描き切った映画だったが、本作は女2人の「情」を描き切った映画だと言える。というか、単純にフンジョン監督は性別問わずにクール×陽気の関係性ケミストリーが好きなだけでは? とも思うが、その辺の好みの話は本人と居酒屋にでも行かないと分からないので、この話はこれでおしまいです。


 さて、そんなわけで2本のアジア系アクション映画をご紹介したわけだが、無論どんな映画も好き/嫌いは、観てみないと分からない。今の段階で私から言えるのは、『狂獣 欲望の海域』も『The Witch/魔女』も、アジアのアクション映画にある“熱”を確かに感じられる、ということだ。その“熱”を、是非のむコレのスクリーンで体感してほしい。(加藤よしき)