2018年10月27日 10:52 弁護士ドットコム
会計検査院の調査でわかった、競馬など公営ギャンブルの的中で税務申告がなされていない問題。2015年は、高額倍率の払戻金の8割ほどが未申告の可能性があるという。
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朝日新聞や読売新聞が伝えたところによると、検査院は、50~200円を賭けて、1050万円以上が払い戻されたケースを抽出。その年にあった1000万円以上の一時所得や雑所得の税務申告と照合したところ、対象約127億円のうち、20億円強の申告しかなかったという。
しかしながら、そもそも公営ギャンブルの儲けに課税するのは、「二重課税」ではないかという議論が古くからある。
たとえば、中央競馬だと、100円の馬券を買えば、10円が国庫に入る(第1国庫納付金)。JRAにも券種によって10~20円ほどが入るが、事業利益の半分は国庫に収める決まりだ(第2国庫納付金)。2015年度なら、第1国庫納付金は約2583億円、第2は約242億円にもなる。
馬券を買った時点で、10%以上を国に払っているわけだから、さらに税金を払えと言うのは酷という見方もできるだろう。これは二重課税にならないのだろうか。三冠馬オルフェーヴルの一口馬主だった足立敬太弁護士に聞いた。
「誤解しないでいただきたいのですが、『二重課税だから』という理由から直ちに違法だというわけではないのです」と足立弁護士は言う。
ーーでも、二重課税で一方の課税が取り消された裁判例がありましたよね?
「二重課税とは、一般的に同一の納税義務者に対して一つの課税原因(税金が課される取引や事実関係)に関して同種の租税が2回以上課される状態をいいます。
裁判では、たとえば、生命保険金を年金払いで受け取る際に、相続税と所得税が二重に課税されているとして、所得税の課税を取り消すという判決が出された事例がありました(最高裁平成22年7月6日判例)。
ただ、このケースも、二重課税を排除する趣旨の所得税法の具体的な規定に抵触したから課税を取り消されたのであって、『二重課税だから』という理由からストレートに導かれた結論ではありません。
二重課税は不公平だが、二重課税状態を解消するかはあくまで租税政策の問題であり、立法府の裁量に委ねられています」
ーー裁量ですか…。お酒に消費税がかかるのはおかしいって話がありますけど、なんで解消されないのかと思っていました
「それは『二重課税』に対して根本的な誤解があるかもしれません。
ビールには酒税がかかっており、酒税込みで価格が決まります。さらに酒税込みの価格に応じて消費税がかかっています。だから『酒税と消費税が二重にかかっているから二重課税じゃないか』と言われるわけですよね。
ところが、国税庁の見解は二重課税ではないというのです。その理由は、酒税は酒類メーカーが納税義務者であり、消費税は消費者が納税義務者であって、納税義務者が異なるから二重課税の要件にあてはまらない、ということです」
ーーなるほど、冒頭の定義ですね。「同一の納税義務者」でないと二重課税にならないと
ーーそうなると、馬券の場合はどうでしょうか?
「馬券を購入したらその一部が自動的に国庫納付されるという制度からすると、ビールを買ったときに価格に含まれている酒税のような税金に似ていると言えます。しかし、似てはいますが、国庫納付金は税法で規律されておらず、税金そのものだと言い切るのは無理があります。
そしてレースが始まる前の『馬券の購入代金(馬券購入に対して等しくかかる)』とレース結果が出た後の『当たり馬券の払戻金(当たり馬券にだけかかる)』とでは同一の課税原因とはいえないのではないでしょうか。
『ただでさえテラ銭(胴元の取り分)が高いのに』という競馬ファンの心情は大変理解できますが、二重課税というには無理があると考えます」
ーーそもそも税金じゃない…。中央競馬だと「WIN5」(5レースの勝ち馬を当てる)で4億円馬券が出たこともありました。しかし、うち1億円は税金で持っていかれる計算です。これはあんまりでは…
「検査院の調査結果を受けて、払戻者の補足がしやすいネット馬券購入などについて、一定額を超えた高額払戻には一時所得を前提とした源泉徴収が導入される可能性があります。
しかしガッツリ源泉徴収されては高額払戻の魅力半減です。源泉徴収制度導入は、最近の競馬ブームに水を差すきっかけになるかもしれません」
【取材協力弁護士】
足立 敬太(あだち・けいた)弁護士
北海道・富良野在住。投資被害・消費者事件や農家・農作物関係の事件を中心に複数の分野を取り扱う。競馬は馬券より一口派。過去にオルフェーヴルなどに出資。
事務所名:あい弁護士法人富良野・凛と法律事務所 旭川OFFICE
事務所URL:http://www.furano-rinto.com/
(弁護士ドットコムニュース)