MotoGP第16戦日本GPで最高峰クラス5度目のタイトルを決めたレプソル・ホンダのマルク・マルケスに、イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーがインタビューを実施。その後編をお届けする。2018年シーズンも圧巻の走りで王者に輝いたマルケス。その強さの秘密は何なのだろうか?
ーーーーーーーーーー
Q:エンジンブレーキのコントロールはどう。以前ほど君はブレーキでリヤをスライドさせていないようだね。
マルク・マルケス(以下マルケス):それはリヤのグリップのせいだね。ミシュランのリヤタイヤはグリップがあるから、リヤをスライドさせることは難しい。そしてスライドさせると、よりシャープなスライドになる。だからコーナーに進入するときにリヤをスライドさせると問題になるんだ。スライドがシャープ過ぎてエイペックス(コーナーの内側の頂点)を逃してしまうんだ。
Q:君の最大の強みのひとつは、あらゆる状況に適応できることだ。MotoGPクラスデビューした2013年のフランスGPでは、ウエットで初めてのMotoGPレースだったね。君は8周目以降は最速のライダーだった。どうしてそんなことができたんだ?
マルケス:主な理由のひとつにはモトクロスでのトレーニングがあると思う。モトクロスはいつも同じサーキットを走るけど、最初の走行から最後の走行までの間で常に異なるコースに変化していくし、周回ごとに違うんだよ。だからそこに適応しなくちゃならない。トレーニングの午前中がウエットだとグリップがあるし、その日の遅くには(路面が乾いて)グリップがより少なくなる。ダートトラックバイクでも同じことだ。もしダートトラックバイクでトレーニングをしたら、毎回違うコンディションになるだろうね。
Q:レース中はコーナーやグリップによってライディングテクニックをいくつも使っているかい?
マルケス:もちろん。あるコーナーでは、強くブレーキをかけ、バイクをストップ&ゴーさせるし、違うコーナーでは、コーナリングスピードをより維持するようにする。
タイヤによっても異なるね。たとえばル・マン(第5戦フランスGP)では、僕は週末の間アグレッシブでいられた。周回を重ねてもタイヤのパフォーマンスが落ちなかったからだ。
でもムジェロ(第6戦イタリアGP)のようなコースでは、タイヤの割り当てをチェックして、フロントタイヤがとても柔らかいことが分かったから、望む様にプッシュできなくなるんだ。だから僕のライディングスタイルは同じにはならない。タイヤがそのライディングスタイルを受けつけないからね。
Q:ブリヂストン時代には、ライダーやエンジニアは多かれ少なかれ毎週末の予想ができていたけど、今では状況はとても異なっているね。
マルケス:それは全ライダー間ですべてのことが公平になっているからだ。各ライダーとバイクは、タイヤの割り当てからベストな選択肢を見つけるだろうからね。あるマニュファクチャラーにとって相性がいい週末もあれば、別の週末では他のマニュファクチャラーが調子を上げるかもしれない。
ブリヂストンタイヤでは、ミディアムのフロントタイヤに、ソフトのリヤタイヤでレースをしていたことがほとんどだった。みんな同じタイヤを使っていたんだ。今では全員に多くの選択肢がある。ヘレスでは何人かはソフトのリヤタイヤを選び、何人かはミディアム、何人かはハードを選んだ。それでも皆速かった。これはミシュランタイヤの良い点のひとつだね。
Q:タイヤ選択がより難しくなったことで頭と技術を使って違いを生み出せるという状況は気に入っている?
マルケス:ブリヂストンタイヤの方が簡単だった。だけど、ミシュランタイヤで良いことはレースウイーク中、ひとつのタイヤに助けられるかもしれないということだ。バイクや他のことに苦労させられていても、腹を立てる前にすべてのタイヤ選択を把握する必要がある。
もし(バイクに)問題があっても、良いタイヤ選択ができるかもしれないし、そうすれば他のバイクよりも自分のバイクの挙動が良くなるかもしれないからね。
Q:心理的な状態を表す”ゾーンに入る”という言葉を知っている? うまく走れている時にすべてのものがゆっくり見え、スライドする前からスライドをセーブできるようなことはある?
マルケス:分かるよ! たまにそういうことが起きる。毎回の走行ではないけれどね。レースでは、フリー走行の時よりもはるかに集中している。もちろんフリー走行でも集中しているし、速さを出そうとしている。でもセットアップのことを考えたり、これを試そうとかあれを試すべきだとか考えて走っていても、コーナーに進入するときには忘れてしまうんだ。
日曜日のレースではセットアップのことは忘れて集中する。“速く走ってクラッシュするな”ってね。バイクのセットアップのことは考えないよ。
Q:レースをしている時は考えて走るというより潜在意識で走っていると感じる?
マルケス:感じるよ! いつもね! いつも自然な感じだ。他のすべてのライダーたちも同じだと思うよ。人は、リヤやフロントのブレーキをどのようにしているのかとか、どのようにギヤをダウンシフトしているのかとか、どのようにバイクを走らせるのかとか尋ねてくるけれど、すべて自然な流れで、ただやるだけなんだ。
Q:何年も前、モナコでアイルトン・セナがこれまでにないくらい速い周回を刻んでいる時に体外離脱体験をした。バイクに乗っている時やレースをしている時に体外離脱の経験をしたことは今までにある?
マルケス:それはないな。僕に体外離脱が起きたことはない。でも経験してみたいね、面白そうだから! でも起きたことはないよ。僕はいつもヘルメットの中にいるよ!