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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『13回の新月のある年に』

2018年10月26日 16:32  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、髪を切りにいく度に「痩せた?」と聞かれる島田が『13回の新月のある年に』をプッシュします。


 参考:その他画像


 ニュー・ジャーマン・シネマの鬼才と呼ばれる、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の2作品『13回の新月のある年に』『第三世代』が国内で初めて劇場公開される。今回はその2作品から『13回の新月のある年に』をピックアップ。


 男性から女性に性転換をしたエルヴィラは、一緒に暮らしていた男・クリストフが家を出ていったことをきっかけに過去を振り返るようになる。本作はエルヴィラの波乱に満ちた人生を、冷静な視線で描いていく。


 ファスビンダー監督は、『あやつり糸の世界』『ヴェロニカ・フォスのあこがれ』などの作品で知られ、ゴダールらヌーヴェル・ヴァーグ派の影響を受けたニュー・ジャーマン・シネマの旗手として名を馳せてきた。そんなファスビンダー監督のフィルモグラフィーの中でも、本作は他作品とは異なる雰囲気を感じさせる。


 本作を制作するきっかけは、ファスビンダー監督のパートナーの自死とも言われており、映画全体に暗いムードが漂う。エルヴィラの5日間は、これまでの彼女の歴史を辿る旅のようになっており、現在の恋人との別れや、孤児として育てられた修道院への訪問、性転換のきっかけとなった過去の恋人との接見を通して、結末を迎える。


 こうしたあらゆる人との出会いを通して、自身のアイデンティティーは容赦なく解体され、孤独を実感するエルヴィラだが、それは我々観客も同様である。一切のノスタルジーは排除され、淡々と展開される本作は、脚本、監督のみならず撮影や美術までファスビンダー自身が行っている非常にパーソナルな作品だ。寒風が吹くようになったこの頃、エルヴィラの人生に飛び込むことで、自身の孤独と向き合うのも大きな映画体験になるのではないだろうか。 (島田怜於)