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パノラマパナマタウンは今、ミクスチャーの最先端にいるーー自主企画『渦:渦』を見て

2018年10月26日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 去る10月11日、パノラマパナマタウン(以下、パノパナ)が渋谷clubasiaにて、自主企画『渦:渦』を開催した。出演したアーティストは、ホストのパノパナに加えて、SUSHIBOYSと山嵐の2組。SUSHIBOYSは、いま勢いに乗る気鋭のヒップホップグループで、山嵐は言わずと知れた日本のミクスチャーロックのオリジネーター。このジャンルも世代も越境したラインナップは、決してお友達同士の馴れ合いなんかではないし、「憧れのバンドとついに共演できましたー!」なんていう軽いノリでもないだろう。パノパナはこのイベント全体を通して、自分たちがいま、どんなものにシンパシーを感じ、どんな歴史を背負おうとしているのか? ということを明確に主張している。


(関連:パノラマパナマタウンが語る、ロックバンドとしての今「“数字”は絶対的な価値ではない」


 この“意志”あるラインナップからは、パノパナのロックバンドとしての気骨も感じさせた。ロックバンドにとってライブハウスやクラブという現場は、コンパみたいな内輪ノリで盛り上がるためにあるわけでも、「どこそこの会場がソールドアウトしました!」といってキャリアアップの指標とするためにあるわけでもないことがほとんどではないだろうか。文字通り、それは“LIVE”をするために、“生きる”ためにあるのだ。パノパナはロックバンドとして、自分たちが何者で、何をやっていて、それは誰に向けられているのか? ということを本当によく理解しているし、その全存在をもって“生きる”ために、ライブハウスに立っているように感じる。


 トップを飾ったSUSHIBOYSは、見事なフロウをかましたかと思えば、巨大なビニールのアヒルボートをフロアに投げ込むなど、独自の“キメ”と“くずし”の緩急が炸裂したパフォーマンスで、会場全体を自分たちの空気の中に巻き込んで見せた。


 パノパナはSUSHIBOYSだけでなく、これまでもCreepy Nutsと自身のツアーで共演したり、11月にはchelmicoとのツーマンライブを控えていたりと、ヒップホップシーンとの接触が多いバンドである。もっと言うと、パノパナの岩渕想太は、本サイトに掲載された配信シングル『$UJI』リリース時のインタビュー(参考:パノラマパナマタウンが語る、ロックバンドとしての今「“数字”は絶対的な価値ではない」)で、XXXTentacionのような、内省的な痛みを叫ぶラッパーへのシンパシーやライバル心を露わにしていたり、この日の転換中のSEでは、XXXTentacionと近しい気質を持つラッパーだったLil Peepの曲が流れたりもしていた(ふたりとも亡くなってしまったが……)。きっとパノパナは、この数年間、国内外問わず巻き起こってきたヒップホップのうねりを肌身で感じてきたのだろう。“いま、この瞬間”の当事者であるということは、“いま、世界で何が起こっているのか?”ということに敏感であるということだ。彼らのヒップホップに対する理解は、同時に彼ら自身を「ロックバンド」という表現に深く向き合わせ、その在り様を先鋭化させることに繋がっている。


 そして、2番手に登場した山嵐は、1990年代より培ってきたロックもヘヴィメタルもヒップホップも飲み込んだミクスチャーサウンドを、深く重く響かせる、貫禄のパフォーマンスを披露。


 岩渕は山嵐について「『ミクスチャーロック』という言葉が生まれる前からミクスチャーロックをやっていた人たちです」「いろんなバトンを受け取ってきたけど、今日は、世界一重いバトンを受け取ったつもりでいます」とリスペクトを込めて語っていたが、この日この場に山嵐を呼んだことで、パノパナは、自分たちがどんな歴史の上に立っているのかを聴き手に伝えたかったのではないかと思う。いまでこそロックやヒップホップなどがクロスオーバーしているサウンドは珍しくない。ロックの範疇に限らずとも、性や国境といったボーダーを超えて存在するポップスターたちのバックに鳴り響くサウンドは、様々なジャンルが交配されながら生み出されていることが、もはや前提になりつつある。


 でも、忘れてはいけない。壁を壊し、垣根を超えながら新しいアートフォームを作り続けてきた先人たちの歴史が、確かにあったのだということ。この日は山嵐との幸福な共演を果たしたが、もちろん、パノパナの背後に見えるのは山嵐だけではない。そこにはDragon AshやBACK DROP BOMB、Rage Against The Machineなどもいる。佐野元春やThe Clashにまで遡ってもいい。挙げればきりがないくらいの歴史がそこにはある。壁を壊し、出会い、対話することーーそれが“ミクスチャー”だ。ミクスチャーであることがそのまま、その音楽家の“思想”たりえた歴史がある。そういう歴史の最先端にいま、パノパナはいるのだ。


 こうして、“いま”と“歴史”が交錯する場所に自分たちの存在を定義づけたパノパナは、自主企画ライブのトリに登場。「結局、主人公は俺たちなんだ」と言わんばかりの素晴らしいライブを見せた。


 冒頭、挨拶代わりの「PPT Introduce」で始まり、続く「世界最後になる歌は」で岩渕は早くもオーディエンスで溢れるフロアに飛び込む。そして、フロア側面に設置されていた階段の手すりによじ登っていく。フロアにいる誰もが、階段の手すりにギリギリな感じの不安定な状態で立っている彼を見つめる。そこで演奏が止み、全員で合唱ーー〈世界最後になる歌は こんなもんでは伝わらない〉。演者と聴き手の、圧倒的なシンクロ感は、「いま、この場所が世界の中心なんだ!」と叫びたくなるほどの美しさ。この瞬間は、自分がここ最近見たライブの中でも、最も美しい光景のひとつだった。


 その後も、「リバティーリバティー」、「マジカルケミカル」、「パノラマパナマタウンのテーマ」、「Gaffe」と、序盤はファンキーでフリーキーなサウンドでフロアを揺らしていく。田村夢希(Dr)と田野明彦(Ba)のリズム隊は柔軟に、力強くグルーヴを生み出し、浪越康平のギターはキレッキレのカッティングを聴かせたかと思えば、ブルージーなリフを響かせた。こうした豊かな表現力が、このバンドの魅力をより多面的なものにしている。


 そして、後半は「ラプチャー」、「くだらnation」、「$UJI」、「フカンショウ」へと、よりストレートな楽曲の連打で、威風堂々としたバンドの現在地を見せつける。特に、このライブの翌日10月12日の午前0時より配信開始された新曲「くだらnation」と「$UJI」という最新シングル曲2曲の、聴く者の耳と心に一心不乱に殴り込んでいくようなド直球っぷりが素晴らしかった。怒りも疑問も反吐も血も涙も笑顔も愛も、それがどんなんに屈折したものであろうと、自分の中にあるすべての感情の存在をなかったことにしないために、この世界に突き刺すために、彼らの音は、どんどんと真っ直ぐに伸びていく。


 すさまじい熱狂空間の中、本編は「フカンショウ」で終了。アンコールでは「いい趣味してるね」が演奏された。本当にいい夜だった。パノラマパナマタウンは、好きなものを好きだと言いながら、やりたいことをやっている。そして、「お前もそうすればいいのに」と言われているようにも思えた。


■天野史彬(あまのふみあき)
1987年生まれのライター。東京都在住。雑誌編集を経て、2012年よりフリーランスでの活動を開始。音楽関係の記事を中心に多方面で執筆中。