F1第17戦日本GPの決勝レースが行われた10月7日、レース後の鈴鹿で、ホンダは『2019年からレッドブル・グループとレッドブル・レーシングに対して、2019年から2年間、パワーユニット(PU/エンジン)を供給する』という契約書に正式に調印した。
その前日の土曜日には、予選後、レッドブルF1代表のクリスチャン・ホーナーが山本雅史モータースポーツ部長を訪れて、こんなメッセージを送っていた。
「(スペック3の調子は)なかなか、良さそうだね。でも、これに満足しないで、これからも継続してプッシュし続けてほしい」
レッドブルは6月にスペック2の出来を確認したうえでホンダと覚書を交わし、今回スペック3のPUパフォーマンスを見て、正式に調印したことになる。つまり、レッドブルにとって現在のホンダのパフォーマンスは想定内といったところか。
ホンダの山本部長はどのように現状を評価しているのだろうか。
「スペック3については、鈴鹿で初めてレースを使ってみましたが、自分たちが狙っていたターゲットのパフォーマンスに対していくつかの課題が見えたため、それを克服するために、あるエリアの部品を新しくして信頼性を向上させました。したがって、スペック的には3のままです」
「ドライバーたちも『性能は間違いなく向上している』と言っているし、GPSのデータでも上がっていることは確認しています。今シーズンの残り3戦でのホンダとしての目標は、このスペック3を使いこなして最大限のパフォーマンスを発揮すること。アメリカGPでグリッドペナルティを受けても新しいエンジンを投入したのも、信頼性を気にしながら使うのではなく、スペック3のポテンシャルをフルに引き出したかったためです」
第18戦アメリカGPでピエール・ガスリーがパワーユニットを交換したのは、「ロシアGPと日本GPで最新のスペックを走らせた結果、ガスリーが鈴鹿で使用したPUが想定していたよりもダメージが大きく、今後のレースで使えないレベルに達していた」(田辺豊治F1テクニカルディレクター)からだった。
■F1日本GPで2台揃ってQ3に進出するポテンシャルを見せたホンダの新パワーユニット『スペック3』
だが、鈴鹿でダメージを負ったのはガスリーだけで、ブレンドン・ハートレーが鈴鹿で使用したスペック3に関しては、「いますぐ壊れるほどのダメージがあるわけではないが、交換しないという選択肢がないわけではありません」と語った後、アメリカGPの土曜日に交換する決断を下している。
その理由を田辺TDは明確に示さなかったが、山本部長の言葉を借りれば、「信頼性を気にしながら使うのではなく、スペック3のポテンシャルをフルに引き出したかったため」ではないだろうか。
現在、トロロッソ・ホンダはザウバーとコンストラクターズ選手権8位争いを激しく戦っている。アメリカGPを終えた時点でトロロッソ・ホンダが32点でザウバーは28点。その差は4点しかない。日本GPでは2台そろってQ3に入り、アメリカGPの予選でもQ3に進出できるポテンシャルをスペック3は披露した。
すでにライバル勢はパワーユニットの使用基数に関して、レギュレーションで定められている上限に達している。そのため、最終戦まで現在の手持ちのパワーユニットをやりくりして使用するしかない。
アメリカGPの1戦はペナルティを受けても残りは全開で走らせて、実力でポイントを取ろうという戦略がそこに見え隠れする。
だが、山本部長はアメリカGPで新パワーユニットを投入したのはそれだけが理由ではないと話す。
「スペック3を使いこなすことは、残りのレースで少しでも多くのポイントを獲得して、現在激しい争いを繰り広げているコンストラクターズ選手権争いという点でも重要なことですし、2019年の開発にとっても非常に大切なことになります。今年の計画をしっかりとやりきることが将来につながりますから」
■ホンダの新パワーユニット『スペック3』にフェルスタッペンも高評価
2019年のレギュレーション変更は、パワーユニットに関してはほとんどない。2019年パワーユニットの開発は、現在開発しているものの延長上にある。つまり、今回アメリカGPでホンダが新パワーユニットを投入したのは、2019年シーズンに向けた戦いをスタートさせたものだとも言える。
レッドブルのマックス・フェルスタッペンは、ホンダのスペック3に感銘を受けたと語る。
「予選でトロロッソ・ホンダはかなり速く見えた。もちろん、まだシーズンは終わっていないので僕たちは最終戦まで目の前の戦いに集中しなければならないけど、来年の仕事をスタートさせることが今から待ち遠しいよ」
ホンダとの仕事を待ち遠しく思っているのは、フェルスタッペンだけではない。ホンダとの交渉を昨年から開始してきたレッドブルのアドバイザーであるヘルムート・マルコも同様だ。そのマルコと長い間、交渉を重ねてきた山本部長は、今年の日本GPが終了した後にマルコからこんなメールをもらったという。
「鈴鹿のスペック3の実走データは非常に好感が持てるものだった。おめでとう」
そのスペック3は、アメリカGPでさらに信頼性を向上させた。それを見たマルコはメディアにこう語った。
「ホンダのエンジンを搭載する2019年、われわれはタイトルを争えると信じている。プロジェクトは本当に素晴らしいものだ」
スペック2を使用していた夏場は「2019年は勉強の年」(ホーナー)と語っていたレッドブルが一転、今では「タイトルを争う」と自信をのぞかせている。それは裏を返せば、レッドブル側にそう思わせるだけの進化をスペック3は遂げているということだろう。そういう意味では、スペック3は来年を見据えて開発された、スペック2とは異なるアイデアが採用されたまったく新しいエンジンなのかもしれない。
そのスペック3が2018年シーズンの残りのレースでどんな走りを披露するのか、楽しみにしたい。