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Twitterでは怒りの声も 『獣になれない私たち』田中圭から新垣結衣への“愛してる”を考える

2018年10月26日 12:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ワンマン社長・九十九(山内圭哉)へ、決死の業務改善要求をした結果、「特別チーフクリエイター」に昇進させられた晶(新垣結衣)。業務の負担は変わらないまま、10月24日に放送された『獣になれない私たち』第3話では、晶の彼氏・京谷(田中圭)が泊まりに来る。


 京谷の家には、心を病んで退職した元カノ・朱里(黒木華)が4年間も居座り続けている。京谷が1か月の間に職と新居を探せと言ったところ、朱里は猛反発して暴れてしまい、避難してきたという。朱里の暴走が加速するに連れて、晶と京谷の間にあるモヤモヤはさらに大きくなっていく。それと同時に、呉羽(菊地凛子)を通して、獣のように本能のままに生きる人と生きられない人の差が浮き彫りになったのが今回のエピソードだろう。


 京谷の母・千春(田中美佐子)から届いたお酢を勝手にネットオークションにかけ、それから得たお金でうさぎを飼い、ペット可能な物件を探し直さなければいけない状況を見事に作り出した朱里。それだけでなくネットオークションに気づいた千春が、宅配泥棒の疑いをかけ、警察に相談するように京谷に持ちかける。介護に忙しい中、晶と京谷の結婚が唯一の楽しみだという千春に、朱里との同居は明かせない。それでも朱里の暴走は止まらず、一向に追い出せないという板挟み状態が出来上がった。


 晶と京谷と朱里。この3人の問題を考えると、京谷が鏡越しに晶に放った「愛してる」に疑問を持つ(実際Twitter上でも、同シーンには京谷への怒りの声が上がっていた)。呉羽が、「5tap」で晶と京谷の話し合いに乱入し、京谷に対して“不倫男が妻と別れると言いつつも二股をかけている状態に似ている”と説教したとき、京谷が声を大にして主張したのは、朱里との体の関係はないということだった。でもそれは、極端に裏を返せば、体の関係があるから晶を愛しているにも繋がってしまう危うさがある。


 “愛”の形は人それぞれで答えがないため、晶と京谷がどのような状態にいれば愛し合っているかというのはもちろん回答できないのだが、晶が愛されてないと思ってしまうのは妥当だ。自己犠牲こそが愛とは言いすぎではあるが、大切な相手が苦しさを感じる状況を緩和することに抵抗がないのが愛情のうちの1つではないだろうか。


 だから上記のことを愛と考えたとき、ただでさえあまり知りたくない元カノという存在が、心のみならず物理的にも京谷の生活に存在している状況は晶にとって酷だ。それが4年間も解消されないということは、「ないがしろにされている」と感じるのは当然だ。愛しているなら、どうして苦しめ続けられるのだろうか。それに対して京谷が晶に言った上辺だけの「愛してる」が、晶の辛さにさらに拍車をかける。


 こんな関係誰から見ても間違っているわけで、呉羽の意見はもちろん正しいのだけれども、正論なんてあんな精神状態の2人にとって刃物以外の何物でもない。第2話で恒星(松田龍平)が、人間は進化するにあたって色んな能力を失ったと言っていたが、問題を頭で考える能力は充分にあるのに動けない晶と京谷はまさに獣になれない2人だ。


 そんな重苦しいストーリーが進む中で、ラストの恒星(松田龍平)が晶を見送って道を歩くシーンは、『ラ・ラ・ランド』の「A Lovely Night」の場面のような美しさを感じた。もちろんあんなダイナミックでロマンティックな展開ではないのだが、第1話から晶と恒星は2人並んでよく歩く。しかも、第2話では教会の鐘のために、険しい坂を共に乗り越えていた。『ラ・ラ・ランド』の同シーンでは、タップダンスが2人の高揚を表現する手段として使われていたが、“歩く”という一見地味な行動も運動で、互いの心拍数は上がっていくため、水面下で晶と恒星の距離は徐々に近づいていると思える。


 晶と恒星の間に溝ができただけでなく、さらに呉羽が京谷にキスをするという衝撃のシーンで幕を閉じた第3話。呉羽の直感的な行動には驚かされるばかりだが、あまりにも共感できる悩みを抱えたキャラクターが多数いる中で、まったく読めない動きをする呉羽に翻弄されることが意外と快感だったりする。(阿部桜子)