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エレカシ 宮本浩次、他者から引き出される“新たな顔” スカパラ、椎名林檎…コラボ続きの要因探る

2018年10月25日 10:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 椎名林檎と宮本浩次のコラボ楽曲「獣ゆく細道」が、『news zero』(日本テレビ系)のエンディングテーマとして10月1日からオンエアされた。この日からこの番組のエンディング曲が椎名林檎になること、彼女とは初共演のあるアーティストが客演していることは放送の4日前に発表されており、「誰だろう?」と、ファンの間で予想合戦が行われていた。僕の見る限りでは「小沢健二」という読みの人が多かったが、そう読んだ人も、読まなかった人も、椎名林檎のファンも、宮本浩次のファンも、とにかくみんなびっくりしたのではないか、と思う。


参考:エレカシ 宮本浩次、トーク番組で見せるキャラクターの“本質” 『行列』初出演を機に考察


 私もとても驚きました。この3日前の9月29日に、東京スカパラダイスオーケストラの次のシングル(11月28日リリース)『明日以外すべて燃やせ』のフィーチャリングボーカリストが宮本浩次であることが発表になったばかりだったが、曲自体は公開されていない、という状態で、この椎名林檎×宮本浩次の方が先に世に放たれた。という意味でも、インパクトが大きかった。


 そもそも宮本浩次、客演するとか誰かと一緒にやるとかなんて、昔は絶対考えられない人だったけど、2010年の『JAPAN JAM』でCharaと共演したあたりから変わり始め、今年2018年は3月にさいたまスーパーアリーナで草野マサムネ、桜井和寿とトリプルボーカルで「ファイティングマン」を歌い、4月には『ARABAKI ROCK FEST.』で菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、田島貴男、TOSHI-LOW(BRAHMAN)・yui(FLOWER FLOWER)、村越弘明、仲井戸”CHABO”麗市、山田将司(THE BACK HORN)を自身のステージに招いた。


 それから、エレファントカシマシ、2017年3月から始まったデビュー30周年プロジェクトが2018年3月のさいたまスーパーアリーナ2Daysで一区切りしたあとも、ニューアルバムの制作→リリース→そのツアー&それらの合間に春フェス夏フェスに多数出演、と過密スケジュールがノンストップ状態で続いていたので、9月に全部終わって新春コンサートまで休み、というこの時期が「今だ! 今しかない!」というタイミングだったのもあるかもしれない、椎名林檎的にも、スカパラ的にも。本人としても、これが1年前のオファーだったら、やりたくても物理的に不可能だっただろう。


 さて。「獣ゆく細道」、作詞作曲は椎名林檎、アレンジは笹路正徳。誰の目にも耳にもあきらかなように、メロディも歌詞も「椎名林檎純度100%」な曲、宮本浩次は詞にも曲にもノータッチ、いちシンガーとして与えられた曲を一生懸命歌います、という作りになっている。


 多くのエレファントカシマシファン、宮本浩次ファンにとって、このコラボのもっともうれしい点は、まさにそこである。こういう宮本浩次を、我々は聴きたかったし、観たかったのだ。どういう宮本浩次を? 自分の意志じゃないことを人にやらされている宮本浩次を、だ。


 宮本がジャジーでシャンソンな、「半拍食う」「半拍タメる」多用のメロディを歌う。宮本が女性ボーカルとハモる。MVでは、宮本が無精ヒゲを生やしている。和装している。踊り狂う4人のダンサー(elevenplay)と共演する。


 いずれも、自分の意志では絶対にやらないことばかりだ。でも、やったら絶対かっこいいことばかりだ。あ、「宮本、もともと江戸趣味じゃん、和装とか好きそうじゃん」と思われるかもしれないが、だから逆に普段はNGのようなのです。


 そして、「自分の意志ではないことを人にやらされた」時こそが、エレファントカシマシの重要なポイントになってきたことは、ファンならご存知だろう。たとえば『ココロに花を』『明日に向かって走れー月夜の歌ー』をプロデュースし大ヒットに導いた佐久間正英。たとえば2000年のアルバム『ライフ』を手がけた小林武史。2008年にEMIから移籍した時に「俺たちの明日」を書かせたユニバーサルのディレクター(当時)近藤雅信。その時その時の宮本は、どうしても納得がいかなかったり、多大なストレスを抱えたり、出来上がりが気に食わなくてウォークマンを地面に叩きつけたりしていたことを、インタビュー等で明らかにしている。でも、結果的に彼らの方が正しかったことも、認めている。


 現在のエレファントカシマシは、蔦谷好位置や村山☆潤といったプロデューサーは入っているが、宮本と対等、もしくは宮本のやりたいことを実現する的な組み方であって、佐久間正英のような「上から言うことをきかせる」「ほっといたらやんないことを無理にでもやらせる」感じではない。そうなってから、もうずいぶん経つ。そういう「上からの力」を、宮本が必要としなくなった、というのもあるだろうが(それがなくても今のエレカシめちゃくちゃ成功してるし)、ただ、たまにはそういう境遇に叩き込まれた時の宮本を見たくなるのも事実なのだった。新しい顔が見られるので。宮本本人にもそういう意識があったから、このオファーを受けたのだと思う。


 なお、先日、ファンクラブの会報で、宮本にインタビューした時にきいたのだが、MVの無精ヒゲも和装も、椎名林檎からのリクエストだったそうだ。やはり。「ミヤジ、おヒゲ。あと和装ね。絶対似合うから。ファンみんな、絶対喜ぶから」と言われたそうです。椎名林檎、一緒に歌いたいとかいう以上に、「やってほしいけど自分じゃ絶対やんない」宮本を引き出したい、というプロデューサーとしての欲望から、オファーしたのかもしれない。(兵庫慎司)