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『まんぷく』浜野謙太が大評判! “笑いを誘う”存在感がお茶の間に求められる理由?

2018年10月25日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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「ドラマってなんであんなに待ち時間長いんだろうねえ。いつもああなんだよね? 星野くん、よく耐えられるねえ。俺、無理だわあ。無理無理」


 2007年、大根仁がせきしろのエッセイ『去年ルノアールで』をテレビ東京深夜でドラマ化。主演は星野源で、ゲストみたいな形で浜野謙太も出演。撮影の翌日かなんかに、SAKEROCKとしてふたりにインタビューする仕事があり、その時の雑談でハマケンが口にしていた言葉です、これ。


参考:長谷川博己、これまでの朝ドラとはひと味違う魅力に 『まんぷく』萬平役で見せる“青い”20代


 ハマケン、前年の2006年に映画『ハチミツとクローバー』で初の役者仕事は経験ずみだったが、ドラマはこの時が初めて。で、こんなことを言っていたのでした。ふたりとも絶対憶えていないだろうが、僕は強く記憶している。その後立て続けに何度も、そう、本当に何度も、「あんなこと言ってたくせに!」と思わされて来て、現在に至るもんで。


 『週刊真木よう子』(テレビ東京系ドラマ、2008年)や『少年メリケンサック』(映画、2009年)あたりまでは、まだ「近い知り合いがおもしろがって使う」みたいなノリだったが、2011年の映画『婚前特急』の宣伝で吉高由里子と共にテレビに出まくったぐらいから「普通にドラマや映画に出ている」感じになり始めた。


 それでもその時はまだ「吉高由里子はいいけど、この男は誰?」みたいな具合で、いじられながらテレビに出ていたが、2013年暮に竹中直人企画の舞台『夜更かしの女たち』に出演する頃になると、もうあたりまえに浜野謙太=俳優、になっていた。下北沢本多劇場で観たんだけど、お客さんたちみんな、普通にハマケンを観ていたのを憶えている。


 そして。2016年の朝ドラ『とと姉ちゃん』を皮切りに、「NHKでやたら使われる役者」の仲間入りをする。BSプレミアムの『とと姉ちゃん』のスピンオフドラマ(2016年)、2017年5月に同じくBSプレミアムの『この世にたやすい仕事はない』、9月には地上波の『植木等とのぼせもん』を経て、同年11月には『男の操』(これもBSプレミアム)で主演。で、2018年は、大河ドラマ『西郷どん』と朝ドラ『まんぷく』の両方に出ている俳優になっている。ちなみに両方出ているのは、松坂慶子、内田有紀、浜野謙太の3人。という並びにも、何か、「うわあ、そうかあ」と思わされるものがあります。


 特に朝ドラ『まんぷく』で演じている歯科医、牧善之介。大評判、と言うほかない。朝ドラってうるさいファンが多いので(私もです)、この『まんぷく』も「どうなのあれ」みたいな辛口評価をSNSなどでよく見かけるが(私は肯定派です)、そんな人も「でも牧善之介は好き」とか書いているくらいのレベルだ。確かにおもしろい。「自分ではおもしろいつもりゼロだけどどうしようもなくおもしろい」人を演じるとすばらしいことになるんだな、この人は。ということを、私は牧善之介から学びました。


 知り合いとかの依頼でちょっと俳優仕事をやる→特に売り出しているわけでもないのにどんどん仕事が増える→今やすっかり俳優、でも今でも並行してミュージシャン。という偉大なる前例としては、誰もがピエール瀧を思い出すだろう。ピエール瀧の後に続いた存在としては、たとえば峯田和伸も、渡辺大知も、ちょっとアングルが違う気がする。ドンピシャなのはハマケン、そんな気がしないだろうか。


 僕はするのでこのまま話を続けるが、そこまでひっぱりだこになった理由も、ピエール瀧と近いのではないか、と、ドラマや映画の彼を観ていると思う。


 以前、ピエール瀧をよく起用する監督やディレクターに、どこに惹かれるのか訊いたことがある。「顔」「姿形」「そこにいる感じ」みたいな答えが圧倒的多数だった。要は見た目ってことですね。あのフォルム、あの存在感がほかにいない、だから使いたくなる、という。


 ハマケンもそうなのではないか。もちろん、ちゃんと芝居できる、うまい、という基本的なクオリティはあるとしても、そこに乗っかるプラスアルファとして、あの顔、あのフォルム、あの存在感は、ものすごく大きいのではないか。別の役者が、白馬に乗って「牧善之介です」と言った時を思い浮かべていただきたい。どうでしょう。ハマケンよりハマる人、いるでしょうか。いませんよね。福子(安藤サクラ)と萬平(長谷川博己)の結婚式の集合写真を撮る時に、カメラマンに「そこの男性立ってください」と言われ、「立ってます!」と返すというシーンもあった。あんなシンプルなギャグがおもしろくなるのも、ハマケンならではだろう。


 イントロや間奏で、ハマケンがビシビシ踊りまくって、開脚とかの大技を出して、そのたびにお客さんみんな「キャーッ!」て盛り上がるの、在日ファンクのライブにおける大きな魅力だが、あれ、ハマケンだからあんなに「おもしろかっこいい」のだ、ということは、生で観たことのある人なら同意してくれるだろう。スラッとした男前があれやってたって、かっこいいけどおもしろくないでしょ? というのと、根本は同じなのではないかと思う、俳優浜野謙太の魅力は。生まれつきの容姿はもちろん、それプラス、表情とか立ち方とか動き方などに、人の目を惹きつけるものがあるかどうか、「こいつ使いたい!」と思わせるものがあるかどうか。言い換えれば、そこからすでに表現になっているかどうかだ。で、なっているから、ハマケンはあんなに重宝されるんだな、と思うのだ。


 たとえば、それこそ北野武監督なんて、ほとんど俳優の見た目しか気にしてないんじゃないか、と、映画を観ていて思うこともあるし。あ、そういえば北野映画はまだですね、ハマケン。起用されないかな。


 最後に。今、ここまで書いて、読み直して、「NHKしか観てないのかよ!」 とも言われそうだな、と気がついた。そんなことありません。わかりやすいのでそこにしぼって書きましたが、2014年の映画『ジャッジ!』で演じた、ちくわ会社のバカ息子役とかまで観ているし、さっき挙げた舞台『夜更かしの女たち』だって、ハマケン目当てでチケットを買いました。ファンなんじゃねえか、じゃあ。(文=兵庫慎司)