2018年限りでのWEC世界耐久選手権参戦中止を発表した直後に迎えた第4戦富士6時間レース、澤圭太を擁するクリアウォーター・レーシングの61号車フェラーリ488 GTE(澤/ウェン-サン・モク/マット・グリフィン組)は同レースをクラス7位で終えた。
2017年からWECのLM-GTEアマクラスにフル参戦し、2018/19年“スーパーシーズン”も引き続き世界選手権に挑んでいるクリアウォーター・レーシングだが、チームは10月12~14日に行われた第4戦富士の直前に、11月の上海戦を最後に現体制での参戦を中止する旨を発表。これによって澤のWEC参戦もシーズン半ばで中断を余儀なくされることとなった。
そんな突然の発表直後に迎えたWEC富士は昨年、チームと澤とって優勝がみえていたなかで悔しいクラス2位となったイベントだ。リベンジに燃えるチームは今回、初めて澤に予選アタックを任せることにし、金曜の走り始めから予選シミュレーションを実施。その時点でクラス3番手タイムを記録した。
迎えた土曜の公式予選ではモクのアタック後、新品タイヤを履いた澤が渾身のアタックを敢行し、自身のレースウイーク最速タイムとなる1分37秒892をマーク。
ふたりのドライバーの平均タイムで順位が決定する予選ではクラス6番手となったが、澤のタイムは3台のフェラーリ勢のなかで最速。元F1ドライバーのジャンカルロ・フィジケラ(54号車フェラーリ)や、ペドロ・ラミー(98号車アストンマーチン)のベストタイムを上回るものだった。
■勝利の方程式“澤スタート”を見事完遂
日曜の決勝は朝から雨が降り続くコンディションのなか、セーフティカー(SC)先導のもとレースがスタートした。いつもどおり“澤スタート”を選択した61号車フェラーリはこの難しい路面状況のなか順位を3つ上げ、3場手に浮上する。
その後、徐々に雨量が減り路面が乾いていくと、澤は前を走るポルシェの1台を交わして2番手に。石川資章がドライブする70号車フェラーリのタイヤバーストによるアクシデントで、スタートから約30分後に導入されたSCランの最中には好タイミングでピットに戻りスリックタイヤでコースに復帰。クラス4番手でリスタートを迎えることに成功した。
リスタート後、地元の地の利を生かしてペースアップした澤は、フィジケラの駆る54号車フェラーリとともにフェラーリのワン・ツー体制を築くと、スタートから1時間50分過ぎにクラス2位でピットイン。スタートドライバーの役目を見事に果たしてみせた。
レース中盤は、澤から替わったモクが安定したペースでマシンを走らせていた。しかし、54号車フェラーリとトップを争うなかでGTEプロクラスのマシンと1コーナーで接触。車両にダメージを負うとともにドライブスルーペナルティを受けることとなってしまった。
終盤はエースのグリフィンが好ペースで周回を重ねるものの、乾いた路面状況ではライバルのポルシェとアストンマーチンのペースに分があり苦しいレース展開に。グリフィンはレース最終盤にフィジケラの駆る54号車フェラーリと白熱した6位争いを演じるも、ファイナルラップの最終コーナーで押し出される形となり、クリアウォーター・レーシングは最終的にクラス7位でチェッカーを受けている。
■澤圭太「表彰台を争っていた感覚と現実との差に失望した」
レース後、最後のWEC富士を戦い終えた澤は「『終わっちゃいました』っていうのが正直な感想です」と言葉をこぼした。
「今回は地元レースでもあり、チームからも発表があったとおり、僕が世界選手権のドライバーとして“自分の庭”とも言える富士スピードウェイを走るのは最後になるという想いでレースを迎えました」
「予選アタックもWECに参戦して以来、初めて任せてもらうことができました、18人居る(GTEアマクラスの)アタックドライバーの中で、同じフェラーリ488 GTEをドライブするフィジケラにも勝って6位のタイムを出せた。渾身のアタックができました!」
決勝のふり返りでは「スタートを担当して序盤の難しいコンディションのなかでクラス2番手まで上がれて、レースでの力強さと確実なレース運びという自分の持ち味を、冷静に100%発揮できたと自負している」とコメント。
「途中で接触とドライブスルーペナルティがあったりして後退しましたけど、チームの計算ではあれがなくても4位が精いっぱいだったそうです。それでも、僕は表彰台圏内でのレースをしていたと感じていたので、最後の壮絶だけど6位争いという映像を見ながら自分たちの感覚とはかけ離れた位置でのレース結果に失望しました」
「ウエットのような難しいコンディションのなかでは、バランスの良いフェラーリ(が有利)。しかし、完全なドライ路面になると、ポルシェやアストン勢にスピードで及ばない部分も露呈した内容だったと思います」
■「もう一度乗るつもりだったのに……」
「しかし、現地に観戦に来ていただいた多くの支援者とゲストのみなさんに、恥じない熱い走り、そして日本に居るとなかなか見られない、世界選手権のレースを内側からお見せできたこと。そこで魂を焦がして戦っている僕の姿を見て頂けたことは本当に良かったです」
レース途中、2度目のドライブに備えていたところ、チームから「澤はもう規定の時間を乗ったからもう乗らないよ」と伝えられ拍子抜けしたという澤。
「まさかスタートから一気に2時間近く走って、自分の役割が終わったとは思っていなかったです。僕のなかではもう1度出走する心づもりだったので『あ~、あれが僕のWEC富士最後の走りだったのか……』という気持ちでしたね」
「長きに渡ってレースを戦ってきましたが、まだなお自分の中で成長を感じ、良い走りができるという感触があるなかで、長年一緒に戦ってきたこのクリアウォーター・レーシングの体制で富士を走るのが最後になってしまったことが本当に悲しいです」
「最後になるであろうWEC母国戦でヘルメット越しに見る富士スピードウェイの景色は本当に素晴らしかった! 来年以降のレース活動については決まり次第改めて発表しますが、まずは誇りを持ち胸を張ってWEC最後の地、上海へ向かいたいと思います」