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『HWA』としてのフォーミュラE参戦は、メルセデスのワークス参戦と同義。2018-2019シーズンは「ステップ・バイ・ステップ」で学習

2018年10月24日 13:11  AUTOSPORT web

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メルセデスのワークスチームとしてフォーミュラEに参戦するHWA
12月にサウジアラビアで開幕戦を迎えるフォーミュラE(FE)の「シーズン5(2018-2019)」。フランスのe.damsと組んで参戦するニッサンの他、BMWもワークス体制で2台のマシンをグリッドに並べる。

 これで、インドのマヒンドラから、DS(プジョー・シトロエングループのプレミアムブランド)、アウディ、ジャガーと自動車メーカー6社がしのぎを削るシリーズとなる。さらに2019年終盤に開幕予定の『シーズン6』からはポルシェとメルセデスが参戦し、まさに世界的自動車メーカーの戦いの場となるFE。

 これまで10チーム20台で争われてきた同シリーズに、今季から11番目として新規参入するチームがある。『HWA RACELAB』のチーム名でエントリーするのは、AMGの創設者が設立し、DTMのチーム運営やF3エンジン開発でメルセデスのモータースポーツ部門ともいえるHWA社のチームだ。メルセデスのモータースポーツ部門を統括するウルリッヒ・フリッツ氏に、FE参戦について聞いた。

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──まず単刀直入にうかがいますが、シーズン6にはHWAがメルセデス・ワークスの名前でFEに参戦するという理解で正しいですか?

「そのとおりです。まず『HWA』として参戦し、シーズン6からのワークス参戦の準備を進める計画です。メルセデスとして参戦する前に、可能な限りのことを学習する目的です」

──ほぼワンメイクのマシンであるFEで、独自開発が許され、マシンパフォーマンスを大きく左右するパワートレインはヴェンチュリ・チームからZF製ユニットの供給を受けていますね。準備段階とはいえ、メルセデスが他社のコンポーネンツを使用するのは『らしくない』と感じますが……

「我々が『メルセデス』として参戦するからには、初戦から充分な競争力がなければなりません。そして、たとえ1年目でも、シーズンとしても成功を収めなければなければならないのです。そのために実績のあるパートナーとしてヴェンチュリを選択し、緊密に協力して開発を行っています」

「現状では、HWAがヴェンチュリのカスタマーチームと言う位置づけですが、我々のノウハウを元に彼らも学習していますし、マシン開発にも協力して取り組んでいます。最終的には彼らの競争力が上がることが、我々の成績にもつながるわけですから。正確に言えば、HWAが単純にヴェンチュリのカスタマーと言うよりも、開発パートナーと言うべきですね」

──ところで、今、なぜFEへの参戦を決めたのですか?

「自動車業界全体において電動化がどんどん重要性を増しており、メルセデスも今後様々な『EQ』(電動化)モデルを投入する計画です。そのような環境の中、我々の(電動化における)技術力を幅広い層に披露する場としてFEを選択しました」

──とはいえ、市販車であるEQモデルと、次世代のモータースポーツともいえるFEとの間に技術的な結びつきはどの程度あるのでしょう。

「FEで使用するテクノロジーは(レースと言う)非常に限られた目的のためなので、量産車用技術との間には異なる部分が多いことは事実です。とはいえ、レースと言う厳しい環境の下で培われた技術が量産車にも役に立つ部分はあると思います。今、具体的に言えることはありませんが、その可能性を否定はしません」

──現状のマシンとチームについてはどう感じていますか?

「必要な事を学びながらステップ・バイ・ステップで進んでいますが、順調だと感じています。1年目の目標は現実的にならなければいけませんが、与えられた環境のもと、チームは非常に良い仕事をしています。今シーズン開幕までには、準備は整うでしょう。しかし我々にとっては、とにかくシーズン6に充分コンペティティブでいることが一番の目標です。もちろん、今シーズンにポイントをたくさん獲得できればそれに越したことはありませんが、現実的にはなかなか厳しいと思います」

──DTMでお話しをうかがった時には、「メルセデスが出る限り、どのカテゴリーでも勝たなくては意味がない!」とおっしゃっていましたね。では、シーズン6にメルセデスとして参戦する際の目標は?

「先ほどもお話しした様に、今シーズンにHWAチームとして参戦するのはシーズン6に向けて最大限の準備をするためです。もちろん、レースをする以上、優勝を狙っていますが、シーズン5では現実的になる必要もあります」

「過去4年間FEに参戦してきたチームは皆プロフェッショナルです。一方、我々は新規参入者であり学ぶべきことたくさんがあります。従って、今シーズンは苦労を覚悟しています。でも、来季には競争力がある状態で戦えると思います。もちろん、シーズン6の目標はチャンピオンシップ獲得です!」

──シーズン6のメルセデスは、今のF1におけるメルセデスの様であるということでしょうか。

「あくまでスポーツですから『絶対』はありません。しかし、我々はそれを目指しています」

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 インタビュー中、「学習」や「現実的」という言葉を頻繁に使ったフリッツ氏。DTMの現場で見せる自信に満ち溢れた口調にはなかった慎重さや謙虚さが感じられた。この取材後にマクラーレンF1のストフェル・バンドーンの加入が明らかになったように、現役F1ドライバーをヘッドハンティングすることからも、メルセデスにとってFE参戦はメーカーとしてそれだけ重要なプロジェクトであるということの証なのだろう。まずは今シーズン、HWAがどう戦うか、同じマシンを使用する先輩チームのヴェンチュリとの比較をしながら見ていくのが分りやすそうだ。