トップへ

「けもフレ」制作のヤオヨロズ、今後アニメスタジオとして何を目指す? 新作「ケムリクサ」は? 福原Pインタビュー

2018年10月23日 19:53  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「けもフレ」制作のヤオヨロズ、今後アニメスタジオとして何を目指す? 新作「ケムリクサ」は? 福原Pインタビュー
アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.4 ヤオヨロズ

世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。


ヤオヨロズ 代表作:『けものフレンズ』『みならいディーバ』『てさぐれ!部活もの』『直球表題ロボットアニメ』

フリーソフト「MikuMikuDance(MMD)」を使った3DCGアニメ作品『直球表題ロボットアニメ』などで存在感を示し、2017年の大ヒットアニメ『けものフレンズ』で一躍注目を集めたアニメーション制作スタジオ・ヤオヨロズ。たつき監督という突出した才能を抱え、2019年には新作TVアニメ『ケムリクサ』の放送も控えている。

今回、ヤオヨロズを設立した取締役であり、たつき監督とともに『けものフレンズ』を大ヒットに導いた福原慶匡プロデューサーにインタビューを敢行。
新進気鋭のスタジオ・ヤオヨロズの歩み、そしてたつき監督の新作『ケムリクサ』について話を訊いた。
[取材・構成=細川洋平]

――つばさレコーズを大学4年生で立ち上げるなど、もともと音楽業界で活躍されていた福原さんですが、アニメ業界に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?

福原P
2009年ぐらいにトラブルが立て続いて仕事に対する意欲がなくなっていた時期があったんです。その時にたまたまアニメを勧められて見てみたらすごく興味が湧いて、それでアニメの仕事をしてみたい思いました。
ずっと音楽の仕事をしていたのでアニメと接点はなかったのですが、アキバ系の案件をやっていればチャンスは巡ってくるかなと思い、アイドル番組やボーカロイドのプロモーションをしていた時にジャストプロ代表の寺井禎浩さんと再会したんです。

――寺井禎浩さんといえば、つんく♂さんとお仕事をされたりと一時代を築いてきた方ですが、福原さんがアニメ業界に入る前からご面識があったのですね。

福原P
大学4年生のころに一度お会いしているんです。
それで再会した時に「福原くん、一緒におもしろい事やろうよ」と言っていただいて、それで一緒に作ったのが『直球表題ロボットアニメ』(2013年)でした。

(C)直球表題 ロボットアニメ-STRAIGHT TITLE-STAFF
寺井さんが資金調達を行い、僕はニコニコ動画などで活躍しているMMDクリエイターに声をかけていきました。
この作品に関する記事が日経エンタテイメントに載ったことがきっかけで、日本テレビさんから「何かアニメをつくりましょう」と声がかかり、『てさぐれ!部活もの』(2013年)を作りました。
たつきくんとはコミケで知り合って以来、ずっと一緒に何かつくりたいと思っていたのですが、この時正式に誘った形です。

――ヤオヨロズ設立も同時期ですが、どのような意図があったのでしょうか。

福原P
それまで僕も寺井さんもそれぞれ違う会社から出資して同じものを作っていたんですけど、例えば請求書の処理の際に「これはウチ、これはソッチ」という風にややこしくなるんです。
だったら会社をつくって一緒にしたほうが何かと都合がいいだろうと。

それと、アニメファンの方はアニメスタジオの“ブランド”を重視する面もあるので、どこが作っているのかよく分からない状態ではなく、感情移入できる対象を作ろうという意図もありました。


――音楽からアニメへ移られて、業界の違いからくる苦労はありましたか?

福原P
アニメでは、設立したてのスタジオならまだしも、ある程度力のあるスタジオも放送回を落としてしまうぐらい過酷なところがあります。
経験もないし畑も違うのですごく大変でした。とくにアニメは1作品つくるごとに心身共に持って行かれます。音楽だと、無理をすれば3ヶ月あればCD1枚作れてしまいますが、アニメはどうしても1、2年はかかってしまう。
そういう背景もあり僕は去年、つばさプラス(現つばさレコーズ)の代表を退任し、完全に軸足をアニメに移しました。

→次のページ:ヤオヨロズはたつきを中心にしたスタジオへ

■ヤオヨロズはたつきを中心にしたスタジオへ

――『けものフレンズ』が一躍ブームになる以前にも、『てさぐれ!部活もの』『みならいディーバ』といった他のスタジオにはない作品群が業界でもかなり目を惹きました。
設立当初、ヤオヨロズはアニメ業界にどんな形でアプローチしていこうと考えていたのでしょうか。

(C)てさぐれ!製作委員会
(C)(※ネタバレ注意)最終回は生でライブやるかも委員会
福原P
別に「ロックな姿勢で攻めていこう!」と思っていたわけではなく、その時々の自分たちができる最大限をしてきただけなんです。後発スタジオですし、人数もコストもできるだけ抑えて。
『直球表題』が「ロボット」を扱ったのは口パクがないからですし(笑)、その時の自分に必死にできることを探して、その中でおもしろいものを目指してやっていました。
今思えば、音楽業界で培った「お客さんがこうしたら喜ぶだろうな」という“読み”の部分はアニメにも流用できていたんだと思います。

今、ヤオヨロズはたつき監督という“クリエイター”を中心にしたスタジオになっています。
クリエイティブ方面はたつき監督がすべて見てくれています。ビジネス面は寺井が見ていているので、僕は両者の架け橋という役回りです。

今後、ヤオヨロズはたつき監督の作りたいものを具現化するためのスタジオという形を取ります。

――たつき監督が関わらない作品はどうなるのでしょうか。

福原P
ヤオヨロズを使わない、ということですね。たとえば僕の色が出るような作品の場合は、ジャストプロ名義でプロデュースしていく形になると思います。

――いわゆるスタジオジブリと宮崎駿さんのような関係性でしょうか?

福原P
他のスタジオの事を正確にわかっていませんがそうなのかもしれません。たつき監督のような強烈なタレント性を持っているクリエイターはそうそういないと思うので、この形がベストだと考えています。


――ジャストプロとヤオヨロズの関係性はどういうものなのでしょうか?

福原P
アニメの企画部分を担当するのがジャストプロ、クリエイティブを担当するのがヤオヨロズという形になっています。

ジャストプロ内には声優部門があり、系列会社として音響制作と声優俳優養成機関の運営を行うエスターセブンもあります。
巨大なコングロマリット(複合企業)を目指しているわけではないのですが、なるべくグループ内で完結できるような体制を作っています。

――製作委員会方式の影響もあり「1人のクリエイターの色」が出しづらい世の中にあると思いますが、ここまでのバックアップは意義深いですね。

福原P
僕も寺井も、ずっと音楽業界で生身の人間を扱ってきたんですよね。だから「作品」ではなくて「クリエイター」に寄り添ったつくり方をしてしまうんだと思います。

■「たつき監督はまさに『天才』という言葉がふさわしいクリエイター」

――福原プロデューサーから見て、たつき監督はどんなクリエイターですか?

福原P
そうですね……。音楽業界でも「天才」と呼ばれるような人たちと一緒に仕事をしてきましたが、たつき監督はまさに「天才」という言葉がふさわしいクリエイターだと思います。

――詳しく教えてください。

福原P
とにかくひたすら仕事をしているんです。「天才」というと何も無いところからポンとアイデアが浮かぶような人を想像しがちですが、そうではなく「尋常ではない努力をしているからなんだ」と気付かされました。
特にたつき監督は、脚本・絵コンテ・演出まで1人でやってしまうためなのか、脚本に疲れたら気分転換にモデリング、それに疲れたら今度は同人、それに疲れたら……と結局アニメしか作ってないじゃん! ってなるんです(笑)。


――アニメの息抜きにアニメを作る。それもひとつの才能とも言えますね。

福原P
才能と言ったら失礼になるぐらい努力をしています。
あと面白いのは、作品を好きになってくれる人のことを決して「ファン」と呼ばないんです。自分が楽しませるべき対象として「お客さん」と呼んでるんですよ。
自発的につくりたい作品があったときも、たつきくん自身の好みではなく、お客さんが好む絵を選択している。お客さんに満足してもらうために一切妥協をしないんです。

――プロデューサーである福原さんから「もうちょっとお客さんに寄せましょう」といった提案はないんですか?

福原P
何が作品やお客さんにとってベストなのか、たつきくんの方が考え抜いています、なので僕から言える事は残っていません。
プロデューサーとして、たつきくんに足りてないところをわずかながら僕たちがカバーする、ということぐらいですね

――ヤオヨロズのスタジオとしての特性をどう捉えていますか?

福原P
たつきくんがクリエイティブをすべて見ているので、フローを大きくさかのぼったりして作り直す事ができるところです。
例えば、ふつうのスタジオならあり得ないと思いますが、動画まで進んだ段階でコンテに戻ったりする。スタッフ全員に大きな負担はかかりますが、だからこそ納得できるものが作れているんだと思います。
スキルの高い人たちが少人数で、ものすごい量をものすごい速さでこなしている状態です。これは今の制作規模・スタイルだからできることですね。

――その体制は来年放送予定の『ケムリクサ』にも引き継がれているわけですよね。新作を作るにあたって増員などはしてないんですか?

福原P
『けものフレンズ』と比べると、ちょっと増えてるかな、というぐらいです。

――そのぐらいなんですね。

福原P
先ほども話した通り、人を厳選しているし、やっぱり志が合う人でないと大変な現場なので単純に増やせばいい、というわけではないんです。

→次のページ:『けものフレンズ』に続く新作として『ケムリクサ』選んだワケは?

■『けものフレンズ』に続く新作として『ケムリクサ』選んだワケは?
――新作『ケムリクサ』についても訊かせてください。たつき監督が率いる「irodori」によって2010年から2012年にかけて発表された同名自主制作アニメが原作です。どうして本作をTVシリーズ化しようと考えたんですか?


福原P
完全オリジナルでもよかったのですが、あまり間を置かずに作品を発表したかったんです。
また、原作ものである『けものフレンズ』はある程度世界観が出来上がっていましたが、僕としてはたつき監督が生み出す世界観や物語、脚本が面白いということを皆さんに知ってもらいたく、本作はそれに最適だと思いました。

この作品をやると決めた時、たつきくんは「これ、難しいんだよなあ…」とつぶやいていましたが(笑)、それぐらい一切手抜きができず、勢いで突破できるような作品ではないということです。今も悩みながらつくっています。

――あの『けものフレンズ』に続く新作として、ファンからの期待値はかなり高まっていると思います。

福原P
あらためて伝えておきたいのは、一旦ここ1、2年の記憶をみなさんの中から消し去っていただいて、「新人監督がオリジナルアニメをつくりはじめた」ぐらいリラックスして見ていただきたい、ということですね(笑)。

――(笑)。とはいえ、たつき監督によるオリジナル作品をTVシリーズとして放送することになったのは、『けものフレンズ』でたつき監督やヤオヨロズを好きになってくれたお客さんの後押しが大きいのではないかと思います。

福原P
そうですね。当初はクラウドファウンディングで新作やるか、くらいでしたから。ありがたい事に地上波でできることになりました。

■「たつき監督のお客さんは“イースターエッグ”一生懸命探してくれる」

――あらためて今お聞きしたいのは、あの『けもフレ』フィーバーはどうして起きたのかということです。福原プロデューサーはどう分析されていますか?

福原P
たつき監督のクリエイティブ性によるところも大きいのですが、やっぱりお客さんのおかげですね。しかも、すごく良いお客さんに恵まれました。

どんな作品でも何かしらこだわりを持って作られているはずで、そのこだわりが「イースターエッグ」のように作品の中に10個隠れているとしたら、普通はお客さんに1,2個見つけてもらえるかぐらいだと思うんです。

でも、たつきくんの作品を見てくれるお客さんは、そのイースターエッグを一生懸命探してくれて、さらに見つけ方を他の人に教えてくれるような方が本当に多い。『けものフレンズ』の最後の爆発的な広がりはまさにお客さんたちのおかげです。

それから作品を提供する側を飲食店に例えるなら、たつきくんのほうもお客さんが気持ちいいタイミングでスッとお茶を出す。
お客さんも「この店気持ちいいなあ」と感じる。その店は店長のたつきくんと少数のベテランスタッフによってこだわりが行き届いている。
これからもたつきくんが提供するものを楽しんでくれるお客さんと歩んでいけるといいなと思います。


――『ケムリクサ』にもイースターエッグが散りばめられていると期待してもいいでしょうか。

福原P
期待に応えられるように一生懸命開店準備をしています。

――福原プロデューサーからご覧になって、ヤオヨロズはどのようなスタジオでしょうか。

福原P
「クリエイティブ・ファースト」のスタジオでしょうか。
これは代表の寺井がいつも言うことなんですが、ヤオヨロズはクリエイターがやりたいことを実現できるスタジオ。それを掲げていますので。

――この取材企画の前に「日本のアニメクリエイターに何を聞きたい?」という事前アンケートを海外アニメファン300名に対して行いました。その中で一番多かったのが「素晴らしいアイディアはどのように生まれてくるのか」という質問です。どうお考えでしょう?

福原P
プロデューサーとクリエイターの役割を例えるなら、前者は「望遠鏡で遠くを見る」、後者は「顕微鏡で徹底的に細かく見ていく」ことだと思うんです。

たつきくんもひとつのものを丁寧に見続ける気質があり、我々と物事を見るフィルターが全然違うんです。
そのフィルターは小さい頃から培われてきたところも大きいとは思いますが、育てていくこともできるはずなので、クリエイターを志すのであれば、たくさんいいものを見てそのフィルターを育てていくのがいいと思います。

たつき監督の場合、徹底的に「アニメ作りをする」ことをやり続けているから生まれたフィルターを持っている。「あれぐらいの努力をしたら、きっとおもしろいアイデアが出るんだろうなぁ」という説得力があります。

僕はプロデューサーとして、彼が迷った時に望遠鏡を持って「あそこへ向かおう」とちゃんとゴールを指し示せるようなパートナーの役割を果たしていければと思っています。。

――『けものフレンズ』では、お客さんの応援が一大ムーブメントへと繋がりました。「クリエイターとお客さん」という観点で、お客さんが出来ること、「こんな応援をしてくれたらうれしい」といった希望があれば教えてください。

福原P
作品は世に出した瞬間からはお客さんのものだと思っているので、好きに楽しんでもらればそれが何よりです。
新作の『ケムリクサ』に関していえば、まずは作品をしっかりと見ていただきたいです。僕はネットの感想は気にして読んでいますし(笑)、お客さんにキャライラストとか描いてもらえるとすごく嬉しいんです。サークルのように、みんなで仲良く盛り上げてもらいたいですね。

ヤオヨロズは歴史も浅く、小さな規模のスタジオですが、それでも一定のクオリティーを持った作品を出し続けられるよう誠実にやっていくので、これからもぜひ応援していただけると嬉しいです。

◆◆
この連載記事では、インタビュー記事を読んでくれた“あなたが直接アニメスタジオに応援や感謝のメッセージを送れる”ファン参加型の企画を実施中!
アニメ!アニメ!もパートナーの1社で参画しているコミュニティ通貨「オタクコイン」内の企画で、この秋ローンチを予定のアプリと連動して行います。


オタクコインの最新情報をお届けする下記のメルマガに登録して続報をお待ちください。