TCRシリーズのプロモーターを務めるWSCは、多数のマニュファクチャラーが参戦する初のフル電動ツーリングカー・シリーズ『ETCR』を2020年にスタートさせると発表した。またそのラウンチイベントが開催されたスペイン・バルセロナでは『セアト・クプラ e-Racer』が初の公式デモンストレーション走行を披露した。
TCRヨーロッパ・シリーズの最終戦が開催されたスペイン・バルセロナのパドックで開催されたETCRのラウンチイベントで、WSC代表であるマルチェロ・ロッティは「ETCRはツーリングカー・レーシングの未来を開く」と、この新たな電動シリーズの成功に意欲を示した。同時に、この選手権はFIA公認サーキットのみで開催されることもアナウンスした。
ロッティ代表は「TCR規定の世界的な成功を受け、我々は2年ほど前から自動車市場の動向と新たなモビリティ時代への対応として、この野心的なプロジェクトに着手した。将来、必ず具現化するはずの新しい技術やテクノロジーに触れることで、モータースポーツ・コミュニティの教育や発展を目指している」と、プロジェクトの狙いを語っている。
「ETCRの車両は、ほぼTCR規定に準じたツーリングカーのシャシーに電動コンポーネントを組み込んだマシンになっている。これにより、これまでの技術的蓄積が活かせる車体側に、革新的な技術研究のプラットフォームの役割が加わることになり、モータースポーツがふたたびモビリティ研究開発の新たなパートを担う」
「これこそが、すでに数多くのマニュファクチャラーの興味を引きつける重要な要素となっているのだ」
クプラ・レーシングの開発ドライバーを務める元WTCC世界ツーリングカー選手権ドライバーのジョルディ・ジェネは、このバルセロナのラウンチイベント当日に初の公式デモンストレーション走行を担当。最初のETCR車両として基礎研究が続けられてきたフル電動の後輪駆動『セアト・クプラ e-Racer』のパフォーマンスを披露した。
「ご想像のとおり、このマシンのトルクはこれまでのどんなレーシングカーとも違う異次元の加速力を味わわせてくれる。WTCCでドライブしたTDI(ディーゼル)のセアト・レオンなんかと比べてもね」とジェネ。
「サウンドに関しても、コクピットに収まってドライビングをしている限り、これまで乗ったツーリングカーともそれほど変わらない環境だと言える」
■「最終的な目標はEVレースが内燃機関レースと変わらない面白さがあることを示すこと」
このETCR用クプラは、リヤアクスルに2基のモーターを搭載するツインモーター仕様となっており、最大出力500kW(680PS)を発生。さらにモータージェネレーターを活用した回生ブレーキシステムも備えている。
このEVマシンはベースとなったTCRスペックの『セアト・クプラTCR』に比べて現状で400kg程度車重が増えているものの、この強大なアウトプットのおかげで0-100km/h加速3.2秒、0-200km/h加速8.2秒というパフォーマンスを誇っている。
ロッティはすでにいくつかの世界的な自動車メーカーの幹部と「真剣な話し合いを行った」としており、ETCRはヨーロッパやアジアなどの地域選手権を開催する前に、インターナショナル格式の国際選手権からスタートさせることを目指している。
クプラ・レーシングは約2年前からこの電動ツーリングカーの開発をスタートさせており、TCRシリーズの創設時にワンメイク車両の『セアト・レオン カップレーサー』がTCR規定の“メートル原器”になったときと同様に、このEVツーリングカーが新たなETCR規定のスタンダードを担うことを示唆した。
「我々の最終的な目標は、電気自動車のツーリングカー・レースが現在の内燃機関モデルのレースと変わらない面白さがあることをファンに示すことだと考えている。技術的な観点からは、クプラがこのプロジェクトと新シリーズの創設に大きな役割を果たしてくれていることを強調しておきたいと思う」
2020年の本格的シリーズ開始までの18カ月間、クプラ・レーシングは引き続きエネルギー回生やマネジメントの分野を中心に、研究開発を続けていくとしている。