トップへ

静の有村架純と動の戸田恵梨香 『中学聖日記』『大恋愛』2人のヒロインは恋への勇気をくれる

2018年10月23日 12:12  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 この秋の連続ドラマは、理性と倫理観でがんじがらめになって疲れ気味の大人に揺さぶりをかける恋心を描いた恋愛ドラマが好評だ。


参考:『中学聖日記』で異例の芸能界デビュー、新人・岡田健史の素顔 「人生で一番うれしかった」


 大石静オリジナル脚本で話題の『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)は、若年性アルツハイマーを患う医師・北澤尚(戸田恵梨香)と元小説家の間宮真司(ムロツヨシ)の純愛物語。自分に相応しい婚約者がいながら、真司に惹かれ大胆にアプローチするヒロインの尚を、戸田恵梨香が理性をも吹き飛ばす魅惑的な表情で演じる。


 『中学聖日記』(TBS系)では、非の打ち所がない婚約者がいながらも10歳年下の教え子に惹かれていく教師を有村架純が演じる。どちらのヒロインも仕事に責任を持ち、常識や道徳心を備えて真面目に生きてきた女性だが、純粋な恋の力に心を動かされていく。


 本能に逆らうことなくまっすぐ恋に走る戸田恵梨香と、教え子の素朴で無垢な想いに戸惑う繊細な受け身の演技を見せる有村架純。常識や古い価値観に縛られ、恋愛どころか仕事や人間関係で身動きがとれなくなりそうな私たちに、忘れていた大切な何かを思い起こさせてくれる。奇しくも同じ事務所の先輩・後輩の2人が、王道のラブストーリーを新鮮かつドラマチックに盛り上げる、真逆のタイプの女性を演じる2人が何とも魅力的だ。


 戸田恵梨香が医師の役を演じるとなると、3rdシーズンまで続き、劇場版も大ヒットした『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズ(フジテレビ系)の緋山美帆子役を思い出さずにはいられない。緋山美帆子は救命救急フェローとして経験を積み、産科医としての専門性を高めるために周産期医療に取り組んだが、本作で彼女が挑むのも婦人科専門、レディースクリニックの医師だ。


 決断力があり、どんどん前に進んでいく強気な女性という共通点はあるが、『大恋愛』のヒロイン尚は、挙式を1ヶ月後に控えた新居への引っ越しの日に引っ越し会社で働く真司と運命的に出会い、恋愛感情を抑えることができなくなる。戸田自身も当サイトのインタビュー記事で「難しい役」だと語っているが、衝動的に真司の家に向かったかと思えば、大胆な言動で彼を翻弄。潔さと繊細さの絶妙なバランスで真司の懐に入っていく。若年性アルツハイマーの症状を自覚するようになって、自分自身とどう向き合えばいいのか、理性では割り切れない局面を迎える。


 ムロツヨシとの息の合った掛け合いは2人を待ち受ける悲劇を前に切なくもあるが頼もしい。『大恋愛』というタイトルに相応しい広がりのある、大きくて強い愛の物語を予感させるのである。


 一方、『中学聖日記』のヒロイン、聖役の有村架純は、映画『ビリギャル』(2015年)で偏差値を上げるために奮闘する女子高生、映画『ナラタージュ』では高校時代の教師との恋愛に悩む女子大生など、生徒役はさまざま演じてきたが、今回初めて教師役に挑む。しかも、教師という職業に夢を抱き、理想の教師となるべく教壇に立つ初々しさは、聖に恋する黒岩くん(岡田健史)でなくても放っておけない甘やかな魅力を放つ。


 本作の場合、教師と中学生の禁断の恋ということで、「ありえない」と批判的な声があるのは事実だが、その非現実性の中に純粋な夢だったり、憧れだったり、尊いものが潜んでいることもある。そもそも、純粋な愛情は儚く、崩壊しやすいものだ。だからこそ、美しかったりもする。そんな儚くて危うい愛情に戸惑いつつも、現実的に踏みとどまろうとする健気さ。動ではなく静、受け身の芝居でより輝くのは彼女自身の包容力からくるものだろうか。


 倫理的で真面目な人ほど他人に対しても自分に対しても厳しく、生きづらさを抱えている。そんな厳しい目を持つ大人が見ても、応援してくなるヒロインを繊細に演じる有村架純。彼女が見つめる先にあるもの、彼女は何を求めていくのか、今後の展開も静かに見守らなければという気持ちにさせられる。


 実際に禁断の恋愛に足を踏み入れるのはリスクがあり、危険が伴う。頭では分かっていても気持ちが動いてしまうから人は恋愛に悩むのであって、その恋愛の面倒で厄介な部分を肯定してくれるヒロインに勇気づけられる人も多いはずだ。(池沢奈々見)