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慰謝料650万円「借金して払って」 不倫相手の妻からの脅し、職場にもバラされて

2018年10月23日 09:42  弁護士ドットコム

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不倫相手の妻から「高額な慰謝料」を請求されているという女性から、弁護士ドットコムに相談が寄せられました。


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女性は職場の上司と4カ月間不倫関係にありましたが、その妻に不倫がバレ、「550万の慰謝料に100万の調査費用、弁護士費用」を請求されます。何度も謝罪し、「大金すぎて払えない」と伝えましたが、「借金して払え」と言われたそうです。


さらに「念書にサインしなければ今からバラしに行く」と脅されため、応じることに。しかし、その後、職場に不倫をバラされた上、上司も妻に対して350万円を支払っていたことがわかりました。


4カ月間の不倫に対して、夫とその不倫相手にあわせて900万円もの慰謝料を請求したり、職場に不倫を知らせたりした妻の行動に法的な問題はないのでしょうか。加藤寛崇弁護士に聞きました。


●900万円の慰謝料は明らかに高額

ーー妻の行動には、どのような法的問題があるのでしょう


「(1)不倫によって支払うべき賠償額、(2)念書の有効性、(3)相手が職場に不倫を告げたことの責任が問題になります。順番に検討しましょう。


まず(1)の賠償額についてです。不倫による慰謝料がどれくらいになるかというのは、よくある相談の1つです。慰謝料額で折り合いがつかない場合には裁判所が判決で決めるしかありません。そこで、判決になったらどうなるかを検討することになります」


ーー裁判所が決める不倫の慰謝料額は、どれくらいになるのでしょうか


「裁判官の感覚・価値観によって左右される面もありますが、おおよその傾向はあります(全ての裁判所における判決を網羅した調査は見当たらないので、完全に正確なものは存在しません)。別居・離婚に至らないケースなら100万円前後、別居して破綻したり離婚まで至っていれば150~300万円程度というのがおおよその傾向と思われます。


300万円を超える高額な慰謝料になったケースは、不倫相手が子どもを出産するまでに至っていながら謝罪もしていない事例、不貞だけではなく暴力行為などの有責行為もあった事例、複数の不倫相手がいた事例(配偶者に慰謝料請求した事案)などで、悪質性が高い場合に限られる傾向にあります。


これ以外に、離婚まで至った場合には、婚姻後の同居期間が長く、小さい子どもがいるようなケースの方が、慰謝料額が比較的高くなる傾向にはあります」


ーー高額になる場合はそれだけ理由が必要だということですね


「そうですね。諸事情との兼ね合いではありますが、一般的に言えば、特別の事情がない限り、550万円もの慰謝料請求は明らかに高額です。


また、慰謝料額はあくまで配偶者と不倫相手で共同して支払うものです。一方が支払えば他方の支払義務もその分なくなります。したがって、妻の慰謝料請求は合計900万円ということになり、これは、裁判所で認められる余地はほぼない金額です」


●念書は無効となる余地がある

ーー相談者は念書にサインをしてしまっています。この場合、念書の効果は絶対なのでしょうか


「念書を作らされた経緯からすれば、強迫により取り消しをすることも考えられますが、現実問題として、その経緯を証明できるかという問題は残ります。


とはいえ、裁判官から見ても明らかに不相当で高額な合意ですし、後に述べるように勤務先に告げるという違法な行為までされているので、きちんと争えば、念書が無効となる余地はあると思われます。


実際に、以下のとおり、明らかに不相当に高額な支払いを約束する書面が作成された事案において、裁判所が種々の理由で無効とした裁判例は存在します。


・合意した500万円の慰謝料を請求したのに対して、認定できる慰謝料額は120万円であり500万円もの合意は公序良俗違反で無効だと判断した事例(東京地裁平成17年12月15日判決)


・1300万円の支払を約束する書面は原告の要求を一方的に記載したもので、これに被告が署名押印しても和解契約を成立させたとはいえない、仮に合意したと見ても錯誤無効であるとして慰謝料300万円を認めるにとどめた事例(東京地裁平成18年2月22日判決)


・1000万円を約束した念書を心裡留保で無効として300万円認容した事例(東京地裁平成20年6月17日判決)」


●職場に不倫をバラす行為は、名誉毀損にあたることも

ーー職場に不倫を知らせる行為はどうでしょうか


「このような行為がなされたというケースをしばしば聞きますが、職場はあくまで労働を提供する先に過ぎず、私生活のことまで管理監督される筋合いはありません。したがって、不倫を職場等に通知される理由は存在せず、プライバシー侵害や名誉毀損に当たることはあります。


現実にも、このような通知がなされたことで、通知をした配偶者に賠償責任を認めた事例も存在します。


・不貞配偶者、不倫相手のいずれも官庁勤務の国家公務員であったところ、不倫された配偶者が、25人程度の国会議員の議員会館事務所に宛てて、不倫の事実等を知らせるファックスを送信した行為について、名誉毀損であるとして賠償責任を認めた事例(東京地裁平成28年10月17日判決)


・保険会社勤務の営業担当女性が営業先の会社の社長と不貞行為をしているとの通知を、当該女性の勤務先支社長宛に送付した行為について、賠償責任を認めた事例(東京地裁平27年6月3日判決)


以上は一例で、他にも勤務先等への通知で賠償責任が認められた事例は存在します。どこまで裏づけられるかという問題もありますが、漫然と泣き寝入りする必要はないでしょう」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
加藤 寛崇(かとう・ひろたか)弁護士
東大法学部卒。労働事件、家事事件など、多様な事件を扱う。不倫絡みの事件は、地裁・高裁で結論が逆になった事件など、ユニークな事例もある。
事務所名:三重合同法律事務所
事務所URL:http://miegodo.com/