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藍井エイルが語る、『SAO』新EDテーマに込めた思い「私の人間性が詰まっている」

2018年10月23日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 約1年半の休養を経て、今年2月に活動を再開した藍井エイルが活発な動きを見せている。6月にはアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』オープニングテーマ「流星」と、ファンとの再会への思いを込めた「約束」を収録した14枚目のシングル『流星 / 約束』をリリースし、8月には活動休止前の最後のライブとなった2016年11月の日本武道館公演以来、約1年9カ月ぶりとなる日本武道館でのワンマンライブを開催した。そして、早くも復帰第2弾となる通算15枚目のシングルとして、藍井エイル×「ソード・アート・オンライン」シリーズの最強タッグによって制作された新曲『アイリス』がリリースされる。「お休みをして、自分と向き合って考えたことがあったからこそ出てくる言葉たちが並んでる」という彼女に、休養中の心境を中心に、新作に込めた思いを聞いた。


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■休養が“自分”という人間性を知るきっかけに
——少し前になりますが、復帰後初のワンマンライブとなった武道館公演を終えた心境から聞かせてください。


藍井エイル(以下、藍井):リハーサルが始まる前からすごい緊張感ある中で武道館のステージに向かっていきましたね。お休み中はすごくのんびりした時間を過ごしていたので、たくさんの人に会う機会もなかなかなくて。その中に、非日常が戻ってきたというか。それまでのゆったりしていた時間とは別の空気感を再び感じることができてよかったなと思ったし、待っていてくれた人がこんなにもたくさんいたんだっていう感動もありましたし、この日の為に準備してきたことを全てやりきったなと思いました。


——1年半のお休みはご自身にとってどんな日々でした?


藍井:自分と向き合う時間だったなって思います。自分のこと、意外と自分でわかってなかったんだなって思うことが多くて。


——例えば、どんな自分に気づきました?


藍井:すごい強がりの性格だったんだなとか、自分ルールが多かったんだなとか。しかも、そのルールは勝手に自分で作ったもので、柔軟にいろんなことを考えることができてなかったんだなとか、こうでなければいけないとか、縛りがすごくいっぱいあった中で生きてたんだなって思って。あと、同時に何かをやることが死ぬほど苦手だったんだなとか。そういう些細なことから、自分という人間性を知るきっかけになりましたね。すごく貴重な時間だったし、有意義に過ごせたのかなって思います。


——世の中には藍井エイルさんと同じように体調不良や育休などで一旦、お仕事をお休みする人も多いと思います。その期間は焦ったり、不安になったりしませんでした?


藍井:めちゃめちゃ焦ったりしてましたよ。忘れられちゃうかもって思ったこともあったし。今、焦っても意味がない、焦らないほうが一番いい休養が取れるっていうことがわかってても、なかなか考え込んじゃって、眠れなくなっちゃう日もあって。そういうときは、ひとり旅で青森に行ったり、ヨガをやったり、ギターを弾いてみたりとか、いろんなことに挑戦しながら、ゆったりとした時間を過ごすようにしてましたね。仕事と離れつつも、仕事と向き合うっていう、難しいけど絶妙なバランスでいると、不安定な心も少し楽になったりしてました。ずっと仕事をしてきた人って、仕事から離れることへの恐怖がすごい強いと思うんですけど、私は仕事してる自分じゃない自分と向き合って、新しい発見ができたからこそ、形にできるものもいっぱいあったなって思ってます。ニューシングルのカップリング「Liar」の歌詞にも書きましたけど、それこそ〈必要なパズルのピースだった〉なっていうことがわかりました。


——悩みや葛藤の真っ最中にいるときはなかなかそう思えないんですよね。


藍井:そうですね。私も割り切るのはすごく難しかったし、考え込んじゃうことも多かったんですけど、そういうときはとにかく外に出ました。興味のあること、仕事以外で一番やりたいことはなんだろうって探して。仕事をしてない自分と向き合って、見つけるというか。


——仕事以外で一番やりたかったこと、楽しかったことってなんでした?


藍井:やっぱり青森旅行ですね。


——海外旅行に行こうとは思わなかった?


藍井:最初は沖縄でライセンスをとって、スキューバをしようと思ったんですよ。……これもお休み中に気づいたことですけど、私はコミュニケーション能力が高いと思ってたんですよね。でも、ある日、犬の散歩に行った時に、知らない飼い主さんに「こんばんは」って言われても、目が合わせられなくて。おどおどしながら、「こんばんは」って言いつつも、知らない人と話すのは苦手なんだって気づいて。だから、いきなり沖縄への一人旅はちょっと敷居が高いなって思って、青森の白神山地っていう世界遺産に行って、一人でのんびりしてました。温泉入って、ご飯食べて、ずっと一人、みたいな。そこから、ちょっとずつ人と会う頻度が上がっていく感じで。


——歌ってない自分に対してはどう感じてました?
 
藍井:正直、価値がなくなっちゃったかもって思ってました。ご飯を作ろうとしても、みんなは30分くらいで作れるものを、要領が悪すぎて、1時間半とかかかっちゃって。あと、収納も下手というか、綺麗に並べることができなくて。今、思えば意味不明なんですけど、収納がうまくできなくて泣いたりしてたことがあって。どうして自分は、こんなにいろんなことができないんだろうって本気で悩んだりしてましたね。あと、お休み中はお家にいる時間が長かったので、ドラマを観たりしてたんですけど、うまく聞き取れなくて。頭に入ってこないんですよ、セリフが。だから、同じ回を7~8回観て、ようやくわかってくる感じで。これじゃ、全話見るのは無理だなって思ったりして。結果的には、日本のドラマでも字幕ありにすると理解ができたんですけど、当時は、本当にいろんなことができない自分にびっくりして。でも、そうやって欠けてる部分がいっぱいある私をいろんな人たちが支えてくれたからこそ、藍井エイルっていう形を作ることができてたんだって感じたし、改めて感謝だなって思いましたね。


■ちょっとずつ自信が持てるようになった
——ボーカリストとして、歌うことと離れてみて感じたことは?


藍井:実は自分という楽器の使い方がわからなくなってしまって。それまでは、自分の歌に関して、あんまり疑問点を持ったことがなかったんですね。だから、自分の正しい声色がどれかわかってなくて。違う発声や違う体の使い方になってることにさえ気づいてなかったので、気づいた時には、もう違う発声の仕方になってしまっていて。その癖がなかなか治らなくて。


——どこで気づいたんですか? 歌い方が違うっていうことに。


藍井:家族でカラオケに行った時に、自信満々で『どうよ!』って聞いたときに、「全盛期よりはちょっと落ちてるね」って言われて。最初は家族の思い込みだよって思ってたんですけど、自分の歌を歌えなくなってしまっていて。1曲、歌いきれなくなってしまったんですね。自分が歌えていた曲を歌えなくなってしまった時に初めて、出来てたことができなくなったっていう壁にぶつかって。今までそんなことを経験したことがなかったので、その壁がすごく厚く、高く感じられたし。衝撃だったので、ものすごいショックだったし、焦ったし。どう鍛えていけばいいのかもわからなかったんですよね。体のどこを使って、どういう風に鳴らしていくかがわからなくなってしまって。


——以前は無意識にやってたことですよね。


藍井:そうです。なんで歌えてたのかもわからなくて。休養前の最後の武道館ではぶっ続けで歌ってたのに、カラオケで30分歌っただけで、もう声がガラガラになっちゃって。何が悪いのかもわからなくて。ずっと迷路の中を彷徨ってる感じだしたね。こんなにすぐに歌えなくなっちゃうのかって思いました。


——そこで諦めなかったんですね。歌いたくないと思ったりはしなかった?


藍井:1回、歌うのはもう辛いって思ったんですけど、だんだん出口が見えることによって、また歌うことが楽しいっていうところに戻ってこれたっていう感じですね。仕事をしてない自分に対しては、できないことを嘆くのではなく、今日は何ができたか、自分が褒められるものを考えていくことでちょっとずつ自信が持てるようになって。歌に関しては、とにかくボイトレとカラオケを続けて。少しずつ、出口が見えてきてっていう感じでしたね。取り戻すのに結局、1年以上かかってると思います。


——復帰後第1作『流星 / 約束』のレコーディングはどうだったんですか?


藍井:自分の出来る限りの事は出し切ったけど、まだ不安はありましたね。自分の歌を信じられるかって言われたら、その時は、私の精一杯のものを出してはいるものの、歌に対しての不安はまだありました。だから、レコーディングは何度もなんども重ねて、結構、時間がかかっちゃって。最初は、これで合ってるかなっていう答えあわせをしている自分がいて。これはよくないなと。自信を持たないと歌にも影響が出ちゃうので、途中からは吹っ切って、これだ! っていう感じで歌ってました。自分との戦いでしたけど、久しぶりにレコーディングってこういう感じで進んでいくんだっていう感覚を取り戻すきっかけになったなって思います。


——歌に対する不安はどこかで払拭された?


藍井:武道館の時に3曲目まで死ぬほど緊張してたんですけど、そのあとくらいに、なんかこう、なんとも言えないスイッチみたいなものが入って。全然うまく説明できないんですけど、これだ!っていう感覚だけがあって。その瞬間、肩がストンと落ちたというか。ずっと上半身が力んでた感じは気づいていたので、ヨガを思い出そうと思って。耳と肩の位置を遠ざけて、リラックスしようと思ったんですね。その、リラックスの形を作った時に、急に、見えているものの、狭い感じがしてた視野が一気に広がった感じがして。その時に、改めて、二度目の『ただいま』って思える瞬間がありましたね。


——エイルさんを覆っていた膜が割れたのかな。


藍井:うん、そういう感じでした。自信とか、不安な気持ちを過去においていけたという感覚がりましたね。


■今思えば、全部がプラスになってる
——そして、早くもニューシングルがリリースされますが、これまで何度もタッグを組んできたアニメ『ソード・アート・オンライン』(以下SAO)のEDテーマになってます。


藍井:またSAOの曲を歌わせてもらえるって思ってなかったので、再び歌えるって聴いた時にすごい嬉しかったです。実はちょっと秋アニメを調べてたんですよね。SAOがある! って思って。


——あはははは。チェックしてたんですね。


藍井:そしたら、まさかの歌わせてもらえることになったので、すごく嬉しかったですね。私にとっては、本当に藍井エイルを作り上げてくれたアニメと言っても過言じゃないくらい密に関わらせてもらっていて。ただ、今まではOPが多かったんですけど、今回は初めてのEDなんですね。しかも、今までは割とアップテンポで、デジタル感の加わったバンドサウンドだったのに対し、『アイリス』はラテンの四つ打ちみたいな感じの楽曲になっているので。今までみんなが持ってたSAOのイメージとは違う楽曲になってるんじゃないかなと思っていて。実はつい先ほど、EDの映像を見せてもらったんですけど、アニメ制作の方が楽曲とぴったり当てはまるような絵にしてくれていて感激しました。


——この曲の“僕”と“君”はどんな二人ですか?


藍井:ユージオっていうキャラクターをモチーフにしてますね。ユージオは“青”がテーマカラーになってるんですよ。だから、私はそこに勝手に親近感を覚えていて。本当は青い薔薇なんですけど、青い花っていう大きな括りにした時に、いろいろと花言葉とかを調べてたら、菖蒲=アイリスっていうお花の花言葉に“希望”ってあって。自分が尊敬する大切な人が自分に勇気や希望を与えてくれたように、自分からもその人に勇気や希望を与えることができたらいいなっていう気持ちを込めた歌詞になってますね。


——復帰第2作はご自身にとってはどんな1枚になりました?


藍井:私の人間性が溢れているものが出来上がったのかなと思ってます。私がお休みして、自分と向き合って、いろんなことを考えた時間があったからこそ出てきた言葉たちが並んでいるなって思ってて。「アイリス」は尊敬する大切な人に向けての言葉だし、「Daylight」も、二人三脚で同じ方向を向いて歩いていかないとその光には届かないっていうテーマになってて。“対みんな”ではなく、“1:1”という近い距離感で書けたのも、自分と見つめ合う期間があって、自分という性質を知ったからこそだと思うんですね。「Liar」も自分自身に嘘をついて、かっこいいフリをしたり、自分の弱いところは見ないフリをしたりとか、そういう、自分で自分の首を締めちゃうというか。強がりな嘘つきな人がテーマになってる曲なんですけど。


——それはご自身の内面とは別ですか?


藍井:一部ではありますけど、お休みするまで気づいてなかった部分だと思います。お休みをする前は自分はすごい強い人間だと思ってたし。弱い部分は絶対に人に見せちゃいけないっていう考え方で、マイルールがすごく多かった。頼りない感じでいちゃいけないとか、○○しちゃいけないっていう考えが強かったんですけど、不自由な状況を自分で作るような偏りはあんまり良くないんだろうなってことに気づいて。人に頼ったりとか、できないことを相談したりとか、全然悪いことじゃないのに、自分で自分のことを締め付けていた部分があった。でも、「Liar」では、君と一緒だったら、狭いビルに囲まれた小さい青い空でも、自由に飛び回ることができるかもしれないっていう前向きな完結をさせてて。過去の自分がこういう気持ちになったこともあるし、強がってたことも、今思えば、全部がプラスになってるよなっていう内容なので、まさに、私の人間性が詰まったシングルになってるかなと思います。


——今年はかなり精力的に活動しましたが、これからはどう考えてますか?


藍井:今のところライブは武道館しかやってないんですけど、やっぱりライブが好きだなって再確認したので、いろんなところに行ってライブがしたいですね。踊ってみたり、ギターを弾いてみたり。エンタメ感溢れるショーのようなライブを作っていきたいし、とにかく、どんどんライブをやっていきたいなっていう気持ちでいっぱいですね。頑張ります!(永堀アツオ)


※レーベルの意向により初出時と原稿の内容に変更がございます。訂正してお詫び申し上げます。