2017年秋の東京モーターショーでABBフォーミュラE選手権(FE)へのワークス参戦を発表してから約1年。ついにニッサンのマシンがサーキットを走った。12月15日にサウジアラビアで開幕する“シーズン5”に先立ち、合同テストが行われたスペインのバレンシア・サーキットで、ニッサン・モータースポーツ・ディレクターのマイケル・カルカモ氏に話を聞いた。
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―― いよいよニッサンのマシンが走り始めました。いきなりですが、シーズン5の目標は?
「何を学ぶか、についての目標は立てていますが、順位に関する目標は立てていません」
「素晴らしい実績のあるチーム(e.ダムス)とパートナーシップを結んでおり、多くの優秀なエンジニアが居ます。ですから、最大限の努力をして競争力のあるところをお見せしたいとは思っています」
「しかしながら、レースでは何が起こるか分かりません。また、今日走り始めたマシンはまったく新しい『Gen2』(ジェンツー=第2世代)です。経験のあるチームもゼロからのスタートです」
「従って、順位にこだわるのではなく、(シーズン5では)まず何を学ぶかを大切にします。継続的に開発を行い、改善し、正しい方向に向かって着実に前進していくことが目標です」
―― パートナーといえば、日産自動車は先ごろe.ダムスの株式を取得しましたが、このチームとの関係はルノーが組んでFEに参戦していた昨シーズンまでと比べて変わったのですか?
「そのとおりです。私たちはFEへの参戦にあたり、ひとつのチームとして統合することがとても大切だと考えました」
「お互いが大きな投資を行い、情報を共有し、意思決定に参加して、それぞれの持つノウハウや力を結集させることが重要なのです。モータースポーツに限らず、どんなスポーツでも、また会社でも、ベストな組織はベストな選手やスタッフ、経営陣から構成されています」
「そうした最良な組み合わせを両社でつくり出すための方策のひとつとして(株式取得という)決定に至ったのです。我々がe.ダムスの役員会のメンバーでもあるわけですから、以前(ルノー時代)よりも関係は密接なものになっています」
■現代のニッサンワークスは、“多様性”が強さの秘訣?
―― メカニカルな開発だけでなく、そうしたビジネス面といったいろいろなステップを経て今日に至ったわけですが、そもそもなぜFEに参戦することになったのですか?
「ニッサンは電気自動車(EV)の世界的なセールスリーダーだからです。ですから、モータースポーツにおいてもそれを活用し訴求したいと考えたからです。会社全体のEV事業計画の一環としての決定です」
「当社には『ニッサン・リーフ』という誰もが購入できるアイコン(ニッサンEVの象徴)があるのです。そのことを、より多くのみなさんに訴求したいと考えています」
「また技術面でも、我々の持っているEVに関するユニークなノウハウをレースに活かすことができると考えたのです。そしてもちろん、モータースポーツからも学ぶものはあり、それを量産車にも活かしていきます。会社としての方針、技術の方向性とモータースポーツ活動がマッチしたプロジェクトなのです」
―― とはいえ、ピットには日本人のエンジニアがいらっしゃらないようです。FEのプロジェクトには、どんな分野で、どのくらい日本のニッサンとニスモが関与していのですか?
「レースオペレーション(チーム運営)に関しては、e.ダムスのこれまでの経験を活用するとともに、経験あるスタッフを確保しています。一方、(日本の)ニッサンおよびニスモはスーパーGTなど、既に多くのカテゴリーに参戦しています。従って、チームの拠点はヨーロッパに置いています」
「開発に関してはニッサンとe.ダムスとの間で情報交換を行っています。我々はEVの量産車メーカーとして、FEの開発にフィードバックできる知識を持っています。例えばソフトウェア。FEで重要な(電気)エネルギーの制御に関しては、非常に豊富なノウハウの蓄積があり、それをレースカーの開発に役立てます」
―― 日本人のエンジニアは、具体的に何人ぐらい関わっているのですか?
「製造業に携わる企業の多くが同じだと思いますが、開発プロジェクトについては生産車、レーシングカーを問わず、いかなる数字も開示していません」
「ただ、人材に関して言えるとすれば、(グローバルに)ニッサンのベストなエンジニアを最適なポジションに活用しています。ニッサンのようなグローバル企業にとっては、それがとても大きな力になるのです」
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開発からチーム運営まで、グループ全体を挙げて取り組むのが今の“ニッサンワークス”の姿ということらしい。
モータースポーツに限らず、すべてがグローバル化した現代、ナショナリズムよりもダイバーシティ(多様化)で勝負するニッサンが、アウディ、BMW、DS(プジョー・シトロエングループ)などの欧州勢とどう戦うかを楽しみにしたい。