K-tunes RC F GT3 終わってみれば、GT3車両がトップ6を独占。荒れることが予想されたスーパーGT第7戦オートポリスは、K-tunes RC F GT3が素晴らしい走りをみせて優勝を飾った。今回GT300クラスは展開が若干分かりづらいレースとなったが、上位陣に何が起きていたのか。エンジニアたちのコメントをもとに振り返ってみよう。
■序盤をリードしたJAF-GT勢に何が……!?
今回のスーパーGT第7戦オートポリスは、予選Q1での赤旗もあり、すでにアタックに入っていた31号車TOYOTA PRIUS apr GTやARTA BMW M6 GT3が、タイヤのいい部分を“使い切って”しまい、予選下位に沈んだ。一方で予選上位に入ったのはGAINER TANAX triple a GT-RをのぞけばJAF-GT勢で、特にHOPPY 86 MCはレコードタイムでポールポジションを獲得。その速さから、決勝でも優位かと思われていた。
予想どおりHOPPY 86 MCは序盤から首位を走り、それに坂口夏月が速さをみせたマッハ車検 MC86 Y's distractionと続く展開となっていた。しかしHOPPY 86 MCは、ピットイン後にペースを大きく落としてしまった。
「二輪交換を行ったのですが、その“場所”を失敗しました」というのはHOPPY 86 MCの土屋武士監督。HOPPY 86 MCは前輪二輪交換という作戦を採った。それまで序盤を担当した坪井翔がフロントタイヤを保って走っていたこともあったが、アンダーステア傾向があったため、前輪二輪か、左側二輪交換を迷った末、前輪二輪交換をチョイスしたという。
「そのチョイスをテーブルに載せたことが僕のミス。考え得る作戦だったけど、その準備がちゃんとできていなかった。ドライバーには申し訳ないことをしてしまいました。初めてやらかしました」と土屋監督は悔しがる。HOPPY 86 MCはパワーの面で“抜けない”ため、ポジションを守るための二輪交換だったが、その作戦の内容にミスがあったということだ。
ちなみに、後半スティントで松井孝允はアウトラップだったARTA BMW M6 GT3と接触しスピンを喫した。この件についてはパドック内でも「ARTA BMW M6 GT3はペナルティではないか」という声も多く聞かれたのだが、土屋監督は「ペナルティ? 出ない出ない」とARTAに非は無いと語っている。
「ARTAはアウトラップでタイヤが冷えていて、アンダーステアを出すのは分かっていた。でも孝允はもっと逃げていけばいいのに、1車線しか空けていなかった。だからあれはペナルティじゃない。ドライバーだから分かる」と土屋監督は特に抗議をする気もないようだった。
一方、マッハ車検 MC86 Y's distractionは四輪交換をチョイス。少々時間は多めにかかったが、それでも上位を狙えるポジションにはいた。ただ「後半のペースが上がらなかったですね」と山本智博エンジニアは語る。ドライブしていた平木湧也も「全然グリップがなかったです」と振り返った。前半スティントと同じタイヤだったにも関わらず悔しい結果となったが、まだ原因は特定できていないとのことだった。
また、3番手をうかがう位置にいたSUBARU BRZ R&D SPORTは、「やはりここは抜けないですからね……。僕たちは給油が長いので、ピットアウト後に抜けなかったのが痛いです」と山内英輝は振り返った。「僕が10号車(GAINER TANAX triple a GT-R)を抜けなかったのが悔しいですし、僕たちのクルマはそこが難しい。予選で前にいかないとダメです」と山内。
JAF-GT勢、特にGT300マザーシャシーとSUBARU BRZ R&D SPORTは、パワー面でこのオートポリスではオーバーテイクが苦しくなる。それ故のHOPPY 86 MCの作戦であり、SUBARU BRZ R&D SPORTの苦闘だった。予選で前にいくことには成功しつつも、コースのどこにいるかでガラリと変わるのがスーパーGTの難しさなのだ。
■GT3勢でも展開に差が。上位に来られたのは“抜けた”マシン
この苦しみを同様に味わったのは、ストレートがやや苦しいメルセデスAMG GT3勢も同様だった。まず大苦戦となってしまったのがグッドスマイル 初音ミク AMG。予選で前にいくために装着したソフトめのタイヤが決勝では苦しいことが判明し、早々にピットイン。コースの空いた場所を探って走ったが、セーフティカーのタイミング等にも悩まされ、19位という結果に終わった。
「ひょっとしたらスタートのタイヤで頑張って1ピットにした方が良かったかもしれないけど、タラレバだから。今回はうまく機能しなかった。ストレートが速いクルマは、こちらは2秒速くてもここは抜けないし、攻めた作戦をとらなければいけなかった」と河野高男エンジニア。
「明らかにハズしてしまった。チャンピオンを狙うチームが、チャンピオンを獲るために選んだ作戦だったけど、それにつながらなかった」
一方、同じメルセデスのLEON CVSTOS AMGは、フロントタイヤのみの交換をチョイス。途中「ピックアップに悩まされましたけど、たぶん大丈夫だったと思います(溝田唯司監督)」と12番手から追い上げを果たし、5位フィニッシュ。タイトル争いに踏みとどまった。ただこの作戦は、やはりHOPPY 86 MCと同様にポジションを優先したものだろう。
同様に追い上げをみせたのは、ランキング首位のARTA BMW M6 GT3だった。まさかの予選22番手からのスタートだったが、四輪交換を行いレースペースを優先し、4位フィニッシュ。タイトル争いを優位に運んだ。
「ピットストップ時間をとるか、レースペースをとるか迷いましたが、もともと(タイヤの)摩耗が厳しいコースですし、他の車両も厳しいと聞いていました。それならば速いペースで走った方が取り分があると判断しました。ストレートも速かったですし、オートポリスは抜きづらいですけど、MC等に比べれば有利でしたから」と安藤博之チーフエンジニアはふり返った。
そして「序盤からペースも良くて、ピットインを遅らせたかったなかで中山選手がずっといいペースで走ってくれました。四輪交換を行い、新田選手もペースが良かった。うまくいきましたね(成澤健二エンジニア)」というK-tunes RC F GT3が優勝した。
これに続いたのは「タイヤの温まりも良くて持ち込んだタイヤがよかったですね。アウトラップからペースよく走れた(佐藤公哉)」というリーガルフロンティア ランボルギーニGT3。僚友88号車が苦戦するなか、若手ふたりが速さをみせ、作戦も完遂。ふたりの評価は今回で大きく上がったのは間違いない。
また「本当に良かったです。今回はタイヤも厳しく、上にはいけないと思いましたが、いざ走ってみたら意外とタイヤがもった。ソフトめのタイヤで僕が行きましたが、大津(弘樹)もソフトでもって。クルマの特性もあるかもしれませんが、作戦もうまくいきました」と道上龍が語るModulo KENWOOD NSX GT3が3位に食い込んだ。
今回の結果を見て、これらのコメントをまとめて聞くと、タイヤに非常に厳しいと言われていたなかでうまくタイヤをもたせられ、高いペースを維持して展開にも恵まれたマシンが上位を占めた印象だ。
そしてその展開を引き寄せるべく、ストレートスピードがあり、オーバーテイクを決められるマシンが強さをみせたということだ。スーパーGT第7戦オートポリスは、パワーが少ないマシンには“味方しなかった”レースだったと言えるだろう。