トップへ

財産目当て、高齢の親を「囲い込み」…親族との面会妨害、やったもん勝ちの現状

2018年10月20日 10:51  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

高齢になった親の財産をめぐり、「囲い込み」と呼ばれるトラブルが増えている。親の面倒を見ている子どもが、ほかの親族との面会を妨害するというものだ。


【関連記事:父子家庭「母の役割」期待される少女たち、男親に苦悩も 知られざる「マザレス」問題】


弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも「母を連れた姉の所在がわからない。母が持つ4つの不動産のうち2つの所有権が移転している」「認知症の母が姉に連れ出され、別の有料老人ホームに入所させられた」などの相談が寄せられている。


トラブルを解決するにはどうしたら良いか。裁判所を使うのも1つの手だ。横浜地裁では今年6月27日付で、ある兄妹について囲い込みを禁止する決定が出ている。


共同通信(9月29日配信)によると、施設で暮らす認知症の両親に会おうとした女性が、兄から阻まれ、施設も面会を認めなかったというケースだ。女性が仮処分を申し立て、裁判所が兄と施設に対し、妨害をやめるよう命じたという。


囲い込みの実態について、家庭裁判所の「家事調停官」(編注:経験5年以上の弁護士が務める「非常勤裁判官」のこと)の経験がある加藤剛毅弁護士に聞いた。


●遺言書をつくらせたり、預貯金を使い込んだりするケースも

ーー囲い込みのケースを担当したことはありますか?


「さいたま家裁の家事調停官を4年間務めましたが、いわゆる『囲い込み』と思われる事案がありました。


兄弟の兄の方が母親を自宅に囲い込んだというもので、弟が母親に会いたい一心で、裁判所に『親族間紛争調整調停事件』として申立てをしたものです。


結局、相手方(兄)が期日に一度も出頭しなかったことから、調停成立の見込みがないものとして、不成立で終了となりました」


ーー正式な裁判には時間やお金もかかりますし、相手が調停に応じないと、手詰まりになってしまうこともありそうですね。ほかには、どんなケースがあるでしょうか?


「ほかにも、囲い込みと思われる事案はあります。具体的には、囲い込んだ親族(一般的には子)が、囲い込まれた親族(一般的には親)の預貯金を使い込んだり、自分に有利な遺言をつくらせたりということが多いと思われます。


このことで、遺言の有効性が争われたり、いわゆる使途不明金問題として、『不当利得返還請求訴訟』に発展したりと、相続開始後に紛争が顕在化することがよくあります」


●囲い込みでつくられたもの「無効」にするのは難しい

ーー遺言の有効性という話がありましたが、囲い込みをされるとどんな不利益が起こるのでしょうか?


「囲い込みによる遺言に不満があれば、一般的に『遺言無効確認請求訴訟』を提起することになります。しかし、遺言が無効とされるのは、かなりハードルが高いと思われます。


その場合、遺言が有効であることを前提に、遺留分(編注:配偶者や子どもなどが最低限もらえる金額)が侵害されていれば、遺留分の請求をすることになるでしょう。


また、生前に預貯金等を使い込まれた場合、相続開始後、相手方が被相続人から贈与されたことを認めれば、特別受益として、遺産分割協議または調停の中で扱うことができます。


ですが、相手方が認めなければ、別途、『不当利得返還請求訴訟』等を提起するしかありません。しかし、これも一般的には、立証のハードルが相当高いと思われます」


●早めの対処が肝心

ーー遺言書をつくられたり、使い込みをされたりすると厳しいわけですね。となると、囲い込みがわかった段階で、どう対処すれば良いでしょうか?


「私は実際に、横浜地裁の事案と類似した事案の依頼を受けたことがあります。認知症の診断を受けていたことは判明していたので、その財産を保全するため、家裁に後見開始の申立てを行いました。


当初、案の定、囲い込みをしている親族が後見開始に反対しました。その意を受けた施設の協力も得られなかったため、『後見開始相当』との医師の診断書が提出できず、審理は難航しました。


ところが後日、囲い込みをしている親族にも代理人が就いたため、その代理人の協力を得て、医師の診断書を家裁に提出し、後見人(利害関係のない弁護士)の選任に漕ぎ着けることができました。このため少なくとも、後見人選任後は財産の保全に成功しました」


ーー今回の横浜地裁の決定は「画期的」と報道されています。


「決定の詳細が不明のため、詳しくは述べられませんが、これまで裁判所は、このような事案については、慎重な判断であったと思われます。


私自身、ストーカーやDV被害者による面会禁止の仮処分などの話は聞いたことがありますが、逆に、面会の妨害禁止の仮処分というのは、今回の決定で初めて聞きました。その意味では、このような問題に対する一つの解決策として、非常に画期的であると思います」


●現状は「囲い込んだ親族」の協力が不可欠

ーー様々な事情はあると思いますが、財産のために行われる囲い込みは、何かしらの犯罪に該当しないのでしょうか?


「強いて現行法下で考えられるとすれば、長期間にわたり自宅から出さないなどの場合には、刑法の監禁罪が成立する可能性はあるとは思います。


ただ、実際には、おそらく警察は、親族間の紛争であれば民事不介入として、捜査・立件に至ることは考えにくいと思われます」


ーー現行法について、ここを改めるべきといった部分はありますか?


「前述の後見開始の申立てをした際など、囲い込んだ親族の協力が得られないと、後見開始の審判を出す要件である医師の診断書の提出が困難になります。


そこで、囲い込んだ親族が反対しても、必要性が認められれば、たとえば、本人が入居している病院や施設に対する調査嘱託の申立てを積極的に認めるなどの運用の改善が必要かと考えています」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
加藤 剛毅(かとう・ごうき)弁護士
代表弁護士・中小企業診断士、元さいたま家庭裁判所家事調停官、日本プロ野球選手会公認代理人。得意分野は、(1)中小企業の事業再生・事業承継支援、労務案件等の中小企業法務・経営支援、(2)相続案件全般、(3)不動産案件。

事務所名:武蔵野経営法律事務所
事務所URL:https://katogoki-lawyer.com/