2018年10月19日 11:02 弁護士ドットコム
交通事故にあって、示談したり、民事訴訟の確定判決を得たりしたあと、後遺症があらわれた場合、相手側から治療費は支払ってもらえるのでしょうか――。弁護士ドットコムに、そんな相談がいくつか寄せられています。
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たとえば、民事訴訟で、後遺障害の認定がされずに判決が確定したあと、体調がすぐれず、病院でみてもらったところ、その当時の医学ではわからなかった後遺症がみつかったとします。
すでに1度訴訟を起こして、判決を得ているので、『蒸し返し』のようにみえるかもしれませんが、本人からすれば深刻です。治療費は支払ってもらえないのでしょうか。交通事故にくわしい新田真之介弁護士に聞きました。
「まず、示談(和解契約)の場合、通常は『甲及び乙は、本件事故に関し、本示談条項以外に何らの債権債務のないことを相互に確認する』という条項が入っています。そのため、示談のやり直しを求めるのは、原則として困難です。
ただし、示談後に予想外の後遺症があらわれたような場合には、『契約当事者の確認し得なかった著しい事態の変化により損害の異常な増加が後日に生じたときは、先の権利放棄の約定はその効力を失う』として、示談後の損害について、請求を認めた判例もあります。(最判昭和43年3月15日民集22巻3号587頁。なお、左前腕骨複雑骨折にともなう不測の再手術や後遺症がその後発生した事例)」
判決確定の場合はどうでしょうか。
「民事訴訟法の一般的なルールとして、控訴や上告など、不服申立の手続きを除いて、いったん判決が確定したあとは、もう1度同じ内容の訴訟を起こすことは、原則としてできません。
不服があるからといって、いくらでも蒸し返しができてしまうと、裁判が最終的な紛争の解決手段にならないからです。
このように、ある判決が確定したあとに、一定の標準時における権利・法律関係についての裁判所の判断が、その当事者間において強制通用力を持つという効果を『既判力』といいます」
あとから、後遺障害がわかった場合でもやり直せないのでしょうか。
「交通事故による人身損害の事例では、ごく稀に、当時の医学水準ではわからなかったような後遺障害が、判決確定後に判明するというようなことも、理論的には想定されます。判例も、そのような場合にまで一切許されないとしているわけではありません(最三小判昭和42年7月18日民集21巻6号1559頁) 。
ちなみに、最近の裁判例(東京地裁平成29年10月25日・判タ1451号194頁)では、1度目の訴訟で後遺障害の主張をすでにしていた場合でも、その判決確定後に症状が悪化して、後遺障害等級が上がったという場合には、同じように訴訟提起自体は許される(既判力の抵触はない)としています。
ただ、結論としては、症状の悪化は交通事故によるものではなく、事故前からのもともとあった頸髄症が悪化したことによるとして、請求は棄却されています。
このように、理屈としてはありうるけれども、『当時は予想できなかった後遺症が発現した』ということを立証するのは、なかなか難しいのが実情です。
通常ほとんどのケースでは、事故直後に症状が最も重たく、時間の経過とともに軽減していくのが一般的とされていますから、『まったく無症状だったのが、事故から数年たって突然発症』するようなケースは、通常ほとんどありません。
しかも、事故と無関係の私病や加齢性の変化、心因的要因、また最初の医師の治療の不適切などさまざまな要因が絡むと、時間の経過とともに症状が悪化するようにみえることがあり、はたして事故と相当因果関係があるといえるのか、非常に複雑な問題になります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
新田 真之介(にった・しんのすけ)弁護士
交通事故(人身事故、物損事故、損害保険、過失割合)の訴訟・示談交渉を専門に取り扱う。特に、遷延性意識障害や高次脳機能障害、脊髄損傷などの重度後遺障害事件に注力。福岡県出身。東京大学法科大学院修了。
事務所名:新田・天野法律事務所
事務所URL:http://www.nitta-amano-law.com/