2018年10月17日 18:12 弁護士ドットコム
私立高校で警備員をしていた男性(68)が過重労働が原因で亡くなったとして、遺族が渋谷労働基準監督署に対し労災申請をした。遺族と代理人弁護士が10月17日、東京・霞が関の厚生労働省で会見し明らかにした。男性の次女は「『退院したら会社と労災で闘うから』というのが最期の言葉だった」と厳しい表情で語った。
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男性は、渡辺治さん(さいたま市大宮区)。2006年1月に警備会社「グローブシップ警備」(東京都中央区)に有期雇用の契約社員として入り、約4年前から東京都世田谷区内の私立高校で警備業務をしてきた。通勤時間は片道2時間半ほどだったが、「年金の足しに」と懸命に働いていたという。
夜間勤務中だった2018年2月7日午前2時半ごろ、急性心筋梗塞を発症し、「息が苦しい」と家族に電話して救急車を呼ぶことを求めた。その後、搬送され入院治療を受けていたが、ほとんど意識が戻ることはなく、4月2日に亡くなった。
私立高校では、もともと渡辺さんを含む3人が交代で勤務する形態だったが、2017年8月末でうち1人が休職となったため、それ以降は2人で交代しながら警備業務をする形態になった。業務負担は重く、1日の労働時間が20時間を超えることも。教員不在時に保護者が電話で伝えてくる「生徒の遅刻・欠席連絡」など、本来は学校職員が担当すべき業務についても担っていたという。
代理人が渡辺さんの労働時間を集計したところ、急性心筋梗塞が発症する前の1カ月間は「連続22日勤務」、その前の1カ月間には「連続16日勤務」、さらにその前の1カ月前には「連続20日勤務」だったことがわかった。
渡辺さんは再三、警備人員の増員を勤務先に求めたが、「適材人員がいない」と断られ続けたという。代理人の田中美和子弁護士は「今では会社は配置を4人に増やしている。いかに2人で回すのが過酷だったかわかると思う。他にも過酷な労働環境にいる方は相当数いるだろう。高齢者に配慮なく過重労働を課すのはすみやかに是正しないといけない」と話した。
渡辺さんの長女は「会社を許すことができない。人員増員の要望になぜ対応してくれなかったのか。会社の危機管理能力のなさが原因だと思っている」。次女は「父は『自分の身に何かあった時は労災だから』と常日頃から言っていた。『退院したら会社と労災で闘うから』というのが最期の言葉だった。その遺志を引き継ぎたい」と述べた。
グローブシップ警備の総務担当者は10月17日午後、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「詳細がわからず、いまのところお答えのしようがない」と話した。
(弁護士ドットコムニュース)