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SKE48卒業から3年 『まんぷく』松井玲奈が女優として成功できた理由を考える

2018年10月17日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 アイドルから女優へ転身して早3年、着々とキャリアを積み重ね、今や演技派女優の1人として数々の作品に出演する松井玲奈。今期のドラマでは遂にNHKの連続テレビ小説『まんぷく』にレギュラー出演することになり、同時に深夜ドラマ『ブラックスキャンダル』(読売テレビ・日本テレビ系)にも登場。陰と陽、全くの別キャラクターを演じ分け、バイプレイヤーぶりを見せている。


 松井と言えば、AKB初の姉妹グループであるSKE48を松井珠理奈と共に創成期から支えてきた1人。生徒会長を思わせる清楚なルックスや、ファンを大事にする姿勢が人気に繋がり、AKBの選抜総選挙では何度も上位にランクイン。また、乃木坂46に交換留学生として選ばれるなど、アイドル時代はファンと関係者から信頼が厚かった。そんな松井は本格的に役者の道に進むため、2015年8月にグループを卒業。元々SKEに入ったのは「お芝居とか舞台が大好きで、AKBは常設劇場があり、舞台に立って経験を積みたいなという気持ちがあって」と、活動前から女優に興味を持っていたことを2016年の『TOKIOカケル』(フジテレビ系)で語っている。


 松井はSKE卒業後、広末涼子や石原さとみなどが出演した若手女優の登竜門的舞台『新・幕末純情伝』の沖田総司役に抜擢。激しいアクションからキスシーンまで本格的な体当たり演技に挑んだ。それから、卒業後連ドラ初出演となった『ニーチェ先生』(日本テレビ系/Hulu)では、ストーカーの常連客役を務め、般若の面のような顔芸や、まくし立てるセリフ回し、酔っぱらってはぶっ倒れ、ゴミ箱をあさるなど、今までのイメージを完全に覆すような壊れた演技を披露し、視聴者に衝撃を与えた。


 SKE時代の『マジすか学園』(テレビ東京)のゲキカラ役で、残虐行為に快楽を覚える演技がハマっていたと一目置かれてはいた松井。『ニーチェ先生』では、福田雄一によるアドリブのような演出と、シュールな間の福田ワールドが絶妙にハマっており、あの清楚で可憐だった松井からは想像もつかない彼女の怪演には、この世界で生きていく覚悟が感じられた。


 また『荒川アンダーザブリッジ』や数多くの演劇を手掛ける飯塚健が監督・脚本を務めた『神奈川県厚木市 ランドリー茅ヶ崎』(MBS・TBS系)で連ドラ初主演を務める。松井は髪を短くしジャージ姿のバイト店員に扮したのだが、そこで見せた変わり者のオーナーや一癖ある客たちとの掛け合いは、実に痛快だった。


 『ニーチェ先生』『ランドリー茅ヶ崎』は松井にとって、それぞれ狂気と脱力系の笑いというコメディエンヌとしての才能を開花させた重要な2作品となった。今振り返ると、視聴者の見る目が厳しく、キャラが固定されかねない朝ドラなどではなく、評価の高い演出家の深夜ドラマで着々とキャリアを積みあげていったのは正解だったように思う。


 コメディエンヌとしての松井は、主に深夜ドラマや映画で知る人ぞ知る一面だっただけに、今年に入って話題になった月9ドラマ『海月姫』(フジテレビ系)での、アフロヘアの鉄道オタク“ばんばさん”役で、期待以上の声が多かったのも当然の結果だと言える。松井の演技を知る人にとっては、女優になって清楚なキャラを崩すような演技をしてきた松井が、この作品では逆に顔を隠し、最大の武器として美貌を晒すという、ある意味逆転の発想だったのが面白く感じられた。


 そして、松井が遠回りしてたどり着いた朝ドラ『まんぷく』では、日清食品を創業する安藤百福の妻をモデルにした主人公・今井福子(安藤サクラ)の学生時代の親友・鹿野敏子役に。主にドラマの息抜きパートとも言える福子とのガールズトークシーンで登場する。ラーメンを福子に紹介したのも敏子で、今後もドラマを和やかにする活躍が期待されるだろう。


 一方『ブラックスキャンダル』は、スキャンダルを捏造された元女優が整形し、芸能マネージャーとなり復讐する物語で、松井はそのマネージャーの復讐に協力する売れっ子のトップ女優という役どころ。本当に味方なのか、もしくは黒幕なのか、まだ素性が計り知れないミステリアスな役は、様々な役を演じてきた松井なだけに、展開が全く予想がつかない。


 今のアイドル界は卒業や解散のラッシュが続き、女優を目指す人も多いと思われるが、アイドルはその後の活躍に関して厳しい現実が待っている印象だ。松井は女優になることへの信念を曲げず、アイドル時代を否定することなく、そのキャリアを武器にしていることが成功に繋がっている。何年間も舞台女優を経験していたかのような錯覚さえ覚えるほど、この3年という短い期間に女優として新たな一面をいくつも見せ、自分のものにしてきた松井は、後輩たちの良いお手本になるような女優に成長したと言える。(本 手)