労働者を取り巻く環境は少しずつ変化をしている。たとえば、昔は電卓片手に帳簿の処理を強いられていたのが、今ではパソコン一つでさっさと処理できてしまう。その分空いた時間で、別の仕事に取り組むこともできるので、間違いなく仕事の能率は上がった。
でもその分、時間内にやれる・やるべき仕事量は増えていると思われるので、幸福な変化かどうかはわからない。むしろ、この変化によって仕事は大変になっていると感じる人もいそうだ。先日、2ちゃんねるに『昔の人って絶対仕事楽だったよな』というスレッドを立てた人も、同じような感覚を持っているのだろう。「『昔は大変だったんだぞ』みたいに言うオッサンいるけど、どう考えても今のほうが大変やろ」と書いている。(文:松本ミゾレ)
「効率的になった分、余った時間を潰すための仕事が増えた」
たしかに、昔より煩雑化した仕事は多い。コンビニバイトなんか、タスクはどんどん増えて対応できない人員もいるほどだ。それにサービス残業や過労死などのネガティブなニュースが話題になることも、昔より増えているように思える。実際、スレ主も
「効率的になった結果あまった時間潰すための無駄な仕事が増えた」
「ワイのとこなんかノー残業デーにみんな残業してるわ」
と書いている。
携帯電話によって「四六時中(会社と)連絡がとれるのはおかしい」とも言及している。職種によっては家で休んでいるのに火急の用事で呼び出しを受けることもある。だから彼が「おかしい」と唱えるのも無理はない。
ただ、なんでもかんでも今のほうが大変だと考えるのは、個人的にはどうかなぁという思いがある。だって携帯なんかなくても固定電話はあったし、FAXもあったし、火急の用に備えなければならない職種の人は、家で待機が原則だった。
それに、急な要求に応えなくてはならない仕事は今も昔も数多い。警察、消防、それから僧侶なんかも、急遽出かけるということがしょっちゅうだから、携帯があろうとなかろうと関係ない。
「見積もり手書きとか絶対やりたくない」「教師は今でもブラックだけど昔はもっと酷そう」
僕が「昔は昔で大変だったような気がするなぁ」と思っているのと同じく、このスレッドには似たような考えの意見もいくつか書き込まれている。その中から少しだけ、引用して紹介したい。
「ツールとかシステム整備されてないのはツラいやろ。回路図とか資料手書きやったりするし」
「見積もり手書きとかしてたんだろ。絶対やりたくねえ」
「設計士なんて3日徹夜で図面引かされたとか当たり前だったらしいな。まぁ今でも手書きがCADに変わっただけで徹夜でやらされてるが」
「教師は今でもクソブラックやけど昔はもっとひどそう。クラスの人数多いしパソコンなくて全部手書きやし」
などなど、色んな声がある。どれも納得できる内容だ。
対して反対意見には「昔は出張と言えば現地で一泊だったのに、今は新幹線日帰りで資料作成」といったようなものもあったが、その新幹線が開通したのも昔の人たちが必死で山をくり貫いたおかげ。
交通インフラやダムの建造なんてのは、今は数がだいぶ揃ってきたので頻度も低いが、昔はそこらじゅうでやっていたし、犠牲者も出ていた。それを思うとやっぱり、昔のほうが楽とは、言えないような気がしてしまう。バブル期には「24時間戦えますか」というキャッチフレーズの栄養ドリンクが流行ってたし。徹夜の作業は、内容こそ今と違えど昔から存在していたわけだ。そして、今の超ブラック企業も裸足で逃げ出すような体育会系の職場も、もちろんあった。
まあ、団塊の世代なんかは現代の若者に比べると、就職という一点において、苦労は格段に少なくて済んでいたようだけど。労働はいつの時代も苦痛なもの。仕事は昔も今もきつくて辛い。過去を思って羨むというのは、気持ちを萎えさせるだけだ。