2018-19年のWEC世界耐久選手権“スーパーシーズン”第4戦は10月14日、富士スピードウェイで6時間の決勝レースが行われたが、LM-GTEアマクラスでは、デンプシー・プロトン・レーシングの星野敏/ジョルジオ・ローダ/マッテオ・カイローリ組88号車ポルシェ911 RSRが2位表彰台を獲得。星野は世界選手権デビュー戦にして2位表彰台という結果を残した。
■『これテレビ映っているのかな?』余裕もみせた第1スティント
ネクサス株式会社の代表を務めるビジネスマンとして活躍するかたわら、国内のレースで腕を磨いてきた星野は、今回WEC富士戦にスポット参戦。長年ポルシェで活躍してきた経験を活かし、10月13日に行われた予選では、カイローリと星野がアタックし、見事LM-GTEアマクラスのポールポジションを獲得。一躍WECの世界にその名を知らしめた。
「レースウイークが始まる前はあまり期待していませんでしたが、昨日ポールポジションを獲ったことで期待されていたんだと思います」と振り返った星野だが、予選後、チームから「『スタートを担当しろ』と言われてビックリしましたよ(笑)」とスタートドライバーに任命された状況を明かす。
戦略を考えれば、混雑するスタートと序盤を乗り切り、速さをもつカイローリのスティントでスパートをかければタイムは稼げる。ただ星野はWEC初参戦で、しかも「雨でしょう? 『ウエットタイヤを履いたことない』って言ったら『とりあえず行けばいい』と言われました」とチームは星野にステアリングを託すと指示。星野もそれに従うことになった。
フォーメーションラップでは「あおられていた」という星野だったが、スタートを無事に決めると、後続を気にしながらクラストップを快走する。LM-GTEアマクラスのライバルたちの中にはプロもいたが、「いつの間にかいなくなっていました」というからペースの良さがうかがえる。
星野は途中、セーフティカーランの際にも「クラス首位を走っていたんですが、セーフティカーのときに首位のトヨタがピットに入ってしまったじゃないですか。それですぐSCのうしろになってしまって。『これテレビ映っているのかな?』なんて考えていました(笑)」と慣れ親しんだ富士で、余裕をもちながらウエットからドライに変化する難しいコンディションのなかで好走を続けた。
その後、無事にスタートドライバーの任を務めた星野は、ローダに交代。さらにカイローリと繋ぎ、ふたたび星野へ。今度はドライでの走行だったが、こちらも高いペースで周回をこなし、任務を完遂。後半、ローダのスティントでピット作業違反があったことから順位を落としたが、カイローリが追い上げ2位表彰台という望外の結果を残した。ピット違反がなければ優勝もあり得た。
■「仕事をしっかりこなせた」今後に向けても手ごたえ
「勝てると思っていたのでちょっと悔しいですね。でも気持ち良かったです。ポディウムの風景も日本とは全然違いましたよね」と星野は表彰式を終え、初めてのWECのレースを振り返った。
星野は世界選手権の挑戦こそ初めてだが、2015年にはドライビングアドバイザーを務める藤井誠暢とともに、フライング・リザードのアウディR8 LMSを駆り、デイトナ24時間に出場したことがある。ただ、そのときは「あの時は全然実力も経験もなかったです。怖いだけで終わってしまいました」と不完全燃焼に終わっていた。
しかし今回は、「コースを知っている面もありましたが、仕事をしっかりできた」と素晴らしい仕事ぶりをみせた。この星野の走りに、デンプシー・プロトン・レーシングからは「次の上海も出てくれ」と言われたという。
残念ながらWEC上海戦はスケジュールの都合で出られないため“お断り”となったが、「走ってみて、ブロンズカテゴリーのなかでは割といけるのかな……という自信はつきましたね。ミスもなかったですし」と星野自身も手ごたえを得たようだ。
「当然シルバーやゴールドのドライバーには負けてしまいますが、それぞれ役割分担がありますからね。良くできたレースだな、と感じています。役割をしっかりまっとうすれば結果が出る。面白いです」
今回好走をみせたことで、星野自身が「目標のひとつ」と掲げるル・マン24時間への確実な手ごたえを得た。「今回はたまたまスポット参戦でチャンスをもらいましたが、また機会があればWECは出てみたいと思っています。シリーズでは……資金の面もありますからね(笑)。考えたいです」と星野は濁したが、“目標”が目に見えるところに来たのではないだろうか。
“速いジェントルマンドライバー”は、世界的に見ても多くのチームでニーズがある。今回星野が活躍をみせたことで、星野の世界への挑戦が加速しそうな予感だ。