10月14日、トヨタの“ホームコース”静岡県・富士スピードウェイを舞台にWEC世界耐久選手権第4戦富士6時間レースの決勝が行われ、TOYOTA GAZOO Racingは7号車トヨタTS050ハイブリッドが優勝を収めると同時に僚友8号車トヨタTS050ハイブリッドが総合2位となり、2018/19年シーズン4戦目にして3度目のワン・ツー・フィニッシュを飾った。
前日の公式予選で中嶋一貴、フェルナンド・アロンソ、セバスチャン・ブエミ組8号車のタイムを上回る速さをみせた小林可夢偉、ホセ-マリア・ロペス、マイク・コンウェイ組の7号車が予選失格となり、14日の決勝を8号車のポールポジションと、LMP1クラス最後尾の8番手からスタートすることとなったトヨタ陣営。
今戦はライバルのノンハイブリッドLMP1カーとのマシン性能差を埋めるために課せられる“EoT(イクイバレンス・オブ・テクノロジー=技術の均衡)”がアップデートされ、以前に増して厳しい戦いとなることが予想された。しかし、迎えた雨まじりの決勝レースでは、ウエット路面のなかフロントタイヤをモーター駆動させる四輪駆動の特性を活かして8号車はスタートダッシュに、また7号車もすぐさま総合2番手まで順位を上げることに成功する。
そんななか可夢偉がステアリングを握る7号車は、いち早くスリックタイヤへの交換を行なったことで一度はポジションを落としたものの、スタート30分過ぎに導入されたセーフティカー(SC)によって上位陣とのギャップを埋める。SC出動から約30分後のリスタート後には、路面の乾燥にあわせてドライ用タイヤにスイッチするマシンを尻目にすでに温まったタイヤで好ペースを維持し、ついにポールスタートの8号車の前に出ることとなった。
その後、2台は3番手以下を引き離しながら僅差での争いを続け、8号車が3回目のピットストップで一貴からブエミにスイッチすると、直前まで10秒ほどあったギャップが1秒以下にまで縮まった。
それでも可夢偉は2時間半にわたる力走の末に、順位を死守したままコンウェイにバトンタッチ。後を受けたコンウェイがふたたび7号車を引き離すと、以後、2台のTS050ハイブリッドはドライバー交代をしながら約20秒差を維持したままレースを進め、最後はアンカーを任された可夢偉の駆る7号車がチームメイトに11.4秒の差をつけてトップチェッカーを受けた。
この勝利によってTOYOTA GAZOO Racingは、WECチーム選手権で2番手につけるレベリオン・レーシングとの差を14ポイントへと拡大することに成功する。また、ドライバーズ選手権でもランキング首位の一貴、ブエミ、アロンソ組がライバルとの差を拡げ、さらに今大会を制した7号車の可夢偉、コンウェイ、ロペスは8号車組と13ポイント差のランキング2位に浮上している。
■小林可夢偉「この優勝が今後の転換点になることを祈る。けれど、今はただ今日の勝利を喜びたい」
「“地元”富士で最高のレースをご覧いただくことができ、そして素晴らしい結果を挙げることができ、本当にうれしく思っています」と語るのは村田久武チーム代表だ。
「今大会は我々にとって非常に重要で、目指す目標はファンのみなさまや関係者の方々の前でワン・ツー・フィニッシュを果たすことでした。めまぐるしく変化する天候や路面状況に苦戦しながらも、チーム全員の頑張りによってその目的を果たすことができました。今日のチームの働きをとても心強く思っています」
2016年のWEC富士戦以来、2年ぶりに優勝を果たした可夢偉も「母国でのレースで、2度目の優勝を果たせて最高の気分です!」と勝利を喜ぶ。
「週末をとおして本当に頑張ってくれたスタッフのおかげです。残念な結果となった昨日の予選失格から、全力で追い上げての勝利です」
「ぼくらがずっと待ち望んできた、表彰台の頂点にふたたび立つことができました! これが残りのシーズンに向けての転換点になることを祈りますが、今はただただ今日の勝利を喜びたいです」
可夢偉のチームメイトで、今回の勝利が自身のWEC初優勝となったロペスもまた喜びいっぱいのコメントを寄せた。
「自身のミスから失った失意の予選の後だけに、トヨタとともに挙げた自身のWEC初勝利は、最高の気分だよ!」
「この勝利はマイク(・コンウェイ)と可夢偉、チームスタッフ、そしてトヨタの東富士研究所の関係者やTMGのみんなのチームワークによるものだ。チームにとってとても重要なこの一戦で勝つことができ、この喜びは簡単には言葉に表せないよ」
■アロンソ「セーフティカーの不運はあったが、その後7号車に迫る速さがなかった」
一方、2位となった8号車の一貴は「ドライコンディションでは7号車のペースが良かったので、我々8号車にとっては難しいレースになったのと、セーフティカーの導入タイミングが不運でした」とレースを振りかえった。
「しかし、それもレースですし、気にしていません」
「今日は2位に終わりましたが、チームが選手権を戦う上で良いレースができたと思います」と統括した。
また2008年以来、10年ぶりに富士スピードウェイでの公式戦に臨んだアロンソも「良いレースだった」とコメント。
「僕たちの8号車はセーフティカー導入のタイミングが悪く、レース序盤に築いた1分20秒のアドバンテージを失ってしまったんだ」
「でも、これもレースさ。今日の僕らには7号車とバトルするのに十分な速さがなかったということだと思うよ」
「彼らを祝福する。彼ら3人はは週末をとおして速かったし、勝者に値するはずだ。また、チャンピオンシップを争う上ではドライバー、マニュファクチャラ―いずれの選手権でもリードを広げることができ、全体的に見ればパーフェクトな週末だったんじゃないかな」
今回のレース前、TOYOTA GAZOO Racingのドライバーたちには豊田章男社長から「富士の道を思いっきり駆け抜けてもらいたい」「最後まで楽しんでバトルをしてほしい」というメッセージが送られていたという。
このメッセージに対し、選手らは決勝前に「思いっきりレースをしてきます!」と応え、実際に最終盤までどちらが勝ってもおかしくない戦いを披露した。
今回のWEC富士で豊田社長の来場は叶わなかったが、決勝レース後に出されたコメントには「チームのみんなの想いは画面で見るクルマからも十分に伝わり、離れていても心ひとつに戦うことができました。応援くださった方々にもTOYOTA GAZOO Racingの想いが伝わったレースだったと思います。ドライバーのみんな、今回も『思いっきり走ってくれて、ありがとう』」という謝意が綴られていた。