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『ロックマン11 運命の歯車!!』レビュー:8年越しの再起動を果たしたシリーズの新たなる一歩

2018年10月14日 11:52  リアルサウンド

リアルサウンド

 10月4日、満を持してカプコンの看板作品とも言える横スクロールアクションゲーム『ロックマン』シリーズの最新作『ロックマン11 運命の歯車!!』がNintendo Switch、PlayStation 4、Xbox One、PC向けに発売された。


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 前作『ロックマン10 宇宙からの脅威!!』が発売されたのが8年前の2010年のこと。その後、シリーズはニンテンドーDS向けに派生作『ロックマンゼロ』のシリーズ四作を一つのパッケージにした『ロックマンゼロ コレクション』を発売し、同年暮れには派生作『ロックマンDASH』の三作目をニンテンドー3DS向けに発表するなど、シリーズの更なる飛躍と発展が期待された。


 だが、様々な不運や、正式な制作承認が下りてない状況で告知が出されるなどのトラブルも影響してか、同作は翌年に発売中止が決定。その流れに沿うかのように当時、PlayStation 3、Xbox 360用に制作が進められていたダウンロード配信専用の新作『メガマン ユニバース』もお蔵入りした。唯一、スマートデバイス向け新作『ロックマンXover(クロスオーバー)』が2012年に配信されるも(※2015年3月31日にサービス終了)、それ以外のシリーズ展開はグッズが主軸になり、家庭用ゲーム機向けの新作は一本も発売されない、冬の時代を迎えることになってしまった。


 特に2012年はシリーズ生誕25周年の記念すべき年だったのだが、お祝いムードはそこになく、コアファンの間では、新作が出ない事への嘆きと怒りが蔓延する、とても残念で、悲しい気持ちになる年だったことを筆者自身、今も忘れずにいる。


 だが、2016年にニンテンドー3DSなどで発売された『ロックマン クラシックス コレクション』から少しずつ、シリーズ再開に向けた動きが出始める。


 そして迎えたシリーズ生誕30周年を間近に控えた2017年12月上旬、待望のシリーズ最新作『ロックマン11 運命の歯車!!』が全世界に向けて発表。長き冬の時代を経て、遂にシリーズは本格的に再始動……もとい、再起動することになった。


 制作陣も大きく一新され、まさに新たなロックマンの一作目として誕生した今作。結論から言えば、紛うことなきロックマンであり、傑作。そして、シリーズ屈指の入門編に適した作品でもあった。


22年越しの現行準拠ロックマン
 全8体のボスがそれぞれ待ち構えるステージを自由に選んで攻略し、主人公ロックマンの攻撃手段を増やす「特殊武器」を獲得しながら、宿敵Dr.ワイリーの野望阻止を目指す。基本的な内容は毎度お馴染み、ステージクリア型の横スクロールアクションゲームだ。


 今作の見所は沢山あるが、その中で象徴的なものを二つ取り上げるとまずグラフィック。前作と前々作『ロックマン9 野望の復活!!』は、ファミコンの新作をコンセプトに、色数の少ないドット絵を基調とした、懐かしさとトレンドに逆行する姿勢が滲み出た作風だったが、今作は3DCGを採用。2006年にPlayStation Portable用ソフトとして発売された『ロックマンロックマン』以来の採用で、ナンバリングシリーズで遡れば、『ロックマン8 メタルヒーローズ』以来、なんと22年ぶりの現行準拠路線である。そのため、映像表現はこれまでになく派手になり、最新のロックマンをアピールした作風になっている。また、その路線に沿って、強力な溜め攻撃こと「チャージショット」、隙間を潜り抜ける「スライディング」のアクションも、前作、前々作のブルース専用から一転し、復活を遂げている。


 3DCG採用に当たって生じるのが視認性の問題だが、この点も今作は丁寧にデザインされており、背景のコントラストを弱くし、ロックマンを始めとするキャラクター、足場や仕掛けはハッキリ目で追えるよう輪郭線を描き、色彩も強めに設定する工夫が凝らされている。そのため、キャラクターの立ち位置を見失う、背景に溶け込んで足場や仕掛けが確認できない、敵の攻撃が見えなくなることがほとんどなく、違和感なくゲームに集中できる。最新の技術を用いるといって派手さを求めず、ゲームとしての遊びやすさを第一とした、過去のロックマンと変わらぬ遊び心地を維持した仕上がりだ。地味ではあるが、なかなか凄いデザインになっている。


創意工夫の面白さとリプレイ性を引き立てる「ダブルギアシステム」
 そして、もう一つに「ダブルギアシステム」。「パワーギア」、「スピードギア」のロックマンの能力を一時的に強化するシステムが導入され、これまでにも増して多彩なアクションが繰り出せるようになっている。


 特に「スピードギア」は発動することで周囲の動きを遅くし、高速で襲い来る敵、攻撃を確実に回避したり、連続ダメージを与えるといった、反射神経が求められる場面への的確な対応を行える、アクションゲーム初心者、苦手なプレイヤーにありがたい存在だ。


 このシステムの関係で、今作では随所でその活用が求められてくる。勿論、あえて使わずに挑むこともできるが、相当な反射神経がないと無傷突破は困難。正直、シリーズの大半をクリアした実力を持つ経験者すら悲鳴をあげるほどだ。


 しかし、それはあくまでも初見時の話だ。経験を重ねると、ギアに頼らない突破が自然と行えるようになっていく、確かな上達を感じられるバランス調整が図られている。


 また、各ギアの使用を強要されることが一切ないのも極めて重要且つ、見事な部分。明らかに使わないとダメに見える場面すら、実はギア未使用で乗り越えられる「解答」が用意されている。


 何より、より華麗で大胆な攻略法を編み出せる、創意工夫の面白さがあるのもこのシステムの魅力だ。始めは効果の分かりやすさから「スピードギア」に頼りがちだ。だが、より強力な攻撃を可能にし、「特殊武器」の効果範囲を広げる「パワーギア」の秘めたる強みに気付けば、そちらを積極的に使っていくようになる。


 中でも特殊武器との組み合わせは効果絶大だ。普通にやるなら一体一体、細々と処理していく敵の群れをまとめて一瞬で片づけられたり、ボスにも倍以上のダメージを与えることができてしまう。


 ロックマンというゲームは、プレイヤーの創意工夫によって自由で多彩な攻略を実践できるのが大きな魅力だ。今作のギアシステムはその魅力を研ぎ澄ませ、これまで以上にプレイヤーの性格が現れる攻略を楽しめるようになっている。


 導入の代償として、シリーズ特有のシンプルさは損なわれたが、結果的にエンディングを迎えた後でも新鮮な気持ちで楽しめるリプレイ性が非常に高くなっており、「何度でも遊べるゲーム」を体現している。それはロックマンというアクションゲームの持つ最大の強みであり、30年の歴史を誇る味だ。そこにフォーカスした内容に今作は完成されているのである。


柔軟な難易度と使い勝手の増した救済機能
 難易度にも注目したい。ロックマンと言えば、難しいアクションゲームの印象が強く、今作もいつも通りに手強い。しかしながら、前作にも実装された難易度選択機能が続投し、プレイヤーの腕に応じた遊び方が楽しめるようになっている。


 特にシリーズ初心者向け「ニューカマー」の調整は素晴らしい。穴に落ちたり、触ると一発でやられてしまうトゲに触れてもやられないという親切設計にしつつ、経験を積んで上達すれば、気持ちよくステージを進めていける可能性を想起させ、再プレイ欲を刺激するバランスになっている。「アドバンスド」以降の難易度になると残機制が設けられるほか、敵配置、ボスの攻撃パターンと速度も変わり、違った手応えを味わうことができる。特に最高難易度「エキスパート」のボスは俊敏な動きで攻めてくるも、回避チャンスがちゃんと設けられた芸術的な調整になっているのが圧巻だ。


 換金アイテム「ネジ」を支払うことで攻略の手助けとなるアイテムを購入できるショップシステムも実装されているに加え、今回はネジが非常に集まりやすく、いわゆる金の力に任して押し切る攻略に完全対応しているのも嬉しい。しかも、全難易度共通。一番難しい「エキスパート」すら、その方法で乗り切れる余地が設けられているのだ。


 何より、これまでにも増してショップが利用しやすくなったことを高く評価したい。このシステムはゲームボーイの『ロックマンワールド4』より導入されたものだが、アイテム購入に消費する換金アイテムが集まりにくく、その恩恵にあずかるのが困難を極めた。『ロックマン7 宿命の対決!』の時は稼ぎポイントの存在もあって使いやすかったが、『ロックマン9』と『ロックマン10』では再び集めにくくなり、救済機能としての使い勝手はイマイチだった。


 今回はどんどん集まっていくので、気兼ねなくその恩恵にあずかれる。この調整は見事で、ようやくショップシステムの魅力が開花した感じだ。なのでもし、なかなかクリアできないと思った時はガンガン活用することを推奨したい。クリアできればよかえろうなのだ。勿論、使わず挑むもよしである。


 ステージも今回、じっくり挑めばクリアまで10分以上かかるなど、ボリュームが増しているが、豊富な仕掛けと敵の配置の的確さもあって、適切なやり応えがある。何より、ここにもギアシステムと特殊武器の使い方次第で、クリア時間を大幅に短縮でき、難易度まで著しく下げられる「解答」が設定されているのが素晴らしい。


 とは言え、いささか密度を濃くしすぎた印象も否めない。今回は8体ボス全てのステージに中ボスが登場するのだが、これが非常に手強い。特殊武器を活用すれば一瞬で倒せる見所もあるのだが、どこかしら中ボスが登場しないステージがあっても良かった。


 また、標準難易度「オリジナルスペック」だと、再開地点と初期の残機数の少なさが逆に精神的負担となる。今作の密度なら標準難易度は再開地点多め、残機数やや多めの「アドバンスド」が適切だったのではないか。この辺は率直に言って、設定ミスを感じてしまう限りだ。


再起動一作目に相応しい完成度 新展開に期待
 サポートキャラクター「ラッシュ」をワンボタンで呼び出せたり、右スティックで特殊武器を瞬時に切り替えられるショートカットメニューを表示できる、オプション設定で「スライディング」をワンボタンで行えるようになるなど、今作は操作性、快適性も洗練されている。


 だが、セーブシステムだけ異様に不親切なのは気になる。前作のように、ステージクリア後にセーブするか、しないかの選択画面に移行しなくなってしまったのだ。あろうことか、その説明もなく、オートセーブと勘違いしやすい。なので、酷いと勘違いしたまま終盤まで進め、一旦ゲームを終えて再開したら最初からやり直しという事故に遭いやすくなってしまっている。


 ここは素直に旧作を踏襲すべきだった。折角、他の操作性などが洗練されているのに、ここだけ過去作よりも酷くなっているのは残念だ(ちなみに何の偶然か、3DCGを採用した『ロックマンロックマン』もこの方式だった)。


 他にもやり込み要素として用意された「チャレンジ」が上級者向けのコンテンツ中心なのも頂けないが、総じてロックマンシリーズ再起動の一作目としては盤石の仕上がりになっている。課題も多いが、「よくぞ、ここまで」と唸らせる完成度。シリーズの基本に立ち返ることに特化し、丁寧に進化させた傑作というに相応しい。


 反面、要素を絞り込んだなりの物足りなさも際立ってしまっているが、そこは次なる『ロックマン12』での進化に期待したい。だが、それ以上に今の時代ならではの「八人目のロックマン」が誕生して欲しいところだ。ロックマンエグゼ、流星のロックマンのような、今の世代に向けた全く新しいロックマンのことである。筆者はその時を心から楽しみにしている。此度の新作で、ロックマンの面白さが改めて示されたからこそ、思い切った新展開を見てみたいのだ。


 長くなってしまったが、素晴らしいロックマンを作り上げたカプコンの制作陣に大きな拍手と感謝の言葉を送りたい。そして最後にこの一言でレビューを締めさせて頂こう。


「おかえり、ロックマン!」


(シェループ )